虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました

りつ

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ハッピーエンド

 その後無事にミランダの監禁――ではなく自室での療養が解かれて、ドニ・ルフェーブルの件が片付き、ようやく平穏を取り戻した頃。

 ミランダはもう一度ディオンに歌劇を観たいとねだった。ディオンは意外だったのか、不安そうな顔をした。

「怖くないか?」
「まったく、と言ったら嘘になりますけれど、大丈夫ですわ。警備もしっかりしているでしょうし……今度こそ彼らの演じるハッピーエンドを観たいんです」

 国王夫妻が命を落としかけたこともあり、歌劇場の評判も下がってしまった。劇場で働いていた人間も深い傷を負っており、しばらく閉鎖されていたのだ。

 しかし彼らはいつまでも悲嘆に暮れていてはいけないと少しずつ立ち直り、足繁く通っていた観客も再開を待ち望んでいる。

 ミランダは自分たちが再び足を運ぶことで、劇場のイメージを払拭できるのではないか、力になりたいという思いがあった。

「だからぜひ行きましょう、ディオン様!」

 ミランダがそう元気よく伝えれば、ディオンは困ったような表情で微笑んだ。

「まったく。あなたは思いやりに溢れているな」
「あら。わたしのためでもあるんですよ?」

 ミランダはディオンの身体に密着するよう腕を絡ませると、上目遣いで彼に可愛いと思ってもらえるような笑顔を浮かべて囁くように告げる。

「あなたとデートができるんですもの。今度こそ、ボックス席でね」
「ミラ……」

 やっぱりあなたには敵わない、とディオンが照れた顔で言い、すぐに特等席を予約するよう側近に命じるのだった。

 そしてデート当日。

 今度は誰にも邪魔されず……と言っても、護衛は以前より増やし、個室の外で待機させているのだが、一階席よりもより親密な距離間があった。

 以前と同じようにイチャついているとすぐに開演し、気づけば二時間少しの公演はあっという間で、終わった後は深い余韻に包まれた。

「よかったな」

 ディオンも酔いしれたような口調でそう感想を述べた。

「ええ。王女が自分の想いを告げて、国王もそれに応えるシーンは特によかったですわ」
「そうだな。俺は最初……まるであなたと俺の話のようだと思った」
「え、わたしですか?」

 ジュスティーヌではなく? と思ったが、考えてみると、実際に嫁いだのは自分であった。

「でも、わたしはあんなふうにいじめられていませんし、王女のように健気で可憐でもありませんわ」

 わりと図太い性格をしているし、いじめられたら何倍にしてもやり返す。

「そんなことない。俺のそっけない態度であなたを傷つけて寂しい思いをさせてしまった」

(そこまで傷ついてはいないけれど……)

「ええっと、その、物語の王様とディオン様も違いますわ」

 物語の王は最後までどこか高圧的で偉そうな感じであるが、ディオンは違う。

 確かに雰囲気など少し怖い印象はある。でも実際話してみるとすごく話の分かる優しい人だ。

(それに最近、雰囲気も柔らかくなったとクレソン卿やヤニックも言っていたもの)

 王妃殿下のおかげです、と彼らは言っていたが、やはりディオン本来の性格なのだとミランダは思う。

「とにかく、いろいろ違いはありますから。あ、でも、最後は両想いになって幸せになるという点は同じですね」
「そうだな。今度こそ、ハッピーエンドで幕が閉じた」
「はい!」

 ディオンはにこにこ微笑んでいたミランダをそっと抱き寄せる。

「ディオン様、誰かに見られたら……」

 彼は赤いカーテンを引き、客席の目を隠す。

「人が引くまで、少し待っていよう」

 カーテンを引いたことで逆に注目を浴びるのではないかと思ったが、今開けてしまえばやはりそれも人目を引いてしまう気がして、結局ミランダはディオンの体温を大人しく間近に感じた。

「ミラ」
「な、なんでしょうか」
「いや……何でもないよ」

 からかうようにディオンが微かに笑って、ミランダの髪に口づけを落とす。

 こめかみや頬にも触れて、唇にもしようとしたので、ミランダは反対の方を向いて阻止しようとする。だがやや強引に頤に手をかけて、振り向かされた。

 琥珀色の瞳は焦がれるように自分を見つめており、抑えきれない欲望が渦巻いている。

 いつものミランダならば、ダメだと――せめて王宮へ帰り、部屋で二人きりになるまで待ってほしいとお願いしただろう。

 でも、幸せに満ちた劇を観た余韻のせいか、何も言わず、むしろ自分から顔を寄せて、ディオンの口づけを受け入れた。

「ん……」

 唇が離れ、目をゆっくり開けて、互いの瞳を見つめ合う。どちらも自然と笑みが零れた。

「愛している、ミラ。あなたが俺のもとへ嫁いできてくれて、俺は一生分の運を使い果たしたと思っている」
「ふふ。大げさですわ。それにわたしこそ、ディオン様と結婚できて幸せを手に入れた身ですから。あなたの隣にいる幸せは誰にも渡すつもりはありません」

 ジュスティーヌにもだ。もっとも、姉も最愛の人と幸せになれたのだから、譲られても困るだけだろうが。

(今ならお姉様の気持ちがわかる)

 互いに好きな人のことで話してみたい。まだ当分の間はディオンのそばを離れる気はないので、だいぶ先になってしまうだろうが、いつか、必ず……。

「わたしも、愛しています。ディオン様」

 ミランダが微笑んで同じ想いを返せば、ディオンはもう一度ミランダに深く口づけする。

 身代わりに姉を差し出そうとした悪い妹は、異国で王様に愛されて、末永く幸せに暮らした。

 そんな物語がグランディエ国で大人気になるのは、もうしばらく後のことである。


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