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結局
「えーっと、つまりジュスティーヌ姉様は護衛騎士のオラースに襲われて……あ、違うか。ジュスティーヌ姉様の合意のもと、結ばれて……いろいろあったけど、オラースは責任を取ってジュスティーヌ姉様と結婚する、ってこと?」
「そう……そういうことに、なったの……」
ミランダは寝台にぐったりと臥せったまま、カミーユの事実確認に弱々しく頷いた。ミランダのそばにはロジェがおり、額の布を甲斐甲斐しく変えてくれている。
「あちゃー。姉上せっかくいろいろ画策してきたのに、ぜんぶおじゃんになっちゃったね。ま、どんまい! ジュスティーヌ姉様自身がこの結婚に乗り気みたいだし、まぁ、姉様の幸せを思うなら、結果的によかったじゃん!」
今日は雨でも明日は晴れるさ、と天気でも語るかのように――つまり大したことではないと明るく励ますカミーユに、ミランダの負った深い傷は全く癒えない。
「あなた、わたしを励ましにきたの? 傷口に塩を塗りにきたの?」
「こういうのなんて言うんだろうね。親の心、子知らず?」
「幸せは案外すぐそばに落ちているものです」
「たしか東の国に灯台下暗しって言葉があったな。それかぁ」
好き勝手喋り続ける男どもを呪うような陰険な目で見ていると、カミーユはごめんごめんとちっとも誠意の感じられない声で謝った。
「さっきも言ったけど、ジュスティーヌ姉様が幸せになれるなら、よかったじゃん。それに相手が男爵家の次男坊だから、母上の機嫌も損ねることはなかったし」
そう。オラースは爵位を受け継ぐわけではないので、平民と同じ、ただの騎士である。
さすがに王女を降嫁させるには体裁が悪いので、父は爵位を叙爵するだろうが、それもせいぜい伯爵位より下か、あるいは一代限りのものだろう。母からすれば、可哀想な娘、という認識なのだ。
もっとも、当人たちは結ばれるだけでただ幸せ、という感じではあるが。
「姉様があんな男を好きだなんて、今でも信じられないわ……」
騎士は騎士でも、もっと国宝級のイケメンか、氷の属性持ちの冷酷で、でも姉にだけは心を開いて深い愛情を持つ影のある男性とか、実は王族の血を引いた隠れ王子様だったら、まだ納得できたというのに。
「姫様。恋愛小説の読み過ぎでございます。そういった方はおりません」
「ロジェ。わたしの思考を勝手に読まないで……いるかも、しれないじゃない。ううん、絶対にいるわ。お姉様に似合う人……」
「オラースは真面目な男だよ。だからもうジュスティーヌ姉様のことは任せて、自分のことを心配しなよ」
自分のこと? とミランダは気怠そうにカミーユを見やる。弟は肩を竦めて、ため息をついた。
「グランディエ国への輿入れのことだよ」
「あぁ……」
そうだ。姉がオラースと結婚するならば、グランディエ国へ嫁ぐことはできなくなる。もしジュスティーヌが無理矢理貞操を奪われていたら、何とか偽装して嫁がせたかもしれないが、純愛で結ばれた二人を引き裂くことはできない。
『私はオラースを愛しております』
(……そうね。お姉様が愛しているとおっしゃったんですもの)
ジュスティーヌはミランダが紹介する前にきちんと自分で愛する人を見つけた。そしてその人の隣でとても幸せそうに微笑んでいた。それがすべてだ。
妹として、祝福する以外の道はない。
(となれば……)
「わたしが行くしか、ないわね……」
よろよろと額を押さえて起き上がると、ミランダはそう言った。
諦めたように出した彼女の答えに、カミーユは目を丸くする。
「いいの?」
「だって、今さら破談にするわけにはいかないでしょう」
「うん。国同士の決め事だからね。父上も今度ばかりは拒否できなくて、今から必死に姉上にお願いする練習をしているよ。あ、母上はよくよく調べてみたらグランディエ国も悪くないわねって意見変えて、娘が王妃になれることを喜んでいるみたい」
(あの人たちは……)
我が親ながらあきれ果てる。いや、もうこうなったら仕方がない。
「もともとわたしが嫁ぐ予定だったのだから、その通りになるだけよ」
自分に言い聞かせるようにミランダは力なく呟いた。
