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ディートハルト
5、裏切りの夜
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絶頂の余韻で胸や肩を揺らして息をしていたマルガレーテはそのまま気を失ってしまいそうに見えたが、ディートハルトの起き上がる気配にぱちりと目を開いた。そしてシーツで前を恥ずかしそうに隠しながら起き上がり、彼を不安そうな目で見つめてきた。
「もう、行ってしまうの?」
「ええ。できることなら朝まで貴女のそばにいたいのですが……誰にかに見つかって、国王陛下の耳に入ってしまうのは避けたい」
戦で命を落とすかもしれない男が娘の純潔を奪ったと知れば、彼は激怒するだろう。そしてもう二度と会えなくなるかもしれない。だから誰にも見つからないうちに……と言えば、マルガレーテは痛みに耐えるかのように目を伏せた。
「戦争に、行かなければならないのね……」
ディートハルトは俯くマルガレーテの手を両手で握ると、口元へ持っていき、長い口づけを贈った。
「俺は必ず生きてこの国へ戻ってきます。そして――貴女と結婚することを陛下に願い出る」
「ディートハルト……」
「だからそれまでどうか、信じて待っていてください」
「……ええ、わかったわ。だからあなたも、必ず帰ってきて……わたくしのそばを、もう二度と離れないで」
マルガレーテはディートハルトに腕を伸ばし、抱きついた。彼も彼女を引き寄せ、誓った。二人は抱擁を緩め、離れている間も忘れないよう互いの顔を目に焼きつけた。そして最後にもう一度、深く口づけし合った。
別れが済むと、ディートハルトは静かに部屋を後にした。心は満たされている、はずだ。長く会えないことを思えば朝まで抱いていたかったが、彼女の置かれた立場を考えれば諦めるしかない。また初めて身体を繋げた彼女に無理をさせたくなかった。我慢して大人しく帰ろう。そう、思っていた。
イレーネがユリウスと口づけしている姿を見るまでは。
視力がよく、さらに月明かりに照らされたおかげで、二人の表情まではっきりとディートハルトにはわかった。
イレーネはユリウスしか目に映っていない様子で、ディートハルトの見たこともない顔でユリウスを見ていた。まるで今まで男に触れたことすらないような初々しい素振りを見せながら、それでも必死にユリウスを受け止めて、彼が好きでたまらないというように大きな背中に腕を回している。
他人の口づけを今まで見たことがないわけではなかった。むしろ行為の一環として旦那の目の前で妻の唇を奪うこともあったし、相手の女を寝取ったと逆恨みされ、後日関係を持った別の女を抱く様を見せつけられたこともある。キスだけでは終わらず、それ以上の行為まで鑑賞させられた経験だってあるのだ。
だからたかが口づけをしているくらいで、たとえそれが自分の婚約者であろうと、どうこう思わないのがディートハルトのはずだった。
――それなのになぜ今自分は足を止めて、食い入るようにイレーネを見ているのだろう。くだらないものを見せられたと、すぐに部屋へ帰ればいいのに……違う。動けないのだ。驚いたことに、自分は衝撃を受けているらしかった。
不貞の現場を見てしまい怒っているのか。それも、わからない。激昂する感情は湧いてこない。ただ先ほどマルガレーテを抱いた喜びはすっかり消えて、何の感情も湧いてこず、頭は冷静に、この後どうするかを考えていた。自分でも怖いくらいに落ち着いていたのだ。
(彼女の部屋へ行こう)
遠回りするかたちでディートハルトはその場を離れた。二人は誰かに見られているなど、微塵も思っていないだろう。イレーネの心は、ユリウスでいっぱいだろう。
二人がそれ以上のことをやるとは思わなかった。ユリウスは神に仕える修道士で、イレーネも根はどうしようもなく真面目だから。彼らは自分とは違う人間だから。
