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45.神の真意
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「そうですか。ユグリットの聖女は魔女として処刑されましたか……」
リアンの報告にジョナスは興味深そうな声で頷いた。その態度にリアンは自然と表情が曇る。
「なにか?」
「いや……」
ずいぶんと悲惨な最期を遂げたというのに相変わらずどうでもいいという態度をとる。それにリアンは内心腹を立てたのだが、考えてみればジョナスには敵国の娘がどうなろうと関係ないのかもしれない。
「あちらに長く居座ったことで情がわきましたか」
「違う。ただ……」
「ただ?」
いや、何でもないとリアンは首を振った。ジョナスは気になる様子であったが、まぁいいでしょうとそれ以上たずねることはしなかった。
「あなたのおかげで無駄な損害を出さずに済みましたしね」
ジョナスらしい言葉である。もっとも、リアンも同じ意見であった。利益のない戦争に首を突っ込むことほど、馬鹿げたことはない。実際ラシア国が関係していたら、もっと面倒な事態に発展していただろう。
「次の国王はアレクシス様ですね」
「ああ。苛烈な面もお持ちであるが、人を惹きつけるお方でもある」
「私の個人の意見を述べるなら、カルロス殿下の方が付き合いやすい相手でしたね」
「御しやすい、の間違いだろう」
リアンの訂正に、ジョナスは静かに笑った。
「すぐにその言葉が出るということはあなたもそうお思いなのでは?」
「……そうだな。少なくともアレクシス陛下より命の危機を感じることは少なかっただろうな」
つくづくこれからの付き合いが憂鬱である。
「私もなおさら頭を痛めることになりそうです」
「それが俺たち臣下の務めでもあるがな」
たとえどんな君主であっても支える。それがリアンたち臣下にできることだ。
「留守の間、何か変わりはあったか」
「いえ特に。病の方は聖女様のおかげで増えることもなく、完全に収まったと言ってよろしいでしょう」
そうか、とリアンは胸をなで下ろした。そんな彼の様子をじっと見つめ、ジョナスは続けて報告した。
「ナタリー様も、お元気そうですよ」
リアンは軽く頷き、席を立った。報告は済んだので、今日はもう休むと告げた。
「お会いになられるのなら、」
「いや、息災であることがわかっただけで十分だ」
「ですが」
いいんだと遮り、リアンは部屋を出ようとする。まるでナタリーに会いたくないというリアンの態度に、ジョナスが思わずといった様子で声をかける。
「何かあったのですか」
いや……とリアンは口ごもった。あったと答えているようなものだ。
「あちらの聖女に、ナタリー殿が重なる部分でもあったんですか」
「……おまえはどう思う」
リアンにはディアナの最期が忘れられない。あの微笑みが夜な夜な夢に浮かんではひどく魘される。
「彼女は本当に聖女だったのだろうか、とすら思うんだ」
「あなたがそう思うのは、王になるのがカルロスだと考えているからでしょう」
どういう意味だ、とリアンは振り返った。
「王になるのはカルロスだと神が告げたんだぞ」
これはあくまでも私の考えですが、と前置きした上でジョナスは語る。
「聖女の役目はあくまでも内乱を収め、王を一人に定めることだった。ただ神の声を聴くことができるディアナはカルロス殿下に心酔していた。でしたらその場合、カルロスを王にせよ、と命じた方が、彼女もすんなりと動いてくれる。神はそう考えたのではないでしょうか」
リアンは眉をひそめた。今ジョナスが話してくれた通りなら、神はなんて非道なのだろうか。
「ディアナの純粋な心を利用したというわけか」
「あくまでも私の都合のよい解釈です」
本当のことなど誰にもわからない。
「カルロス殿下が王になった方が、世界の秩序は守られたのかもしれない。けれどユグリットの繁栄を基準にするならば、アレクシス陛下の方が適任と言えるかもしれない。何を基準に王に相応しいと判断したのか、私たちには推測することしかできません」
そうでしょう? とジョナスが同意を求める。その通りだ。ディアナは死んだ。神の真意は、一生誰にもわからない。
「リアン。ユグリットの聖女は我が国とは違います。実際に目に見える実績がある。人命を救い、恩を売ることができる」
