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恋する姉
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結果として、ラコスト夫人だけでなくエリーヌもアルベリクのことを気に入ってくれた。
「アルベリク様って素敵な方ね……」
それは今までよりずっと顕著に現れていた。ディオンの時と同じように四六時中エリーヌは彼のことを口にし、彼が訪れる時刻になると、何度も鏡を見てはおかしなところがないか入念に確かめるのだ。
体調も彼が訪れるようになってぐっと良くなった。そんな姉の変化にクロエも認めざるをえない。
(マルセル様の時よりも、ずっとお姉さま恋している)
ディオンはおそらく、姉にとって好きにならなければならない相手だったのかもしれない。
特に好みというわけではないが年頃で、親に決められた結婚相手で、他に好きな相手がいても添い遂げなくてはならない男性で……言い方は悪いが、典型的な貴族の結婚に必死ではまろうとしていたのではないか。
だからアルベリクは、エリーヌにとって初めて好きだと思った男性なのだ。初恋なのだ。
「お姉さま。別に少しくらい変でも、モラン様は気にしたりしない方よ」
「まぁ、クロエ。どうしてそんなことわかるの?」
じっと観察するように鏡に目を向けていたエリーヌは、訝るようにクロエの方を振り向いた。そのちょっと鋭い眼差しに、クロエはどきりとする。
「どうしてって……なんとなくよ。ほら、あの方の見た目って、どこかぼうっとしているように見えるもの」
「そうかしら。私にはとても真面目で、何事も鋭く気づく性格だと思うわ」
たしかにどうでもいいことには目敏い気がする。
(でも……)
「女性側が気づいて欲しいって思う所には、鈍感だと思うのよね」
どちらにせよ、なんとなく、だ。大した根拠があるわけではない。それなのにエリーヌは確実な理由があるのではないかとクロエに疑いの眼差しを向けてくる。
「お姉さま。わたし、そんなにあの方とお話したことないからわからないわ」
「……でも、初めて会った時、二人きりだったのでしょう?」
姉はすでにアルベリクとクロエがどのようにして会ったのかラコスト夫人を経由して知っている。クロエからすれば、そんなこと知ってどうするのだと言いたいところであるが姉からすれば気になるのだろう。
「初対面でそんなに相手のことなんてわかるわけないわ。それに話した内容もほんの世間話で、全然たいした話ではないのよ」
気にしすぎよ、とクロエが笑って言えば、ようやくエリーヌはため息をついて、そうねと困ったように頬に手を当てた。
「私、この頃おかしいの。アルベリク様のこと考えるとどんな些細なことでも気になり始めて……自分が自分ではなくなっていくようなの」
「きっとそれが恋するってことよ」
さ、とクロエはエリーヌの両肩を叩き、アルベリクのためにうんとおめかしするよう促した。
「今日は思いきってうなじが見える感じで結んでみたらどうかしら」
「変じゃないかしら」
「ちっとも」
いつもと違う髪型ならば、アルベリクだってさすがに気づき、何か言うかもしれない。そこから会話が広がると思えばいいきっかけだ。
「私も……クロエみたいに短く切ろうかしら」
「ええっ? せっかくこんなに長くてきれいなのに? もったいないわ」
自分のように肩までしかなかったら色々とアレンジすることも難しい。
「絶対切っちゃだめよ、お姉さま」
「そう? でもあなたがそこまで言うならそうするわ」
「そうしてちょうだい」
「クロエはもう、伸ばさないの?」
「……ええ」
長いのは嫌だった。成長して鏡を見るたび、母に似ていると気づかされるから。だからせめて短くして自分は母と違う人間なのだと思いたかった。
「それにほら、癖っ毛で長いとまとめるのが大変なの」
だからこれでいいのよ、とクロエは鏡に映る姉に笑った。
「アルベリク様って素敵な方ね……」
それは今までよりずっと顕著に現れていた。ディオンの時と同じように四六時中エリーヌは彼のことを口にし、彼が訪れる時刻になると、何度も鏡を見てはおかしなところがないか入念に確かめるのだ。
体調も彼が訪れるようになってぐっと良くなった。そんな姉の変化にクロエも認めざるをえない。
(マルセル様の時よりも、ずっとお姉さま恋している)
ディオンはおそらく、姉にとって好きにならなければならない相手だったのかもしれない。
特に好みというわけではないが年頃で、親に決められた結婚相手で、他に好きな相手がいても添い遂げなくてはならない男性で……言い方は悪いが、典型的な貴族の結婚に必死ではまろうとしていたのではないか。
だからアルベリクは、エリーヌにとって初めて好きだと思った男性なのだ。初恋なのだ。
「お姉さま。別に少しくらい変でも、モラン様は気にしたりしない方よ」
「まぁ、クロエ。どうしてそんなことわかるの?」
じっと観察するように鏡に目を向けていたエリーヌは、訝るようにクロエの方を振り向いた。そのちょっと鋭い眼差しに、クロエはどきりとする。
「どうしてって……なんとなくよ。ほら、あの方の見た目って、どこかぼうっとしているように見えるもの」
「そうかしら。私にはとても真面目で、何事も鋭く気づく性格だと思うわ」
たしかにどうでもいいことには目敏い気がする。
(でも……)
「女性側が気づいて欲しいって思う所には、鈍感だと思うのよね」
どちらにせよ、なんとなく、だ。大した根拠があるわけではない。それなのにエリーヌは確実な理由があるのではないかとクロエに疑いの眼差しを向けてくる。
「お姉さま。わたし、そんなにあの方とお話したことないからわからないわ」
「……でも、初めて会った時、二人きりだったのでしょう?」
姉はすでにアルベリクとクロエがどのようにして会ったのかラコスト夫人を経由して知っている。クロエからすれば、そんなこと知ってどうするのだと言いたいところであるが姉からすれば気になるのだろう。
「初対面でそんなに相手のことなんてわかるわけないわ。それに話した内容もほんの世間話で、全然たいした話ではないのよ」
気にしすぎよ、とクロエが笑って言えば、ようやくエリーヌはため息をついて、そうねと困ったように頬に手を当てた。
「私、この頃おかしいの。アルベリク様のこと考えるとどんな些細なことでも気になり始めて……自分が自分ではなくなっていくようなの」
「きっとそれが恋するってことよ」
さ、とクロエはエリーヌの両肩を叩き、アルベリクのためにうんとおめかしするよう促した。
「今日は思いきってうなじが見える感じで結んでみたらどうかしら」
「変じゃないかしら」
「ちっとも」
いつもと違う髪型ならば、アルベリクだってさすがに気づき、何か言うかもしれない。そこから会話が広がると思えばいいきっかけだ。
「私も……クロエみたいに短く切ろうかしら」
「ええっ? せっかくこんなに長くてきれいなのに? もったいないわ」
自分のように肩までしかなかったら色々とアレンジすることも難しい。
「絶対切っちゃだめよ、お姉さま」
「そう? でもあなたがそこまで言うならそうするわ」
「そうしてちょうだい」
「クロエはもう、伸ばさないの?」
「……ええ」
長いのは嫌だった。成長して鏡を見るたび、母に似ていると気づかされるから。だからせめて短くして自分は母と違う人間なのだと思いたかった。
「それにほら、癖っ毛で長いとまとめるのが大変なの」
だからこれでいいのよ、とクロエは鏡に映る姉に笑った。
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