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ディオンの指摘
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けれどクロエの不安はどんどん大きくなっていく。姉がディオンを愛すれば愛するほどディオンの態度はそっけなく冷たいものへ変わってゆく。
「どうしてもう少しお姉さまに優しく接してあげないのですか」
堪りかねたクロエが苦言を呈すれば、普段めったに話しかけてこない義妹の方から話しかけられて嬉しいのか、煙草を吸っていたディオンは口元を緩めた。
「クロエ。男女間の問題はそう簡単なものではないんだよ」
「いいえ、簡単ですわ。相手が真心を込めて想いやればそれに自然と応えたくなるものです」
クロエの真面目な解答にディオンは声を立てて笑った。
「きみ、本気で言っているのかい?」
「ええ、本気だわ」
男のニヤついた顔が不快だった。
「ではなぜこの世の中には愛人や不貞の子がいるんだい?」
きみもその一人だろう。
男の指摘にクロエはカッとなる。そんな彼女の様子を見て男はまた愉快そうに笑う。
「エリーヌの母親は周囲も驚くほどの献身ぶりでラコスト伯爵を支えていたそうだよ。それなのにどうして彼はきみの母親に会いに行き、きみという存在を作ったのだろう」
「……魔が差したのです」
苦し紛れに出した答えは自分でも違うとわかった。
「正妻を押しのけ、きみの母親ときみを家族の一員としたのに? それでもきみは伯爵の気紛れだと言うの?」
それじゃあ伯爵があんまりだと彼は灰皿に吸い殻を押し付けた。煙の臭いが鼻についてクロエは胸がムカムカする。
「今はわたしの両親の話をしているのではありません。あなたとお姉さまのお話をしているのです」
「そうだよ。だから例えとして挙げただけ。僕とエリーヌも同じようなものだってこと」
「意味がわかりません。とにかくお姉さまの気持ちをもっと考えて下さい。大事にして下さい」
言いたいことはそれだけだと背を向けるとディオンがクロエの腕を掴んで強引に振り向かせた。
何をするの! と思わず声を荒立てそうになった彼女はディオンの顔が思ったよりずっと近くにあり、そしていつもの軽薄な感じは鳴りを潜めて、真剣な表情をしていたことで言葉を飲み込んでしまった。
「クロエ。きみを初めて見たときから僕は後悔しているんだ」
どうしてきみではなくエリーヌが婚約者なんだろうって。
その言葉の意味を理解するなり、クロエはディオンを突き飛ばしていた。そして彼の手が再び伸びてくる前にその場から逃げ出した。
(気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い……!)
洗面所に駆け込み、握られた腕を服の上からごしごしと洗った。冷たい水が布を重たく濡らし、皮膚へと突き刺さってくる。目の前がぼやけて涙が滲んでくる。自分がどうして泣いているのか、何に打ちのめされたのか、彼女にはわからなかった。
ただこのままではいけないと思った。
「どうしてもう少しお姉さまに優しく接してあげないのですか」
堪りかねたクロエが苦言を呈すれば、普段めったに話しかけてこない義妹の方から話しかけられて嬉しいのか、煙草を吸っていたディオンは口元を緩めた。
「クロエ。男女間の問題はそう簡単なものではないんだよ」
「いいえ、簡単ですわ。相手が真心を込めて想いやればそれに自然と応えたくなるものです」
クロエの真面目な解答にディオンは声を立てて笑った。
「きみ、本気で言っているのかい?」
「ええ、本気だわ」
男のニヤついた顔が不快だった。
「ではなぜこの世の中には愛人や不貞の子がいるんだい?」
きみもその一人だろう。
男の指摘にクロエはカッとなる。そんな彼女の様子を見て男はまた愉快そうに笑う。
「エリーヌの母親は周囲も驚くほどの献身ぶりでラコスト伯爵を支えていたそうだよ。それなのにどうして彼はきみの母親に会いに行き、きみという存在を作ったのだろう」
「……魔が差したのです」
苦し紛れに出した答えは自分でも違うとわかった。
「正妻を押しのけ、きみの母親ときみを家族の一員としたのに? それでもきみは伯爵の気紛れだと言うの?」
それじゃあ伯爵があんまりだと彼は灰皿に吸い殻を押し付けた。煙の臭いが鼻についてクロエは胸がムカムカする。
「今はわたしの両親の話をしているのではありません。あなたとお姉さまのお話をしているのです」
「そうだよ。だから例えとして挙げただけ。僕とエリーヌも同じようなものだってこと」
「意味がわかりません。とにかくお姉さまの気持ちをもっと考えて下さい。大事にして下さい」
言いたいことはそれだけだと背を向けるとディオンがクロエの腕を掴んで強引に振り向かせた。
何をするの! と思わず声を荒立てそうになった彼女はディオンの顔が思ったよりずっと近くにあり、そしていつもの軽薄な感じは鳴りを潜めて、真剣な表情をしていたことで言葉を飲み込んでしまった。
「クロエ。きみを初めて見たときから僕は後悔しているんだ」
どうしてきみではなくエリーヌが婚約者なんだろうって。
その言葉の意味を理解するなり、クロエはディオンを突き飛ばしていた。そして彼の手が再び伸びてくる前にその場から逃げ出した。
(気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い……!)
洗面所に駆け込み、握られた腕を服の上からごしごしと洗った。冷たい水が布を重たく濡らし、皮膚へと突き刺さってくる。目の前がぼやけて涙が滲んでくる。自分がどうして泣いているのか、何に打ちのめされたのか、彼女にはわからなかった。
ただこのままではいけないと思った。
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