お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ

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兄妹の会話

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 兄から事の顛末を聞かされても、部屋で物やメイドに当たり散らしている母と違って、エリーヌの態度はいつもと変わらず落ち着いていた。

「驚かないのか」
「ええ。あの子の様子から、何となく気づいてはいましたから」

 エリーヌの指摘にそうか? と兄は不思議そうな顔をする。クロエの屋敷を出て行くまでの演技は兄からすれば完璧に映っていたのだろう。

 でもずっと一番近くにいたエリーヌにはわかった。

「あの子なら、私と別れる際、アルベリク様と幸せになって、というようなことを言いますもの」

 けれどクロエは何も言わなかった。だからエリーヌは、ああついにこの子はあの人のものになるのだなと思った。

「そこまで意地悪くないだろう」
「だからですわ」

 あの子はいつも、エリーヌの幸せを願っていた。自分のことなんか後回しにして。

「クロエの自己犠牲が煩わしかったのか」
「まぁ、お兄様ったら。そんな言い方」
「では憎んでいたか。母上のように」

 さぁ、とエリーヌは微笑んで大きな窓から薄暗い夕方の光景に目をやった。

 あの子がここへやってきたのは、雲一つない晴れの日だった。珍しいピンクブロンドの髪がふわふわと風になびいていて、可愛らしいと思った。でも同時に、この子が両親の仲を決定的なものにした証なのだと悟った。

「お兄様は、憎かった?」
「良い感情は持てなかったな」

 普通はそうだろう。他の兄弟も同じだ。だからクロエをいじめた。おまえのせいだと詰った。彼らからすれば、当然の報いだった。それをあの子も幼いながらどこかで理解していた。

「でもお前は優しくしていただろう。あれはどういう感情なんだ」
「さぁ、どういうものでしょう。昔だったから、もう思い出せませんわ」

 父を奪い、裏切りを働かせた。母を屋敷から追い出し、自分たちから遠ざけた。その原因となった女は憎かった。その娘も、最初は嫌いだった。いいや、大嫌いだった。

「でも、あんまり泣いて、助けて欲しいっていう目で訴えるから……」
「情が移ったのか?」

 エリーヌは微笑んで、首を傾げた。そんな単純なものではないだろう。汚らわしくて、誰にも愛されなくて、両親の一番にもなれなくて、泣いてばかりいて、憐れで、惨めで、可哀想で、――可愛くて、ふとこの子を愛してやったらどうなるだろうと思った。

『お姉さま!』

 いつだって、彼女は自分の味方だった。

 この子はきっとエリーヌのためなら何でもするだろう。友人より、恋人より、家族より、エリーヌのことを愛してくれるだろう。ひょっとするとエリーヌ自身よりも。だからエリーヌもいつしか――

「アルベリク殿のことはよかったのか」

 そもそも、と兄は同じ血を分けた兄妹だというのに怪訝な眼差しを妹へ向けてくる。

「おまえは本当に彼のことを愛していたのか?」
「もう、酷いお兄様。それが実の妹に対して言う言葉かしら」

 どうだかな、と兄は肩を竦めた。

「事がここまで複雑になったのも、おまえのせいでもある」
「だって、仕方がないわ」

 そう、仕方がない。アルベリクがあそこまでクロエに執着するとは思わなかった。クロエも今度ばかりは手を焼いていた。他の男たちのように手酷く振って、逃げ切って、諦めを誘う結果にはならなかった。

 だからエリーヌも、もう終わりなんだなと思った。

「どうせ私もクロエも、いずれは結婚しなければならない。それなら、一生残るものを与えたいと思ったのよ」

 あの時、あの子が一番欲しい言葉を与えなかった。それが彼女を深く傷つけるものだとしても。もう二度と元の関係に戻れなくても、エリーヌは与えられずにはいられなかった。

 それを憎しみというのならばそうだろう。復讐したといえばその通りになった。

「その傷も、彼がいつかは癒すかもしれないがな」

 ひどい人、とエリーヌは心の中でつぶやいた。彼はエリーヌにはどうすることもできない道を当たり前のように選んで、いとも簡単に連れ去ってしまう。

 自分とクロエは失ってゆく想いしか築けないのに、彼の想いは積み重なって、実を結ぶことが許される。

 なんて理不尽な世界だろう。

「おまえの結婚も、今度は決まるだろうな」

 そうね、とエリーヌは静かに答えた。

 結婚すれば、自分もやがてはその人を愛し、クロエに対する気持ちも遠い過去の想いとして葬り去られていくのだろう。

(さようなら、クロエ)

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