ナタリーの騎士 ~婚約者の彼女が突然聖女の力に目覚めました~

りつ

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12.断れない頼み

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 アリシアは苛立っていた。二人が婚約してもうすぐ半年経つというのにリアンがちっとも憂鬱そうな顔をしないからだ。それどころか幸福に満ちた表情で周囲にナタリーとの暮らしを語っている。

 どうして自分より容姿が劣っている少女にそこまで夢中になれるのか、アリシアにはちっとも理解できなかった。

(それとも殿方にとっては、平凡な女の方がいいのかしら)

 自分が高嶺の花だと疑いもせず、アリシアはそう思った。

「どうやら退屈そうですね、王女殿下」
「ジョナス」

 アリシアはジョナスの整った顔に、いつもは気持ちが晴れるのに、今は苛立ちが募った。憂鬱そうな人間と一緒にいると気が滅入る理由がわかった気がする。

「そう思うなら、何か面白い話をしてくださらない?」
「リアンの話でもしましょうか」
「それ以外でよ」

 ぴしゃりとはねのけた王女に、やれやれとジョナスは肩を竦める。

「どうでしょうか。そんなにリアンの熱愛ぶりが気になるなら、いっそ彼女を王宮に呼んでみては」
「お茶会に何度も誘っているわ。でもいつも断られてしまうの」

 しかもリアンが直接アリシアに言ってくるので、彼女としては強く出ることもできない。

(リアンを使って断るなんて、なんて卑怯なの……)

「ではこういうふうに呼び出してはいかがでしょうか?」

 苛立つアリシアに、ジョナスがある提案をした。

***

「ああ、ナタリー。会えてうれしいわ」
「もったいないお言葉です。王女殿下」
「さぁ、もっと近くでお顔を見せて」

 おずおずとナタリーが近寄り、アリシアがその顔を覗き込む。二人のやり取りを、リアンは内心落ち着かぬまま、そばで見守っていた。

「何度誘っても、わたくしのお茶会に参加してくれないんですもの。ひどいわ、ナタリー」
「申し訳ありません……」

 やんわりとした言い方だが、王女の目は鋭く、ナタリーを無礼者だと告げていた。ナタリーは震える声で、謝ることしかできない。

「殿下。ナタリーは……」
「あなたには聞いていないわ。リアン」

 婚約者を庇う自分の騎士に冷たく言い放ち、アリシアはナタリーに微笑んだ。

「それでも、今回ばかりは断ることはできなかったようね。教会へのお祈りだもの」

 ただの祈りではない。数年前、ユグリットと戦い、亡くなっていった者たちの安らかな死を祈るものだった。そしてこれから起こるかもしれぬ戦いへの勝利、ラシア国の平和を祈るための。

 それを拒むことは、さすがのリアンとナタリーにも許されないことであった。

「お祈りが済んだ後、せっかくですもの。お茶でもして行ってちょうだい。ああ、何ならまだ時間があるわ。あなたのこと、いろいろと教えてちょうだい」

 ねぇ、ナタリー?

「……はい、王女殿下。喜んで」

 可憐に微笑むアリシアの頼みを、ただの平民であるナタリーが断れるはずがない。彼女は震える声で、承諾した。そんな婚約者を見つめるリアンもまた不安を隠しきれない様子であった。

「嬉しいわ、ナタリー」
「では、お茶の用意を」

 ジョナスが待っていたように、侍女にそう言いつけた。すべて彼の言う通りになり、アリシアは大変満足であった。
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