ナタリーの騎士 ~婚約者の彼女が突然聖女の力に目覚めました~

りつ

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21.王女殿下の提案

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 残されたのはアリシアとリアンのみ。リアンは呆然としたまま、事態を飲み込めずにいる。アリシアもまた、腹の虫が収まらなかった。彼は自分だけの騎士なのに、のこのこと他の女のもとへ会いに行った。リアンをどう罰しようが、彼はまたナタリーに会いに行くだろうという予感があった。

(どうしてリアンは、あんな女のために必死になるの?)

 地味で、平凡で、どこにでもいる女。ただ人を癒す力があるだけ。アリシアからすれば、聖女という有り難い地位に就けたのだから、多少無理をしてでも働くのは当然のことだった。ナタリーもまた、自分に仕える臣民の一人なのだから。

(それなのにどうして……)

 そこでふっと、アリシアは思いついた。リアンを、そしてあのナタリーとかいう田舎娘との仲を切り裂く方法を。それはとても王女の心を満たす名案に思えた。

「いいでしょう。リアン。あなたの要求を呑んでも構いませんよ」
「本当ですか」

 絶望していたリアンの顔がぱっと嬉しそうに輝く。それを腹の中で嘲笑し、アリシアは慈悲深い笑みを作った。

「ええ、リアン。もしあなたが、わたくしに絶対の忠義を誓ってくれるというならば、わたくしはあなたの願いを聞き入れてあげましょう」

 リアンは王女が何を言いたいのかわからず、戸惑った表情を浮かべた。鈍いわね、と思いながらも、寛大なアリシアは優しく言い換えてあげた。

「わたくしのただ一人の騎士として、そして一人の男性として、その愛を捧げて欲しいのです」

 その代わりに、と王女はいつもと変わらぬ美しい笑みで答える。

「ナタリーの身柄は必ず保証しますわ」

 これならば、とアリシアはリアンを見つめた。彼が断るはずがない。彼にとってナタリーは守るべき存在だから。父と自分に対して、図々しく願い出るほど大切な存在だから。その事実は酷く気に入らないけれど、リアンが自分だけのものになるならば、アリシアは良しとした。

(わたくしのものにさえなれば、後はどうにでもなるわ)

 だからどうか――

「王女殿下。私はあなたを見た時、なんて美しい人なのだろうと思いました」

 アリシアは当然だとばかりに思った。自分の姿に、今まで心を奪われなかった者はいない。

「ですが、あなたがこんな提案をするなんて、私は今の今まであなたを誤解していたようです」

 アリシアは、リアンが喜んで承諾すると思っていた。泣いて感謝すらしてくれると思っていた。
 
 けれど立ち上がってこちらを見るリアンの目は冷たく、軽蔑の色がはっきりと浮かんでいた。

「私が愛を捧げる人物は、ナタリー以外にはおりません」

 アリシアはかあっと頬が熱くなった。そしてすぐに自分を辱めたこの男が憎らしくなった。せっかくこちらが譲歩してやったというのに、この男は自分を辱しめた。王女である自分を。

(許せない)

「……そう。でしたら、彼女は一生この国の民を救い続けるでしょう」

 たとえナタリー自身が命を落とす羽目になっても構わない。むしろそうなってしまえ、と美しい王女は思うのだった。

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