お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ

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欲しかった言葉

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「クロエ」

 気づいたら目の前にアルベリクがいた。ラコスト家の屋敷で、いつか彼と再会した時と同じようにクロエはガゼボにいる。昼間で、天気は晴れ。ここに至るまでの記憶がまるでなかった。

「大丈夫か」
「お姉さまに、会いに来たの」

 はい、って答えて。そうだ、って頷いて。

「いいや、クロエに会いに来た」

 けれどやっぱりアルベリクの答えは決まっていて。残酷なほど変わらなくて、クロエの目から涙が零れた。彼は驚き、数秒、間の抜けた顔を晒していた。だがすぐに慌てた様子になり、恐る恐るこちらに手を伸ばしてくるので、振り払ってクロエは俯いた。

「あなた、前に言ったわよね? わたしのお姉さまの対する態度は異常だって……」
「……ああ」

 内側に握りしめた爪を柔らかな皮膚に痛いほど突き刺す。

「その通りよ。異常だったわ。だって、わたしを愛してくれるのは、お姉さましかいなかったもの」

 生まれてきてはいけない子だと、自分できちんとわかっていた。味方となってくれる両親も互いがいれば、クロエは必要ではなかった。その事実が耐え難かった。

 誰かに必要とされたかった。無償の愛が欲しかった。

「お姉さまだけだったの……」

 生まれてきていいよ、って許してくれたのは。大好きよ、って何の躊躇いもなく抱きしめてくれたのは。

「だから、お姉さまのためなら何でもしようと思った、いい子でいようって……わたしのこと、ずっと好きでいて欲しかったから……嫌いになって欲しくなかったから……」

 でもぜんぶ違った。そもそも姉はクロエのことを愛していなかった。許していなかった。憎んでいた。

 考えてみれば当然だ。誰が自分の両親の仲を滅茶苦茶にした女を許すだろう。誰がその子どもを愛するというのだろう。

「馬鹿みたいよね、わたし。どうかしていたわ……でも、お姉さまがあんまり優しくて、だからもしかしたらって、思ったの……」
「クロエ」

 アルベリクがクロエの両手を包み込むように握った。膝をついて、じっと目線を合わせてくる。

「あなたは馬鹿じゃない。あなたの今までの家庭環境を踏まえれば、そうなっても仕方がない」

 まるで子どもに言い聞かせるような口調。でも言っている内容は淡々とクロエの言葉を否定して……この人はこんな時まで冷静なんだと思った。抱き寄せて違うと否定することもしないのが、アルベリクらしいといえば、らしい気もした。

「お姉さま、愛人を囲ってもいいからあなたと結婚したいそうよ」
「俺はそんなつもり微塵もない。愛する人はあなただけだ。あなたが俺の妻になればいい」
「じゃあ、お姉さまを愛人になさるの?」
「しない。俺は彼女とどうにかなるつもりはない」

 どうして、とクロエは涙で濡れた目でアルベリクを見つめた。

「そんなこと、あなたが最も嫌うことだからだ」

(ああ――)

 どうして彼なんだろう。どうしてその言葉を姉ではなくこの人が理解して、自分に言っているのだろう。

 涙が次々とあふれて、クロエのスカートにぼたぼたと落ちてゆく。アルベリクの手も濡らしてしまった。でも彼はちっとも気にせず、ただ一人、クロエだけを見つめていた。

「クロエ。俺はあなたが好きだ。あなたと一緒にいたい」

 愛を捧げられているのに、クロエは嬉しいと思えなかった。自分は本当に嫌われてしまうのだなと、ここにいない人のことを想ってますます泣いた。

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