ナタリーの騎士 ~婚約者の彼女が突然聖女の力に目覚めました~

りつ

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47.あなたに会いたい

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「聖女様。先ほどの男は一体誰でしょうか」

 護衛を任されていた騎士にたずねられ、ナタリーは前を向いたまま答えた。

「彼はユグリット国へ使者として派遣されていた騎士です」
「えっ、そうだったのですか」

 同じ騎士仲間だと知って、青年は慌てた態度をとる。

「俺、失礼な態度をとってしまいました」
「仕方ありません。あなたが騎士団に入る前に彼は向こうへ出立しましたもの……」

 それだけ長い時が経っていた。

(でもついに、)

「あの、聖女様」

 目的の教会へ着き、扉を開けようとした騎士が恐る恐るといった口調で話しかける。

「あの方とは、お知り合いなのですか」

 ナタリーは一瞬黙り、でも次の瞬間には微笑んで見せた。

「ええ、幼馴染だったんです」

 でもそれだけだと答えれば、青年はまだ何か言いたげな顔をしながらも頷いてくれた。ナタリーもこれ以上たずねられないようにと目を逸らし、中へ足を踏み入れた。

「では夕方までわたしは神に祈りを捧げていますね」
「あ、はい」

 ナタリーが倒れた時、司教の一人が神への祈りが足りなかったからではないかと意見する者がいた。だから最低一日一回は、余裕がある場合はもっと多くの時間を祈りに捧げることが決められた。

 祈りが力に関係しているかはナタリーにわからない。たぶんあまり関係はないと思う。でもナタリーの意見は必要なく、口に出すことでかえって混乱を招くのならばと彼女は大人しく従った。

 それに神に祈る時間は一人になれる。いつも誰かしらに囲まれているナタリーには休む以外で一人になれる時間はとても貴重なものであった。今は特に……

 ナタリーはふらふらと長椅子に座り込むと、両手で顔を覆った。

『ナタリー』

 リアンが生きていた。無事に帰ってきていた。よかった。本当によかった。……でも、とナタリーは目を強く瞑った。

(会いたい)

 彼の声が聞きたい。顔が見たい。いつかのように力いっぱい自分を抱きしめて欲しい。

(会いたいよ、リアン……)

 必死に押し込めていた感情が痛いほどナタリーの胸を叩いた。

(こんな感情は切り捨てなきゃいけないのに……)

 自分で拒んだことじゃないか。リアンのために。それなのにどうして……

「ナタリー」

 はっと現実に帰り、慌てて涙を拭う。中へ入ってきたことにも気づかなかった。近づいてくる足音に呼吸を整え、笑顔で振り返った。

「何かしら、オーウェン」

 じっと自分を見下ろす幼馴染に心臓の音が早まる。

「マークが、おまえの様子がどこかおかしかったと言っていたから」

 仕事熱心な部下の報告を聴いて、わざわざ足を運んできてくれたらしい。オーウェンもまた自分の職務に忠実である。

「何でもないわ。彼の考えすぎよ」
「……泣いていたのか」

 ぎくりとする。違う、と答えようとしてオーウェンの手が頬に触れた、とわかってナタリーはとっさに振り払っていた。

「あ、」

 目を見開くオーウェンに、ナタリーはごめんなさいと謝っていた。昔のように。

「その、驚いてしまって」
「いや、俺こそ急に触れて悪かった」

 沈黙が気まずく、怪我はないかと口にすればこれくらいとぎこちない調子で顔を背けられる。

「……リアンに、会ったんだろう?」

 自分の様子がおかしくなるのは、リアン絡みだとオーウェンはとっくに気づいている。今さら誤魔化しようがないことだとナタリーは頷いた。それによく考えればマークが報告しているはずだ。

「さっき、回廊を歩いているのにお互い気づいて……それだけだよ」
「会いに、行かないのか」

 行かない。行けない。

 ナタリーはちょっと笑って、無言でそう伝えた。オーウェンはまた黙り込む。

「俺の方から、後で会いに行ってみるよ」

 ナタリーは黙って立ち上がり、背を向けた。

「心配させてごめんなさい。これからきちんと祈るから……一人にさせて下さい」

 ナタリーが頼んでも、オーウェンはしばらくそこに突っ立っていた。言いたいことがある。でも言えない。いつもそうだ。もうずっと彼とはこんな感じであった。特にリアンのことは互いにとって触れてはいけない話題だった。

「今日は中で、待ってちゃいけないか」

 ナタリーは黙って首を振った。オーウェンがどんな表情をしたのかわからないが、わかったと言い、重い扉を開けて出て行った。

(リアン……)

 これで正しいんだよね、とナタリーはステンドグラスに描かれた聖女たちを見上げながら問いかけた。


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