バッドエンド回避のために結婚相手を探していたら、断罪した本人(お兄様)が求婚してきました

りつ

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16、お兄様とのデート

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 聞きたかった声にはっとして振り返れば、フェリクスの姿があった。イザベルはほっと安堵して、駆け寄ってきた兄の腕の中に抱きとめられた。

「お前が私に会いに来たと聞いて探していたんだ。見つけられてよかった」
「ええ、見つけてもらえてよかった……」

 いつになく心細いイザベルの声にフェリクスも何かあったのかと心配し、次いでレーモンたちの方を見た。彼らはイザベルとフェリクスの親密な様子に呆気にとられた状態で困惑した顔をしていた。

 だがその中でもさすがというべきか、レーモンが事情を尋ねる。

「フェリクス。きみがそんなに慌てるとは珍しいな。よほど大事な女性に見えるが」
「はい。私の妹で、婚約者でございます」

 この答えにまた三人は沈黙した。兄があまりにも淀みなくさらりと答えたので、理解するのに時間を要したのかもしれない。

「……フェリクス。きみは妹と結婚するのか?」
「はい。血は繋がっておりませんので」
「そういえば、フェリクス殿は前侯爵の養子でしたね」

 赤髪のがっしりした体格の男が意外にも丁寧な口調で間に入る。彼の言葉でああ、と思い出したように眼鏡男も眼鏡の縁を指で上げて自分の知っていることを口にする。

「前侯爵には一人娘がいらっしゃると……確か、私たちの通う学院にも在籍しているはずですよね?」

(うっ。なんでそんなこと知っているのよ)

「ええ。身体が弱いので、寮生活や通学も難しいだろうと思い、屋敷で必要なことは学ばせておりました」

 フェリクスが華麗にフォローしてくれたので、イザベルはさすがお兄様! と内心称賛する。

「ふーん。では以前店の前で倒れたのも、身体が弱いせいか……」

 レーモンにじろじろと遠慮なく視線を注がれてイザベルは不快な気持ちが込み上げる。兄が隠すようにそれとなく背を向けると、レーモンは「ずいぶんと過保護のようだ」と呟いた。

「それで一緒にいるうちに結婚まで、と……。なるほど。まぁ、わからない話ではない。しかしずっと兄妹として育ってきたのだろう? よく、結婚する気になったな」

(な……っ)

 結ばれた本人たちを前にして、よくもそんなこと言える。

「あなたには、関係ないことでしょう」

 ここは兄に任せようと思っていたイザベルは、気づけばそう言い返していた。

 気配を殺すように兄の腕の中にいた令嬢が急にきつい口調で言い返したので、兄を含めてみなが驚く。その中でやはりレーモンが一番早く面白そうな顔……あくどい顔をした。

「なんだ。話せるじゃないか。それに先ほどとはずいぶんと違う。どうやら猫を被っていたようだな」

(なんて失礼な男!)

 初対面のくせによくもまぁここまで言えるものだ。

 赤髪や眼鏡だって少し引いて、レーモンを宥めようとしているくらいなのに。

「殿下。冗談だとしても、私の可愛い妹であり婚約者にそのような口の利き方はやめてください」

 不愉快だ、とフェリクスは冷たい眼差しに怒りを滲ませてそう告げた。

 普段冷静であるだけに、そんな兄の姿は強烈だったのだろう。三人は口を噤み、レーモンは素直に謝った。

「……すまなかった。あまりにツンツンしているので、少しからかいたくなってしまった」

(なにそれ!)

 そんな理由で喧嘩を売るなと威嚇すれば、レーモンはスッと目を逸らす。本当に反省しているのだろうか。

 フェリクスも同じように思ったかもしれないが、相手は一応王太子であるし、これ以上相手をする方が煩わしいと判断したのだろう。

「いえ、わかってくださればいいのです。私の方こそ、妹のそばにいてやれず、殿下たちに迷惑をおかけしました。今日はこれで失礼させていただきます」
「あ、フェリクス!」

 兄は一礼すると、行こうとイザベルの腰を引き寄せて歩き出す。

「……いいの?」

 フェリクスの方が年が上とはいえ、王太子や宰相の息子など、無礼な振る舞いをすると後々面倒になる相手だ。

「いい。寄ってたかってお前に詰め寄って、挙げ句あんな暴言を吐かれてまで恭順の意を示す気にはなれん」
「……一応、補足しておくけれど、わたしが具合が悪くなったように見えたから心配して声をかけてくれたのよ。あと、暴言を吐くというより、あれくらいだと嫌味を述べる感じだと思う」
「結果的にお前を怯えさせて、不快な気持ちにさせた。許せん」

(お兄様ったら……)

 イザベルよりも怒りの沸点が低く、過激である。

 ……いや、そうなるのは自分のことだからだろうか。そう思うと呆れる気持ちも弱まる。

(まっ、いいか)

 イザベルは兄の腕に抱き着いた。

「お兄様、迎えにきてくれてありがとう!」

 フェリクスは驚いて少し周囲の目を気にしたが、押しのけることはせず、笑みを浮かべた。

「遅くなってすまなかった」
「ううん。いいの! わたしの方こそ迎えにきて待っていなくちゃだめだったのに逆に探させることになってしまってごめんなさい」

 兄に迷惑をかけてしまったとシュンと落ち込むイザベルに気にするなと兄は優しい声で慰めた。

「お前はあまり王宮に来たことがないし、ここは広いから迷子になってもおかしくない。……こうして無事に会えたんだから、いいんだ。迎えにきてくれてありがとう、イザベル」
「お兄様……」

 イザベルがじっと見つめれば兄は照れ臭そうに目を逸らし、コホンと咳払いした。

(可愛い!)