こうして、ジュスティーヌを身代わりとして嫁がせる計画は中止になり、やはりミランダがグランディエ国へ嫁ぐことになったのだった。
「そう……そういうことに、なったの……」
ミランダは寝台にぐったりと臥せったまま、カミーユの事実確認に弱々しく頷いた。ミランダのそばにはロジェがおり、額の布を甲斐甲斐しく変えてくれている。
「あちゃー。姉上せっかくいろいろ画策してきたのに、ぜんぶおじゃんになっちゃったね。ま、どんまい! ジュスティーヌ姉様自身がこの結婚に乗り気みたいだし、まぁ、姉様の幸せを思うなら、結果的によかったじゃん!」
今日は雨でも明日は晴れるさ、と天気でも語るかのように――つまり大したことではないと明るく励ますカミーユに、ミランダの負った深い傷は全く癒えない。
「あなた、わたしを励ましにきたの? 傷口に塩を塗りにきたの?」
「こういうのなんて言うんだろうね。親の心、子知らず?」
「幸せは案外すぐそばに落ちているものです」
「たしか東の国に灯台下暗しって言葉があったな。それかぁ」
好き勝手喋り続ける男どもを呪うような陰険な目で見ていると、カミーユはごめんごめんとちっとも誠意の感じられない声で謝った。
「さっきも言ったけど、ジュスティーヌ姉様が幸せになれるなら、よかったじゃん。それに相手が男爵家の次男坊だから、母上の機嫌も損ねることはなかったし」
そう。オラースは爵位を受け継ぐわけではないので、平民と同じ、ただの騎士である。
さすがに王女を降嫁させるには体裁が悪いので、父は爵位を叙爵するだろうが、それもせいぜい伯爵位より下か、あるいは一代限りのものだろう。母からすれば、可哀想な娘、という認識なのだ。
もっとも、当人たちは結ばれるだけでただ幸せ、という感じではあるが。
「姉様があんな男を好きだなんて、今でも信じられないわ……」
騎士は騎士でも、もっと国宝級のイケメンか、氷の属性持ちの冷酷で、でも姉にだけは心を開いて深い愛情を持つ影のある男性とか、実は王族の血を引いた隠れ王子様だったら、まだ納得できたというのに。
「姫様。恋愛小説の読み過ぎでございます。そういった方はおりません」
「ロジェ。わたしの思考を勝手に読まないで……いるかも、しれないじゃない。ううん、絶対にいるわ。お姉様に似合う人……」
「オラースは真面目な男だよ。だからもうジュスティーヌ姉様のことは任せて、自分のことを心配しなよ」
自分のこと? とミランダは気怠そうにカミーユを見やる。弟は肩を竦めて、ため息をついた。
「グランディエ国への輿入れのことだよ」
「あぁ……」
そうだ。姉がオラースと結婚するならば、グランディエ国へ嫁ぐことはできなくなる。もしジュスティーヌが無理矢理貞操を奪われていたら、何とか偽装して嫁がせたかもしれないが、純愛で結ばれた二人を引き裂くことはできない。
『私はオラースを愛しております』
(……そうね。お姉様が愛しているとおっしゃったんですもの)
ジュスティーヌはミランダが紹介する前にきちんと自分で愛する人を見つけた。そしてその人の隣でとても幸せそうに微笑んでいた。それがすべてだ。
妹として、祝福する以外の道はない。
(となれば……)
「わたしが行くしか、ないわね……」
よろよろと額を押さえて起き上がると、ミランダはそう言った。
諦めたように出した彼女の答えに、カミーユは目を丸くする。
「いいの?」
「だって、今さら破談にするわけにはいかないでしょう」
「うん。国同士の決め事だからね。父上も今度ばかりは拒否できなくて、今から必死に姉上にお願いする練習をしているよ。あ、母上はよくよく調べてみたらグランディエ国も悪くないわねって意見変えて、娘が王妃になれることを喜んでいるみたい」
(あの人たちは……)
我が親ながらあきれ果てる。いや、もうこうなったら仕方がない。
「もともとわたしが嫁ぐ予定だったのだから、その通りになるだけよ」
自分に言い聞かせるようにミランダは力なく呟いた。
こうして、ジュスティーヌを身代わりとして嫁がせる計画は中止になり、やはりミランダがグランディエ国へ嫁ぐことになったのだった。
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