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46.ほんのわずかな再会

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 宿舎に帰りながら、リアンは物思いに耽る。まだ早い時刻であるが、長期間に渡った仕事の疲れをとることも立派な務めだと言われ、今日はもう休むよう国王陛下やジョナスから言われている。アリシアは不満そうだったが、明日からずっとそばで仕えるという事実に渋々と納得してくれた。

(明日からまた王女殿下の警護か……)

 茶会を開きたいとアリシアが無邪気に言っていたことを思い出す。断ればきっと彼女の機嫌を損ねる。

(話が聞きたいと言っていたが、何を話せばいいのか)

 アレクシスのことを話してみようか。アリシアとそう変わらぬ年齢である。彼は容姿も整っている方なので、彼女も気に入るかもしれない。他には……

(聖女のことは……)

 リアンは足を止めた。考え事をしながら歩いていたせいか、気づけば宿舎とは違う方へ足が向いていた。聖女のいる高い塔の方向へと。

『リアン』

 様々な感情が込み上げ、いっそこのまま荒ぶる激情に身を任せようとも思ったが、結局はくるりと方向転換して背を向けた。これでいいと必死に自分に言い聞かせて――

「聖女様!」

 それほど大きな声ではなかった。けれどリアンの耳ははっきりとその言葉を拾い、足を止めていた。見てはいけないと思いながらも、声のした方を振り向いていた。

 記憶の中よりずっと伸びた薄茶色の髪の毛。前を見据える青い瞳。中庭を挟んだ回廊にリアンが今の今まで考えていた人がいる。

(ナタリー……)

 ふいに目頭が熱くなって、泣きそうになった。ああ、自分は帰ってきた。ずっと会いたかった。離れている間、一日とて彼女のことを忘れたことなどない。

(こっちを見てくれ、ナタリー)

 きみの声が聞きたい。顔が見たい。抱きしめたい。

 リアンのそんな心の叫びが通じたのか、ふいにナタリーがこちらを向いた。目を大きく見開いて、歩みが止まる。ちょうど真正面。向かい合う形で、二人は見つめあった。

 久しぶりに見るナタリーは、洗練されており、哀しみに耐えうる美しさが、彼女という存在を引き立たせていた。

(ナタリー)

 リアンはナタリーをただひたすら見つめた。わずかな時間が永遠にも思えるほど強く、胸を甘くしめつける。

 でもそれもいつまでも続かない。付き添っていた人間が彼女を催促する言葉をかけたのか、ナタリーが顔を逸らしたからだ。頷いて、真っすぐと前を向いて歩き出した。代わりに一人の男がリアンの方を向いた。

 若い、新米の騎士だろうか。見たことのない顔だった。リアンを睨むように一瞥し、ナタリーの後ろを追った。彼女の背を追いかけることはリアンにはできなかった。ただ未練がましく彼女の後ろ姿を見つめることしかできない。

 そんな自分の現状にリアンはなぜかおかしくて、笑えてくる。

(俺は一体何のために、)

 自分を睨んだ、名も知らぬ騎士が羨ましかった。彼は自分の主人を守ることができるのだ。命をかけて。

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