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67、女王陛下との再会
ディートハルトの仕事は落ち着いたかと思えば、王城に寝泊まりすることが続いて、屋敷を留守にすることが多くなった。
たまに帰ってきても子どもたち――特にエミールが纏わりついて、あれこれと話をせがんだ。なのでイレーネと二人きりになることは少なく、だがそれが不満だというように明け方まで、時に昼過ぎまで抱いてまた仕事へ出かけていく日々が続く。
イレーネは別にそれでもいいかな、と思った。最近は使用人にも慣れて、何よりエミールとヨルクと一緒に過ごす日々が愛おしい。
今二人はそれぞれ家庭教師をつけられており、エミールはイレーネの父から商売に関する仕事を教えてもらったり、仕事先にも連れて行ってもらい社会見学させてもらっている。
ヨルクは父親と同じ騎士を目指すために剣術も教え込まれていて……二人が最終的にどんな道を歩むかはわからないが、毎日必死に成長していく姿をそばで見守ることができて、イレーネまで生きる活力をもらえていた。ディートハルトがいなくても、――いない方が、いいと思っていた。
だがそんなイレーネの心情に気づいてか、ある日ディートハルトから登城するよう言われた。何でも、女王陛下がイレーネに会いたがっているという。どのみち女王の命とあれば逆らうこともできないので、イレーネは戦々恐々としながら久しぶりに城へと参上したのだった。
「――久しぶりね、イレーネ」
てっきり謁見の間に通されるかと思ったが、普通の部屋――イレーネの記憶違いでなければ、以前グリゼルダが使っていた部屋へと案内された。そしてそこで長いこと待たされ、ひょっとすると彼女に呼ばれたのは嘘だったのだろうか、忘れられてしまったのではないかと思い始めた頃、ようやくグリゼルダは現れたのだった。
イレーネは即座に椅子から立ち上がり、深く腰を折って挨拶した。しかしグリゼルダはそんなのはいいからと顔を上げさせ、一緒についてきた侍女や護衛を下がらせた。彼らは渋ったが、女王陛下の言う通りに部屋を出て行く。
「よろしいのですか」
「あら。おまえは私に何か危害を与えるのかしら」
「いえ、そうではなくて……何かあったらわたしでは姫様、いえ、女王陛下をお守りできないと思うので……」
せいぜい盾になるくらいか……それも難しいと想像したところで、グリゼルダがふっと笑った。
「おまえのその感じ、懐かしいわ」
「あ……」
すっかり遠い存在になってしまったと思ったが、笑った顔に六年前の日々が蘇る。自分は彼女に仕えていた侍女で、彼女は王女だった。いつか他国の王族へ嫁ぐだろうと思っていた彼女は今や一国の女王として君臨し、自分も隣国まで駆け落ちした。
「本当に、お互いいろいろあったわね……」
「はい……」
涙ぐみそうになって、イレーネは改めてその場に両膝をついた。
「陛下。あの時、わたしを助けてくださって本当にありがとうございます。感謝しても、しきれません」
「……感謝する必要はないわ」
グリゼルダは一変皮肉気な笑みを浮かべると、イレーネを通りすぎ、どさりと椅子へ腰かけた。
「私は結局、あなたの夫との約束を守れなかったのだから」
「わたしの……ハインツとの約束ですか?」
「そうよ」
だが約束というのは駆け落ちに協力することだ。グリゼルダは十分すぎるほど手を貸してくれたのだから、気に病む必要はないと思うのだが……。
「私が逃亡を助ける気になったのは、今まで誠実に仕えてくれたあなたへの褒美よ。でもそれとは別に、ハインツに約束させられたのよ。――イレーネに関する情報を、決してディートハルトに教えないようにという約束をね」
イレーネは目を瞠った。
「それは……本当ですか」
「ええ。おまえの夫はよくわかっていたみたいね。いつかあの男がおまえを取り戻しにくることを」
(ハインツ様は、わかっていた……)
呆然とするイレーネの姿を見て、グリゼルダはため息をついた。
「けれど、結局守ることができなかった。あの世でさぞ、恨んでいることでしょうね」
「そんな……姫様はもう十分、わたしたちを助けてくださいました。主人も、それはよく理解しているはずです」
「そういう問題じゃないわ。これは私のプライドの問題でもあるの」