「では、そろそろ帰るか」
「はい! ……あ、でも、せっかくなら、王宮の食堂に寄って帰りたいなぁ」

 異国でのデザートも作って販売しているというので、前々から一度食べてみたかったのだ。

「あっ、でもやっぱりさっきの人たちと顔を合わせてしまうかしら……」
「個室で食べることもできるから、それは大丈夫だ」
「本当? だったら食べて帰りたいわ!」
「それはいいが……体調は大丈夫なのか」

 イザベルはそういえばレーモンを見た瞬間胸の痛みを覚えたのを思い出した。

(でも、前にみたいに気を失うことはなかった)

 いきなりレーモンたちと遭遇して単に驚いただけかもしれない。現にその後、今も、何ともない。

「うん。お兄様が来てくれたから大丈夫みたい」
「本当に大丈夫なんだな?」

 うん、ともう一度力強く頷く。兄の存在がそばにあると思うと、レーモンなど何とも思わない。

「わかった。じゃあ、食べて帰ろう」
「わーい。お兄様とデートね」

 指を絡ませて、わざと指輪の部分で兄の肌を撫でれば、彼は初心な乙女のようにさっと目元を赤らめた。

「お兄様、可愛い」

 つい本音が口に出てしまう。恨みがましい目で睨まれるのも、グッとくる。

「お前はいったいどこでこういうことを覚えてくるんだ」
「えー? なんとなく?」
「無自覚とは……恐ろしい……私だから何とか耐えられたものの、他の男だったらいちころだぞ……」
「何言っているのよ。こんなことお兄様にしかしないわ」

 そう言えば、フェリクスはイザベルを見つめ返して納得したように頷いたので笑った。

     ◇

(あー今日も楽しかった)

 明日も兄と一緒に過ごすことができる。最高だ。

(……でも、レーモンたちと会った時はひやりとした)

 一瞬自分が自分でなくなってしまいそうな気がして、たまらなく怖くなった。

(お兄様がすぐに来てくれたからよかったけれど……)

 ゲームの展開を知って、そうならないよう行動を変えても、本来のシナリオ通りに進めるため、何かしらの力が働いているのだろうか。

(最終的な結末……わたしが馬鹿なことをして破滅を迎える終わりになれば、それで辻褄が合うってこと?)

 だとしたらなんて恐ろしいのか。

(いいえ。弱気になったらだめよ。わたしにはお兄様がついているんだから)

 愛し合って身体までしっかり結ばれたのだ。付け入る隙などどこにもない。

 ……と考えたところで、ふと疑問に思う。

(えっちなことをすれば魂が安定するって理屈だけど、一回だけでいいのかしら)

 定期的に体液を交換……子種を注いでもらう必要があるのではないか。

(……いえ、こんな考え方はあまりにもはしたないわ)

 だけど、もしもという場合もある。

(そうね。緊急事態。話せば、お兄様もわかってくださるはずだわ)

 イザベルはそっと寝台を抜け出すと、兄の部屋へ向かった。兄に夜這いするために。

(ふふ。お兄様驚くだろうなぁ……)

 そして久しぶりに兄の寝顔を見られることにイザベルはわくわくした。

 小さい頃、両親を亡くした時に、悲しくて寂しくてまた誰かを失ってしまいそうな気がして兄と一緒に寝てもらっていた時期があったのだが、彼はいつもイザベルよりも遅く寝て、イザベルよりも早く目を覚ましていた。

(時刻はすでに真夜中。さすがにこの時刻なら、お兄様も寝ていらっしゃるはずでしょう)

 そう思いながらそっと兄の部屋の扉を開けたのだが――

「どうしたイザベル。こんな夜更けに」
「……お兄様、まだ起きていらしたのですか」

 イザベルの考えが甘かった。兄はまだ寝ておらず、熱心に本を読んでいた。

「早く寝ないと、お身体に障りますよ」
「それはお前にも言えるだろう。……いつもはもう寝ている」

 本を閉じて引き出しにしまう動作がどこか急いでいるようにも見えて、自分に読まれたくない本でも読んでいたのだろうかと思った。

「お仕事が終わらなかったのですか? ごめんなさい、邪魔してしまって……」
「いや、仕事ではないからかまわない。それよりどうした? 眠れないのか?」

 イザベルは甘えるように兄の首に腕を巻きつけ、大胆に膝の上に乗った。彼は驚いたものの、大人しくイザベルを抱えてくれる。

「大きな子どもみたいだな」
「本当は時々、こうしてお兄様に甘えたかったの」

 クレージュ侯爵家の娘として、また年頃の娘が四つ上の兄に甘えてはいろいろとだめだと自重してきたが、心の底では甘えたい気持ちがあった。

「お前は意外と寂しがり屋だからな」

 うん、と小さく頷いて、兄の首筋に顔を埋める。自分と同じ石鹸の香りに兄自身の匂いが混じって、落ち着くと同時に下腹部が疼いてきた。こんなふうになる自分はやはりふしだらで、悪女かもしれない。

「……ねぇ、お兄様。また、してほしいの」
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