だから安心すればいい。
ジョナスがそう言っても、リアンの心が晴れることはなかった。
リアンの報告にジョナスは興味深そうな声で頷いた。その態度にリアンは自然と表情が曇る。
「なにか?」
「いや……」
ずいぶんと悲惨な最期を遂げたというのに相変わらずどうでもいいという態度をとる。それにリアンは内心腹を立てたのだが、考えてみればジョナスには敵国の娘がどうなろうと関係ないのかもしれない。
「あちらに長く居座ったことで情がわきましたか」
「違う。ただ……」
「ただ?」
いや、何でもないとリアンは首を振った。ジョナスは気になる様子であったが、まぁいいでしょうとそれ以上たずねることはしなかった。
「あなたのおかげで無駄な損害を出さずに済みましたしね」
ジョナスらしい言葉である。もっとも、リアンも同じ意見であった。利益のない戦争に首を突っ込むことほど、馬鹿げたことはない。実際ラシア国が関係していたら、もっと面倒な事態に発展していただろう。
「次の国王はアレクシス様ですね」
「ああ。苛烈な面もお持ちであるが、人を惹きつけるお方でもある」
「私の個人の意見を述べるなら、カルロス殿下の方が付き合いやすい相手でしたね」
「御しやすい、の間違いだろう」
リアンの訂正に、ジョナスは静かに笑った。
「すぐにその言葉が出るということはあなたもそうお思いなのでは?」
「……そうだな。少なくともアレクシス陛下より命の危機を感じることは少なかっただろうな」
つくづくこれからの付き合いが憂鬱である。
「私もなおさら頭を痛めることになりそうです」
「それが俺たち臣下の務めでもあるがな」
たとえどんな君主であっても支える。それがリアンたち臣下にできることだ。
「留守の間、何か変わりはあったか」
「いえ特に。病の方は聖女様のおかげで増えることもなく、完全に収まったと言ってよろしいでしょう」
そうか、とリアンは胸をなで下ろした。そんな彼の様子をじっと見つめ、ジョナスは続けて報告した。
「ナタリー様も、お元気そうですよ」
リアンは軽く頷き、席を立った。報告は済んだので、今日はもう休むと告げた。
「お会いになられるのなら、」
「いや、息災であることがわかっただけで十分だ」
「ですが」
いいんだと遮り、リアンは部屋を出ようとする。まるでナタリーに会いたくないというリアンの態度に、ジョナスが思わずといった様子で声をかける。
「何かあったのですか」
いや……とリアンは口ごもった。あったと答えているようなものだ。
「あちらの聖女に、ナタリー殿が重なる部分でもあったんですか」
「……おまえはどう思う」
リアンにはディアナの最期が忘れられない。あの微笑みが夜な夜な夢に浮かんではひどく魘される。
「彼女は本当に聖女だったのだろうか、とすら思うんだ」
「あなたがそう思うのは、王になるのがカルロスだと考えているからでしょう」
どういう意味だ、とリアンは振り返った。
「王になるのはカルロスだと神が告げたんだぞ」
これはあくまでも私の考えですが、と前置きした上でジョナスは語る。
「聖女の役目はあくまでも内乱を収め、王を一人に定めることだった。ただ神の声を聴くことができるディアナはカルロス殿下に心酔していた。でしたらその場合、カルロスを王にせよ、と命じた方が、彼女もすんなりと動いてくれる。神はそう考えたのではないでしょうか」
リアンは眉をひそめた。今ジョナスが話してくれた通りなら、神はなんて非道なのだろうか。
「ディアナの純粋な心を利用したというわけか」
「あくまでも私の都合のよい解釈です」
本当のことなど誰にもわからない。
「カルロス殿下が王になった方が、世界の秩序は守られたのかもしれない。けれどユグリットの繁栄を基準にするならば、アレクシス陛下の方が適任と言えるかもしれない。何を基準に王に相応しいと判断したのか、私たちには推測することしかできません」
そうでしょう? とジョナスが同意を求める。その通りだ。ディアナは死んだ。神の真意は、一生誰にもわからない。
「リアン。ユグリットの聖女は我が国とは違います。実際に目に見える実績がある。人命を救い、恩を売ることができる」
だから安心すればいい。
ジョナスがそう言っても、リアンの心が晴れることはなかった。
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