悔しそうに、グリゼルダは眉間の皺を寄せた。そこでイレーネは初めて、彼女が化粧で疲労を上手く隠していることに気づいた。
「情けないことに、私一人の力では女王の座には就けなかった。黒の騎士団が……ディートハルトがこちら側に寝返ってくれたからこそ、激しい内乱にならずに済んだの」
寝返ったということはつまり、裏切ったということだ。自分の仲間がいる騎士団を。忠誠を誓っていた国王を。マルガレーテのことを溺愛していた義父を。
「それでおまえが手に入るならばと、あの男は裏切りに何の躊躇もなかった。私に居場所を吐かせるだけでなく、大司教に再婚を認めさせるために私から圧力をかけることも条件につけた。……つくづく、抜かりのない男よ」
イレーネはディートハルトがそこまでして自分を手に入れた理由がわからず、逆に気味悪さと恐怖を覚えた。
(どうしてあの人はあそこまでわたしに執着するのかしら……)
「あの、マルガレーテ殿下と離婚したというのは本当ですか」
「あら。聞いていないの?」
「いえ。でも、なんだか信じられなくて……」
グリゼルダは少し考え、こう言った。
「そうね。あなたなら、そう思って仕方ないかもしれない。実際彼は途中まで本気でマルガレーテを望んでいたようだし」
そう。ディートハルトはマルガレーテが手に入るとわかった瞬間、イレーネをあっさりと捨てた。他の女性も同様に。だからこそ、不思議でたまらない。王女だけは特別な存在だったのではないかと。
「結婚生活が、上手くいかなったんでしょうか……」
「そうでもないみたいよ。噂ではここで暮らしていた時と同じように、いいえ、それ以上に大切に扱われていたようだから」
「では、それが行き過ぎて疲れてしまったとか……?」
グリゼルダは微笑んだ。
「さぁ、どうかしらね……。ただ、私はなんとなくこうなると思っていたわ」
イレーネが戸惑った瞳でグリゼルダを見れば、彼女は猫のような大きな目を細めた。
「恨みがあったの」
「え?」
「だからそれを消したくて……いいえ、何もかも自分の手で壊したくなって、でも叶えた瞬間、どうでもよくなった。それどころではなくなった、というのもあるわね。けれどずっと欲しかったものをようやく手に入れたというのに、たくさんの犠牲を払ったのに、手に入れた瞬間、終わってしまった」
イレーネにではなく、自分のこれまでを振り返るようにグリゼルダは滔々と語った。
「手に入れた先が、幸福とは限らない。現実が理想に追いついてしまった、っていうのかしら……ううん。現実が理想を飛び越えて、追いかけていた理想は振り返っても、もう跡形もなく消え去ってしまっていた。自分の目には、もう映すことはできない。そもそも、そんなもの最初からなかったかのように……そんな感じかしら?」
イレーネにはグリゼルダが何を言っているのか、さっぱりわからなかった。彼女自身のことを話しているのか、それともディートハルトのことを述べているのか……どちらにせよ、とても理不尽なことを言っているように聞こえた。
「マルガレーテ……あの子は大勢の者にいろんな夢を見せる存在なんだわ。でも、ただそれだけ。たぶん、手に入れてはいけない存在なのよ」
「……想像していた彼女と違ったから、だからディートハルト様は彼女と離縁したというのですか」
困惑しながらもやや怒ったような感情が伝わったのか、グリゼルダは肩を竦めた。
「あくまでも私の考えよ。実際マルガレーテを手にした隣国の王太子は今とっても夢中なようだし、現実と理想の姿が適う場合もあるんでしょう。ディートハルトの場合は、違っただけ」
だとしても、イレーネは最低だと思った。勝手に理想を思い描いて、実際違うと思ったら捨てるなんて……。
「ふふ。あなたはマルガレーテを可哀想に思っているみたいだけど、あの子だってディートハルトにたいそうな理想を抱いていたんじゃないかしら。実際に結婚した彼が自分の思い描いていた王子様とは違ったから、本物の王子様のもとへ嫁ぐこと受け入れたのよ」
彼女もまた、ディートハルトと別れたかった。
「許すを振りをして、言わば乗り換えたようなものかもね」
そう告げられても、イレーネの心は晴れなかった。
(ヨルクをおいていっても、平気だったというの……?)
出会ったばかりの彼は、感情の抜け落ちた、生きているのに死んだような顔をしていた。実際ディートハルトとマルガレーテがどんな態度でヨルクに接してきたかはわからないが、二人の関係がヨルクに全く影響を与えなかったとは断言できないだろう。
「とにかく、私はディートハルトの要求を結局呑んで、あなたをこの地に連れ戻す羽目になった。……恨まれても、仕方がないことよ」
プライドの問題だとしても、自分に非があると認めたグリゼルダにイレーネは内心驚く。しかし素直に謝らないのは彼女らしいとも思った。
「いいえ、陛下。わたしは貴女を恨んでおりませんわ」
「それは私が女王だから?」
イレーネは微笑んだ。たしかにそれもあるだろう。だが決してそれだけではない。
「その間に、たくさんのものを手にすることができましたから……それが叶ったのは、あの時陛下のお力添えがあったからです」
グリゼルダはしげしげとイレーネを見つめ、ため息をついた。
「ほんと、あなたってあの時と変わらない」
「そうでもありません。少しは図々しくなれたと思います」
「私に対してそう言えるってことは、そうなんでしょうね。……ハインツのおかげ?」
はい、とイレーネは微笑んだ。そう、とグリゼルダも微笑みながら目を閉じた。
「そうね。服従しても、抵抗できないわけじゃない」
そしてゆっくりと目を開けると、面白いことを思いついたように唇に弧を描いた。
「イレーネ」
「はい」
「私のことは昔と同じ、姫様と呼んでちょうだい」
「え? ええ……姫様に許していただけるならば……」
「それともう一つ。私のもとで、働いてみない?」
イレーネは目を瞬いた。
たまに帰ってきても子どもたち――特にエミールが纏わりついて、あれこれと話をせがんだ。なのでイレーネと二人きりになることは少なく、だがそれが不満だというように明け方まで、時に昼過ぎまで抱いてまた仕事へ出かけていく日々が続く。
イレーネは別にそれでもいいかな、と思った。最近は使用人にも慣れて、何よりエミールとヨルクと一緒に過ごす日々が愛おしい。
今二人はそれぞれ家庭教師をつけられており、エミールはイレーネの父から商売に関する仕事を教えてもらったり、仕事先にも連れて行ってもらい社会見学させてもらっている。
ヨルクは父親と同じ騎士を目指すために剣術も教え込まれていて……二人が最終的にどんな道を歩むかはわからないが、毎日必死に成長していく姿をそばで見守ることができて、イレーネまで生きる活力をもらえていた。ディートハルトがいなくても、――いない方が、いいと思っていた。
だがそんなイレーネの心情に気づいてか、ある日ディートハルトから登城するよう言われた。何でも、女王陛下がイレーネに会いたがっているという。どのみち女王の命とあれば逆らうこともできないので、イレーネは戦々恐々としながら久しぶりに城へと参上したのだった。
「――久しぶりね、イレーネ」
てっきり謁見の間に通されるかと思ったが、普通の部屋――イレーネの記憶違いでなければ、以前グリゼルダが使っていた部屋へと案内された。そしてそこで長いこと待たされ、ひょっとすると彼女に呼ばれたのは嘘だったのだろうか、忘れられてしまったのではないかと思い始めた頃、ようやくグリゼルダは現れたのだった。
イレーネは即座に椅子から立ち上がり、深く腰を折って挨拶した。しかしグリゼルダはそんなのはいいからと顔を上げさせ、一緒についてきた侍女や護衛を下がらせた。彼らは渋ったが、女王陛下の言う通りに部屋を出て行く。
「よろしいのですか」
「あら。おまえは私に何か危害を与えるのかしら」
「いえ、そうではなくて……何かあったらわたしでは姫様、いえ、女王陛下をお守りできないと思うので……」
せいぜい盾になるくらいか……それも難しいと想像したところで、グリゼルダがふっと笑った。
「おまえのその感じ、懐かしいわ」
「あ……」
すっかり遠い存在になってしまったと思ったが、笑った顔に六年前の日々が蘇る。自分は彼女に仕えていた侍女で、彼女は王女だった。いつか他国の王族へ嫁ぐだろうと思っていた彼女は今や一国の女王として君臨し、自分も隣国まで駆け落ちした。
「本当に、お互いいろいろあったわね……」
「はい……」
涙ぐみそうになって、イレーネは改めてその場に両膝をついた。
「陛下。あの時、わたしを助けてくださって本当にありがとうございます。感謝しても、しきれません」
「……感謝する必要はないわ」
グリゼルダは一変皮肉気な笑みを浮かべると、イレーネを通りすぎ、どさりと椅子へ腰かけた。
「私は結局、あなたの夫との約束を守れなかったのだから」
「わたしの……ハインツとの約束ですか?」
「そうよ」
だが約束というのは駆け落ちに協力することだ。グリゼルダは十分すぎるほど手を貸してくれたのだから、気に病む必要はないと思うのだが……。
「私が逃亡を助ける気になったのは、今まで誠実に仕えてくれたあなたへの褒美よ。でもそれとは別に、ハインツに約束させられたのよ。――イレーネに関する情報を、決してディートハルトに教えないようにという約束をね」
イレーネは目を瞠った。
「それは……本当ですか」
「ええ。おまえの夫はよくわかっていたみたいね。いつかあの男がおまえを取り戻しにくることを」
(ハインツ様は、わかっていた……)
呆然とするイレーネの姿を見て、グリゼルダはため息をついた。
「けれど、結局守ることができなかった。あの世でさぞ、恨んでいることでしょうね」
「そんな……姫様はもう十分、わたしたちを助けてくださいました。主人も、それはよく理解しているはずです」
「そういう問題じゃないわ。これは私のプライドの問題でもあるの」
悔しそうに、グリゼルダは眉間の皺を寄せた。そこでイレーネは初めて、彼女が化粧で疲労を上手く隠していることに気づいた。
「情けないことに、私一人の力では女王の座には就けなかった。黒の騎士団が……ディートハルトがこちら側に寝返ってくれたからこそ、激しい内乱にならずに済んだの」
寝返ったということはつまり、裏切ったということだ。自分の仲間がいる騎士団を。忠誠を誓っていた国王を。マルガレーテのことを溺愛していた義父を。
「それでおまえが手に入るならばと、あの男は裏切りに何の躊躇もなかった。私に居場所を吐かせるだけでなく、大司教に再婚を認めさせるために私から圧力をかけることも条件につけた。……つくづく、抜かりのない男よ」
イレーネはディートハルトがそこまでして自分を手に入れた理由がわからず、逆に気味悪さと恐怖を覚えた。
(どうしてあの人はあそこまでわたしに執着するのかしら……)
「あの、マルガレーテ殿下と離婚したというのは本当ですか」
「あら。聞いていないの?」
「いえ。でも、なんだか信じられなくて……」
グリゼルダは少し考え、こう言った。
「そうね。あなたなら、そう思って仕方ないかもしれない。実際彼は途中まで本気でマルガレーテを望んでいたようだし」
そう。ディートハルトはマルガレーテが手に入るとわかった瞬間、イレーネをあっさりと捨てた。他の女性も同様に。だからこそ、不思議でたまらない。王女だけは特別な存在だったのではないかと。
「結婚生活が、上手くいかなったんでしょうか……」
「そうでもないみたいよ。噂ではここで暮らしていた時と同じように、いいえ、それ以上に大切に扱われていたようだから」
「では、それが行き過ぎて疲れてしまったとか……?」
グリゼルダは微笑んだ。
「さぁ、どうかしらね……。ただ、私はなんとなくこうなると思っていたわ」
イレーネが戸惑った瞳でグリゼルダを見れば、彼女は猫のような大きな目を細めた。
「恨みがあったの」
「え?」
「だからそれを消したくて……いいえ、何もかも自分の手で壊したくなって、でも叶えた瞬間、どうでもよくなった。それどころではなくなった、というのもあるわね。けれどずっと欲しかったものをようやく手に入れたというのに、たくさんの犠牲を払ったのに、手に入れた瞬間、終わってしまった」
イレーネにではなく、自分のこれまでを振り返るようにグリゼルダは滔々と語った。
「手に入れた先が、幸福とは限らない。現実が理想に追いついてしまった、っていうのかしら……ううん。現実が理想を飛び越えて、追いかけていた理想は振り返っても、もう跡形もなく消え去ってしまっていた。自分の目には、もう映すことはできない。そもそも、そんなもの最初からなかったかのように……そんな感じかしら?」
イレーネにはグリゼルダが何を言っているのか、さっぱりわからなかった。彼女自身のことを話しているのか、それともディートハルトのことを述べているのか……どちらにせよ、とても理不尽なことを言っているように聞こえた。
「マルガレーテ……あの子は大勢の者にいろんな夢を見せる存在なんだわ。でも、ただそれだけ。たぶん、手に入れてはいけない存在なのよ」
「……想像していた彼女と違ったから、だからディートハルト様は彼女と離縁したというのですか」
困惑しながらもやや怒ったような感情が伝わったのか、グリゼルダは肩を竦めた。
「あくまでも私の考えよ。実際マルガレーテを手にした隣国の王太子は今とっても夢中なようだし、現実と理想の姿が適う場合もあるんでしょう。ディートハルトの場合は、違っただけ」
だとしても、イレーネは最低だと思った。勝手に理想を思い描いて、実際違うと思ったら捨てるなんて……。
「ふふ。あなたはマルガレーテを可哀想に思っているみたいだけど、あの子だってディートハルトにたいそうな理想を抱いていたんじゃないかしら。実際に結婚した彼が自分の思い描いていた王子様とは違ったから、本物の王子様のもとへ嫁ぐこと受け入れたのよ」
彼女もまた、ディートハルトと別れたかった。
「許すを振りをして、言わば乗り換えたようなものかもね」
そう告げられても、イレーネの心は晴れなかった。
(ヨルクをおいていっても、平気だったというの……?)
出会ったばかりの彼は、感情の抜け落ちた、生きているのに死んだような顔をしていた。実際ディートハルトとマルガレーテがどんな態度でヨルクに接してきたかはわからないが、二人の関係がヨルクに全く影響を与えなかったとは断言できないだろう。
「とにかく、私はディートハルトの要求を結局呑んで、あなたをこの地に連れ戻す羽目になった。……恨まれても、仕方がないことよ」
プライドの問題だとしても、自分に非があると認めたグリゼルダにイレーネは内心驚く。しかし素直に謝らないのは彼女らしいとも思った。
「いいえ、陛下。わたしは貴女を恨んでおりませんわ」
「それは私が女王だから?」
イレーネは微笑んだ。たしかにそれもあるだろう。だが決してそれだけではない。
「その間に、たくさんのものを手にすることができましたから……それが叶ったのは、あの時陛下のお力添えがあったからです」
グリゼルダはしげしげとイレーネを見つめ、ため息をついた。
「ほんと、あなたってあの時と変わらない」
「そうでもありません。少しは図々しくなれたと思います」
「私に対してそう言えるってことは、そうなんでしょうね。……ハインツのおかげ?」
はい、とイレーネは微笑んだ。そう、とグリゼルダも微笑みながら目を閉じた。
「そうね。服従しても、抵抗できないわけじゃない」
そしてゆっくりと目を開けると、面白いことを思いついたように唇に弧を描いた。
「イレーネ」
「はい」
「私のことは昔と同じ、姫様と呼んでちょうだい」
「え? ええ……姫様に許していただけるならば……」
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