お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ

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居眠り

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 客間から賑やかな笑い声が聞こえてくる。主にラコスト夫人のものだが、必死に若い二人の仲を盛り上げようと夫人なりに頑張っているのだろう。

(二人だけにしてあげた方が案外すんなりまとまる気がするけれど)

 でもそうしたら今クロエは庭を散歩できていないだろうから、二人にはあと少しだけ夫人との会話に我慢して欲しい。

(お姉さまがあの人と結婚したら、ここを出ていくわよね)

 華やかな王都に新居を構えて暮らしそうだ。使用人は最低限で、姉は自ら家事をやろうと張り切るかもしれない。掃除や洗濯、料理なども興味があると以前言っていた。どこか抜けていそうなアルベリクにエリーヌは甲斐甲斐しく世話を焼くことだろう。

(お姉さま……)

 ディオンと結婚する時、姉が出て行くことを想像してクロエは寂しくて仕方がなかった。結局あんな形になってしまったわけだが、心のどこかで姉がまだそばにいてくれることにほっとしたのも事実だ。

(でも、今度こそ本当に出て行ってしまう)

 姉が出て行った後のことを考えると、とてつもない孤独に襲われそうでクロエは怖かった。

(ううん。こんなこと考えるのはやめよう)

 エリーヌが好きな人と結婚できるなら、笑って祝福しよう。それがクロエにできることだ。

 こんな暗い気持ちになってしまうのは、家の中に閉じ籠ってばかりだからだ。外の空気を思う存分吸って、日の光を十分浴びて、気分転換をしようとクロエは足を動かした。

(昔は広い広いと思っていたけれど、今はあまりそう思わない。わたしがそれだけ大人になったということかしら……)

 けれど迷路のような入り組んだ道を通り過ぎ、白い鳥が水遊びしている光景を見ながら橋を渡り、薔薇のアーチをくぐると、さすがに少々疲れてしまった。

(あそこで少し休憩しよう)

 クロエの体調を慮ったようにガゼボが配置されていた。木の椅子にハンカチをひいて腰掛け、ぼんやりと目の前の光景を眺めていると、温かな気温と心地よい疲労が相まって次第に瞼が重くなってきた。

(少しだけ……ラコスト夫人に気づかれる前に戻れば……)



「――、――エ、クロエ」

 肩を揺さぶられ、薄っすらと目を開けると、久しぶりに見る男の顔がすぐ目の前にあった。

「っ」

 息を呑んだクロエに、ようやく気づいたなと男は屈んでいた腰を戻した。

「モ、モランさま。どうしてここに、」
「帰る途中、せっかくですから庭を散策していって下さいと伯爵夫人に言われて見ていたところ、寝ているあなたを見つけたんだ」

 帰る途中。

「いくら屋敷の庭とはいえ、こんな所で寝ていては――」
「大変! 戻らなくちゃ!」

 勝手に外に出ていたと知られたら、ラコスト夫人はかんかんに怒るだろう。どうしよう。今から急いで戻って、裏口からこっそり入って部屋に戻れば……

「待ってくれ」

 とにかく一刻も早く戻らなくてはと急ぐクロエをアルベリクが腕を掴んで呼び止めた。そのあまりの力強さに顔をしかめてしまう。

「あ、すまない」
「いえ、こちらこそ挨拶もせず申し訳ありませんでした」

 常に落ち着きを持って行動すべき。内心の動揺を曝け出すことははしたないこと。教えられたことを思い出し、クロエは反省した。たしかにこんな形で別れてしまえば、アルベリクの気分を害する。彼が誰かにこのことを愚痴って、笑い物になる可能性だってある。気をつけようとクロエは佇まいを直した。

「モラン様には姉がいつもお世話になっております。どうぞごゆっくりとお帰り下さい」
「せっかくだから庭を案内してくれないか」

 えっ。

「見事な庭なのはわかる。だが一人で見ても正直つまらない。ちょうどあなたがいるので、俺の話相手になってくれると助かる」

 隙を与えない調子で話され、クロエは呆気にとられる。だがすぐにとんでもないことだと首を振った。

(そんなことしたらラコスト夫人をますます怒らせてしまう)

 そして何より姉に悪い。

「せっかくの申し出ですが、わたしでは役不足です。代わりに姉を呼んで参りますわ」
「わざわざ戻るのは手間だ。それに、」

 俺はあなたと話してみたい。
 どこか熱のこもった口調で言われ、なおさら無理だとクロエは思った。

(せっかくお姉さまと二人きりにさせてあげようと思ったのに)

 どうして邪魔するのだと腹立たしい気持ちにさえなってくる。

「わたしはあなたと話すことは何もありません」

 きっぱりと断り、クロエはどうぞお帰り下さいと告げた。

「待ってくれ」

 けれどやはりアルベリクは目の前に立ち塞がる。これではあの時の暴漢者と同じではないか。ますます男に対して嫌悪感が募り、半ば睨むように見据える。

「もう疲れてしまったので家の中へ入りたいのですが」
「では質問にだけ答えてくれ。あなたは何か病気に罹っているのか?」

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