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44.帰還
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「リアン、よくぞ無事に戻ってきてくれた」
主君の言葉に、リアンはいっそう低く頭を下げた。ユグリットへ旅立ってからラシアに戻ってくるまで、半年以上の月日が経過していた。待っている方も、さぞ気が気ではなかっただろう。
「ユグリットと争うことにならず、本当によかった」
感謝しているぞ、と朗らかな声で礼を述べる姿は、アレクシスとはまるで違う。彼ならば自分の国のために働くことは臣下の当然の務めだと思っているだろうから。
(苛烈なお人柄ではあるが、一方で臣下を導くのに長けた方でもある)
王として相応しい人間。アレクシスがユグリット国の新たな王となり、これからは付き合っていかなければならない。
『リアンよ、しばらくの間は戴冠式やらカルロスの仕出かした後始末でそちらに構う暇ははないだろうが、すべてが片付けばまた会う機会があるだろう。楽しみにしておくがよい』
一体どんな用件で、と想像するだけで今から憂鬱である。味方にすれば頼りになる存在だが、敵となれば厄介な相手であるのは間違いない。
「リアンよ、どうした」
「あ、いえ……お役に立てたのならば、光栄でございます」
「うむ。今回の働きに応じて、何か褒美を――」
「リアン!」
明るい声が国王の話を遮り、こちらへ駆け寄ってくる姿があった。
「アリシア。はしたないぞ」
「お父様。どうかお許しになって。リアンがようやく帰ってきてくれたんですもの」
彼女はリアンの目の前で来ると、彼の頬に両手を当て、無理矢理顔を上げさせた。強引で大胆な行動に後ろに控えて居た侍女が姫様! と声をあげ、父親である国王も娘の名を咎めるように呼んだ。
けれどアリシアは気にせず、きらきらした瞳でリアンの顔を覗き込んでくる。
「リアン。会いたかったわ」
目に涙を浮かべ、王女は騎士にそう言った。まるで生き別れになった恋人がようやく帰ってきたというように、彼女は何度もリアンの名を呼んだ。
そんな王女の様子に、厳しい眼差しを向けていた周りも自然と頬が緩み、仕方がないというようにため息をついた。同性である侍女には彼女の気持ちが痛いほどわかるのか、涙ぐんでさえいる。
ただ一人、リアンだけが冷めた心地で王女を見つめていた。
「王女殿下。私はこの通り無事ですので……」
そう言ってやんわりと彼女を突き放せば、アリシアはようやく自分の振る舞いがこの場に相応しくないと気づいたようで、ぱっと恥ずかしがった様子で離れてくれた。それでも視線はリアンに注がれたままだったが。
「ね、リアン。これからわたくしとお茶でもして、ぜひ向こうでのおまえの話を聞かせてちょうだい」
アリシアのお願いに、リアンは申し訳なさそうな顔をした。
「王女殿下。せっかくの申し出ですが、私にはまだ報告すべきことがあるのです」
「そんなの後でいいじゃない」
今は自分を優先して欲しいというアリシアの我儘にも、リアンは頷いてくれない。見かねた国王がアリシア、と呼んだ。
「今日のところは我慢しなさい。彼にはまだ仕事が残っているのだ」
「でも……」
「無事に帰ってきた姿を見られただけでも、満足しなさい」
アリシアはまだ何か言いたげであったが、父親の言葉にも納得するところがあったのか、渋々と引き下がってくれた。
「わかったわ。でも、明日ならいいでしょう?」
おまえはわたくしの騎士なのだから、とアリシアが言えば、リアンはそうですねと微笑んだ。
「明日からはまたアリシア様に仕えさせていただきます」
「ええ、お願いしますね!」
『もし、そなたがラシアの聖女を魔女にしたくないのならば、聖女を絶対視する者を王にするしかないな』
国王や王女の笑顔は、なぜかアレクシスの言葉を思い出させたのだった。
主君の言葉に、リアンはいっそう低く頭を下げた。ユグリットへ旅立ってからラシアに戻ってくるまで、半年以上の月日が経過していた。待っている方も、さぞ気が気ではなかっただろう。
「ユグリットと争うことにならず、本当によかった」
感謝しているぞ、と朗らかな声で礼を述べる姿は、アレクシスとはまるで違う。彼ならば自分の国のために働くことは臣下の当然の務めだと思っているだろうから。
(苛烈なお人柄ではあるが、一方で臣下を導くのに長けた方でもある)
王として相応しい人間。アレクシスがユグリット国の新たな王となり、これからは付き合っていかなければならない。
『リアンよ、しばらくの間は戴冠式やらカルロスの仕出かした後始末でそちらに構う暇ははないだろうが、すべてが片付けばまた会う機会があるだろう。楽しみにしておくがよい』
一体どんな用件で、と想像するだけで今から憂鬱である。味方にすれば頼りになる存在だが、敵となれば厄介な相手であるのは間違いない。
「リアンよ、どうした」
「あ、いえ……お役に立てたのならば、光栄でございます」
「うむ。今回の働きに応じて、何か褒美を――」
「リアン!」
明るい声が国王の話を遮り、こちらへ駆け寄ってくる姿があった。
「アリシア。はしたないぞ」
「お父様。どうかお許しになって。リアンがようやく帰ってきてくれたんですもの」
彼女はリアンの目の前で来ると、彼の頬に両手を当て、無理矢理顔を上げさせた。強引で大胆な行動に後ろに控えて居た侍女が姫様! と声をあげ、父親である国王も娘の名を咎めるように呼んだ。
けれどアリシアは気にせず、きらきらした瞳でリアンの顔を覗き込んでくる。
「リアン。会いたかったわ」
目に涙を浮かべ、王女は騎士にそう言った。まるで生き別れになった恋人がようやく帰ってきたというように、彼女は何度もリアンの名を呼んだ。
そんな王女の様子に、厳しい眼差しを向けていた周りも自然と頬が緩み、仕方がないというようにため息をついた。同性である侍女には彼女の気持ちが痛いほどわかるのか、涙ぐんでさえいる。
ただ一人、リアンだけが冷めた心地で王女を見つめていた。
「王女殿下。私はこの通り無事ですので……」
そう言ってやんわりと彼女を突き放せば、アリシアはようやく自分の振る舞いがこの場に相応しくないと気づいたようで、ぱっと恥ずかしがった様子で離れてくれた。それでも視線はリアンに注がれたままだったが。
「ね、リアン。これからわたくしとお茶でもして、ぜひ向こうでのおまえの話を聞かせてちょうだい」
アリシアのお願いに、リアンは申し訳なさそうな顔をした。
「王女殿下。せっかくの申し出ですが、私にはまだ報告すべきことがあるのです」
「そんなの後でいいじゃない」
今は自分を優先して欲しいというアリシアの我儘にも、リアンは頷いてくれない。見かねた国王がアリシア、と呼んだ。
「今日のところは我慢しなさい。彼にはまだ仕事が残っているのだ」
「でも……」
「無事に帰ってきた姿を見られただけでも、満足しなさい」
アリシアはまだ何か言いたげであったが、父親の言葉にも納得するところがあったのか、渋々と引き下がってくれた。
「わかったわ。でも、明日ならいいでしょう?」
おまえはわたくしの騎士なのだから、とアリシアが言えば、リアンはそうですねと微笑んだ。
「明日からはまたアリシア様に仕えさせていただきます」
「ええ、お願いしますね!」
『もし、そなたがラシアの聖女を魔女にしたくないのならば、聖女を絶対視する者を王にするしかないな』
国王や王女の笑顔は、なぜかアレクシスの言葉を思い出させたのだった。
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