もし、一線を越えてしまっても、朝までに一度部屋へ戻ってくるはずだ。その時に、どうするか考えればいい。きっと彼女は青ざめた顔をするだろう。まさか自分の部屋に婚約者がいるとは思いもしなかったというような……
「……どうして、ここに」
ちょうど、今のように。
「もう、行ってしまうの?」
「ええ。できることなら朝まで貴女のそばにいたいのですが……誰にかに見つかって、国王陛下の耳に入ってしまうのは避けたい」
戦で命を落とすかもしれない男が娘の純潔を奪ったと知れば、彼は激怒するだろう。そしてもう二度と会えなくなるかもしれない。だから誰にも見つからないうちに……と言えば、マルガレーテは痛みに耐えるかのように目を伏せた。
「戦争に、行かなければならないのね……」
ディートハルトは俯くマルガレーテの手を両手で握ると、口元へ持っていき、長い口づけを贈った。
「俺は必ず生きてこの国へ戻ってきます。そして――貴女と結婚することを陛下に願い出る」
「ディートハルト……」
「だからそれまでどうか、信じて待っていてください」
「……ええ、わかったわ。だからあなたも、必ず帰ってきて……わたくしのそばを、もう二度と離れないで」
マルガレーテはディートハルトに腕を伸ばし、抱きついた。彼も彼女を引き寄せ、誓った。二人は抱擁を緩め、離れている間も忘れないよう互いの顔を目に焼きつけた。そして最後にもう一度、深く口づけし合った。
別れが済むと、ディートハルトは静かに部屋を後にした。心は満たされている、はずだ。長く会えないことを思えば朝まで抱いていたかったが、彼女の置かれた立場を考えれば諦めるしかない。また初めて身体を繋げた彼女に無理をさせたくなかった。我慢して大人しく帰ろう。そう、思っていた。
イレーネがユリウスと口づけしている姿を見るまでは。
視力がよく、さらに月明かりに照らされたおかげで、二人の表情まではっきりとディートハルトにはわかった。
イレーネはユリウスしか目に映っていない様子で、ディートハルトの見たこともない顔でユリウスを見ていた。まるで今まで男に触れたことすらないような初々しい素振りを見せながら、それでも必死にユリウスを受け止めて、彼が好きでたまらないというように大きな背中に腕を回している。
他人の口づけを今まで見たことがないわけではなかった。むしろ行為の一環として旦那の目の前で妻の唇を奪うこともあったし、相手の女を寝取ったと逆恨みされ、後日関係を持った別の女を抱く様を見せつけられたこともある。キスだけでは終わらず、それ以上の行為まで鑑賞させられた経験だってあるのだ。
だからたかが口づけをしているくらいで、たとえそれが自分の婚約者であろうと、どうこう思わないのがディートハルトのはずだった。
――それなのになぜ今自分は足を止めて、食い入るようにイレーネを見ているのだろう。くだらないものを見せられたと、すぐに部屋へ帰ればいいのに……違う。動けないのだ。驚いたことに、自分は衝撃を受けているらしかった。
不貞の現場を見てしまい怒っているのか。それも、わからない。激昂する感情は湧いてこない。ただ先ほどマルガレーテを抱いた喜びはすっかり消えて、何の感情も湧いてこず、頭は冷静に、この後どうするかを考えていた。自分でも怖いくらいに落ち着いていたのだ。
(彼女の部屋へ行こう)
遠回りするかたちでディートハルトはその場を離れた。二人は誰かに見られているなど、微塵も思っていないだろう。イレーネの心は、ユリウスでいっぱいだろう。
二人がそれ以上のことをやるとは思わなかった。ユリウスは神に仕える修道士で、イレーネも根はどうしようもなく真面目だから。彼らは自分とは違う人間だから。
もし、一線を越えてしまっても、朝までに一度部屋へ戻ってくるはずだ。その時に、どうするか考えればいい。きっと彼女は青ざめた顔をするだろう。まさか自分の部屋に婚約者がいるとは思いもしなかったというような……
「……どうして、ここに」
ちょうど、今のように。
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