47 / 74
46.ほんのわずかな再会
しおりを挟む
宿舎に帰りながら、リアンは物思いに耽る。まだ早い時刻であるが、長期間に渡った仕事の疲れをとることも立派な務めだと言われ、今日はもう休むよう国王陛下やジョナスから言われている。アリシアは不満そうだったが、明日からずっとそばで仕えるという事実に渋々と納得してくれた。
(明日からまた王女殿下の警護か……)
茶会を開きたいとアリシアが無邪気に言っていたことを思い出す。断ればきっと彼女の機嫌を損ねる。
(話が聞きたいと言っていたが、何を話せばいいのか)
アレクシスのことを話してみようか。アリシアとそう変わらぬ年齢である。彼は容姿も整っている方なので、彼女も気に入るかもしれない。他には……
(聖女のことは……)
リアンは足を止めた。考え事をしながら歩いていたせいか、気づけば宿舎とは違う方へ足が向いていた。聖女のいる高い塔の方向へと。
『リアン』
様々な感情が込み上げ、いっそこのまま荒ぶる激情に身を任せようとも思ったが、結局はくるりと方向転換して背を向けた。これでいいと必死に自分に言い聞かせて――
「聖女様!」
それほど大きな声ではなかった。けれどリアンの耳ははっきりとその言葉を拾い、足を止めていた。見てはいけないと思いながらも、声のした方を振り向いていた。
記憶の中よりずっと伸びた薄茶色の髪の毛。前を見据える青い瞳。中庭を挟んだ回廊にリアンが今の今まで考えていた人がいる。
(ナタリー……)
ふいに目頭が熱くなって、泣きそうになった。ああ、自分は帰ってきた。ずっと会いたかった。離れている間、一日とて彼女のことを忘れたことなどない。
(こっちを見てくれ、ナタリー)
きみの声が聞きたい。顔が見たい。抱きしめたい。
リアンのそんな心の叫びが通じたのか、ふいにナタリーがこちらを向いた。目を大きく見開いて、歩みが止まる。ちょうど真正面。向かい合う形で、二人は見つめあった。
久しぶりに見るナタリーは、洗練されており、哀しみに耐えうる美しさが、彼女という存在を引き立たせていた。
(ナタリー)
リアンはナタリーをただひたすら見つめた。わずかな時間が永遠にも思えるほど強く、胸を甘くしめつける。
でもそれもいつまでも続かない。付き添っていた人間が彼女を催促する言葉をかけたのか、ナタリーが顔を逸らしたからだ。頷いて、真っすぐと前を向いて歩き出した。代わりに一人の男がリアンの方を向いた。
若い、新米の騎士だろうか。見たことのない顔だった。リアンを睨むように一瞥し、ナタリーの後ろを追った。彼女の背を追いかけることはリアンにはできなかった。ただ未練がましく彼女の後ろ姿を見つめることしかできない。
そんな自分の現状にリアンはなぜかおかしくて、笑えてくる。
(俺は一体何のために、)
自分を睨んだ、名も知らぬ騎士が羨ましかった。彼は自分の主人を守ることができるのだ。命をかけて。
(明日からまた王女殿下の警護か……)
茶会を開きたいとアリシアが無邪気に言っていたことを思い出す。断ればきっと彼女の機嫌を損ねる。
(話が聞きたいと言っていたが、何を話せばいいのか)
アレクシスのことを話してみようか。アリシアとそう変わらぬ年齢である。彼は容姿も整っている方なので、彼女も気に入るかもしれない。他には……
(聖女のことは……)
リアンは足を止めた。考え事をしながら歩いていたせいか、気づけば宿舎とは違う方へ足が向いていた。聖女のいる高い塔の方向へと。
『リアン』
様々な感情が込み上げ、いっそこのまま荒ぶる激情に身を任せようとも思ったが、結局はくるりと方向転換して背を向けた。これでいいと必死に自分に言い聞かせて――
「聖女様!」
それほど大きな声ではなかった。けれどリアンの耳ははっきりとその言葉を拾い、足を止めていた。見てはいけないと思いながらも、声のした方を振り向いていた。
記憶の中よりずっと伸びた薄茶色の髪の毛。前を見据える青い瞳。中庭を挟んだ回廊にリアンが今の今まで考えていた人がいる。
(ナタリー……)
ふいに目頭が熱くなって、泣きそうになった。ああ、自分は帰ってきた。ずっと会いたかった。離れている間、一日とて彼女のことを忘れたことなどない。
(こっちを見てくれ、ナタリー)
きみの声が聞きたい。顔が見たい。抱きしめたい。
リアンのそんな心の叫びが通じたのか、ふいにナタリーがこちらを向いた。目を大きく見開いて、歩みが止まる。ちょうど真正面。向かい合う形で、二人は見つめあった。
久しぶりに見るナタリーは、洗練されており、哀しみに耐えうる美しさが、彼女という存在を引き立たせていた。
(ナタリー)
リアンはナタリーをただひたすら見つめた。わずかな時間が永遠にも思えるほど強く、胸を甘くしめつける。
でもそれもいつまでも続かない。付き添っていた人間が彼女を催促する言葉をかけたのか、ナタリーが顔を逸らしたからだ。頷いて、真っすぐと前を向いて歩き出した。代わりに一人の男がリアンの方を向いた。
若い、新米の騎士だろうか。見たことのない顔だった。リアンを睨むように一瞥し、ナタリーの後ろを追った。彼女の背を追いかけることはリアンにはできなかった。ただ未練がましく彼女の後ろ姿を見つめることしかできない。
そんな自分の現状にリアンはなぜかおかしくて、笑えてくる。
(俺は一体何のために、)
自分を睨んだ、名も知らぬ騎士が羨ましかった。彼は自分の主人を守ることができるのだ。命をかけて。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
298
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる