ナタリーの騎士 ~婚約者の彼女が突然聖女の力に目覚めました~

りつ

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14.声

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 中に入り、その大きさにナタリーは息を呑んだ。まず天井が驚くほど高く、幅も奥行きも桁違いな広さがあったのだ。側廊には大きな窓があるものの、幅が広すぎて内部まで光が届かず、中は思ったより薄暗かった。

 中央の信徒が座る座席の両端には大きな柱がずらりと並んでおり、その柱一本一本の間に豪華なシャンデリアが吊り下げられている。永遠に続くかと思われる長い身廊の先に祭壇があり、天井近くまであるステンドグラスがそこだけ、外からの光を照らしていた。

(すごい……)

 外の世界と隔絶され、まるでもう一つの別の世界に足を踏み入れてしまったような錯覚にナタリーは陥った。それは彼女だけではないだろう。アリシアや他の訪問者たちも、みなうっとりとした表情で中を見渡していた。

「いつ来ても、とても素晴らしい場所ね」
「はい。心が洗われるようです」
「あなたもそう思うでしょう?」
「ええ」

 ナタリーは素直に頷いた。地上の穢れた場所とは無縁の、神の住む領域とはこんな場所かもしれない。――だからだろうか。ナタリーの不安はいっそう強まるばかりだった。

「さあ。せっかくですもの。一番前で、神へ祈りましょう」

 そう言って、ほぼ最前列にナタリーは並ぶこととなった。緊張のせいだろうか。いやに心臓の鼓動が早く感じる。

(リアン……)

 まもなく司教と思われる人間が入ってきた。一冊の本を片手に、何かを呟き、手をあげる。荘厳な調べが、何人もの折り重なった歌声が、ナタリーの鼓膜を震わせる。頭の中が何かを貫くように軋む。

 ――多くのひとを救いなさい。

 歌声ではない。別の声が、ナタリーには聞こえた。頭を押さえる。隣にいた女性が、ちらりとこちらを見た。

 ――おまえはそのためにここに……

 息が苦しい。と思ったら、溺れるような感覚に、突如ナタリーは襲われた。耐え切れず、彼女はその場に座り込んだ。首元を押さえるナタリーに隣の女性が声をあげ、前へ並んでいたアリシアたちが迷惑そうに振り返った。

「どうかしましたか」

 ジョナスが率先してナタリーの下へ駆け寄り、顔を覗き込む。玉のような汗を額にかいたナタリーにジョナスは熱でもあるのかと聞いたが、彼女は答えることができず、助けを求めるように祭壇へ、その上のステンドグラスへと目を向けた。

 赤、青、紫などの色が使われ、花びらが広がったような形を描いた円形のステンドグラスは神秘的な光を放っていた。その下の縦長のステンドグラスには、預言者と言われる女性が数人、描かれていた。彼女たちはみな、神からの言葉を授かり、自身の使命を果たすべくその身を人々のために捧げてきた。

 ――自分の役目を果たしなさい。
 ――ああ、わたしは……

 腕から指先にかけて、焼けるような熱を感じた。喉が渇く。息ができない。もう、溺れてしまう。戻ることはできない。

「ナタリー!」

 誰かの声が聞こえた気がした。振り返って、大丈夫だと言ってあげたかったが、彼女の意識はそこで途絶えた。

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