お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ

文字の大きさ
21 / 33

束の間の自由

しおりを挟む
「クロエ」

 珍しいことに、兄に呼ばれた。何だろうと思っていると、しばらくラコスト家が所有する家の一つで過ごすよう言われた。領地から離れた、使われていない屋敷で。なぜですかと問えば、わからないのか? というように眉をひそめられた。

「今の状況では、エリーヌの結婚がちっとも進まない」

 おまえのせいで、と言わんばかりである。いや、実際その通りかもしれない。

 姉に頼まれた通り、クロエはアルベリクと仲を深める振りをしてエリーヌを意識させようとしたが、今のところ大した成果はあげられていない。彼の関心はクロエしかなく、姉のお願いは状況を悪化させるだけのように思えた。

「お姉さまとアルベリク様の結婚を進めるのですか」
「母上はそのつもりみたいだが……」

 はぁ、とため息をつく兄には、二人の仲が到底上手くいくとは思えないのだろう。

「とにかく、おまえはここにいない方がいい。ここから離れろ。落ち着いたら連絡する」
「わかりました」

 いっそ学校をやめなければよかったな、と言われたがどうしようもない。それに学校に通い続けていても、彼は諦めなかっただろうから、結局はこうなったと思う。

 ラコスト夫人もこの件については了承済みらしい。知らないのはエリーヌ、とアルベリクだけ。姉に何も言わず離れるのは心苦しいものがあったが、兄に命じられたとあっては仕方がない、とクロエは言い訳するように自分に言い聞かせた。

(それにわたしがいない方がいい……)

 エリーヌが母親と出かけている間、クロエもひっそりとラコスト家を後にした。見送る兄から不自由はないようにしてあると伝えられ、頭を下げた。

(これで上手くいくといいけれど……)

 馬車に揺られながら、クロエは思う。一緒についてくるメイドが不安そうな顔をしていた。まだ若いのに可哀そうなことをしてしまった。そう思っても、クロエにはどうすることもできない。

(アルベリク様も、諦めてしまえばいいのに……)

 彼は一体自分の何を気に入ったのだろうか。

(愛人の子なのに……)

 周りを傷つけて、生まれてきた子どもなのに。

 何日も馬車に乗って、途中宿屋で休みながらやっと到着した屋敷は、ラコスト家に比べればこぢんまりとした建物だった。周りは自然ばかりで、療養していた、という言い訳にはうってつけであろう。少ないが使用人もいて、クロエは正直肩の荷が降りた心地がした。

 家族、と言っていいかわからないけれど、彼らのもとを離れて暮らす生活はクロエに幾分の心の余裕を取り戻させた。そしてしだいに、アルベリクも諦めるだろうという自信に繋がっていった。

 王都のように洒落た店も、人の数も少ない。使用人だって、向こうと比べて勤務態度が緩やかで、仕事が疎かな部分がある。

 でもクロエはそれでいいと思った。ここに自分を縛るものはない。好きな時に外の空気を吸えるし、誰かの目を気にする必要もない。

(ああ、わたしは今まで窮屈な生活を送っていたのね)

 エリーヌに会えないことは寂しかった。けれどその寂しさを上回る自由をクロエは謳歌していた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】遅いのですなにもかも

砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。 王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。 数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

元公爵令嬢、愛を知る

アズやっこ
恋愛
私はラナベル。元公爵令嬢で第一王子の元婚約者だった。 繰り返される断罪、 ようやく修道院で私は楽園を得た。 シスターは俗世と関わりを持てと言う。でも私は俗世なんて興味もない。 私は修道院でこの楽園の中で過ごしたいだけ。 なのに… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 公爵令嬢の何度も繰り返す断罪の続編です。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

嘘つきな婚約者を愛する方法

キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は嘘つきです。 本当はわたしの事を愛していないのに愛していると囁きます。 でもわたしは平気。だってそんな彼を愛する方法を知っているから。 それはね、わたしが彼の分まで愛して愛して愛しまくる事!! だって昔から大好きなんだもん! 諦めていた初恋をなんとか叶えようとするヒロインが奮闘する物語です。 いつもながらの完全ご都合主義。 ノーリアリティノークオリティなお話です。 誤字脱字も大変多く、ご自身の脳内で「多分こうだろう」と変換して頂きながら読む事になると神のお告げが出ている作品です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 作者はモトサヤハピエン至上主義者です。 何がなんでもモトサヤハピエンに持って行く作風となります。 あ、合わないなと思われた方は回れ右をお勧めいたします。 ※性別に関わるセンシティブな内容があります。地雷の方は全力で回れ右をお願い申し上げます。 小説家になろうさんでも投稿します。

処理中です...