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5・可変と不変
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終ゾ腑抜ケタカ?
悪魔ノ中尉ハ何処ヘ
ぞわっと鳥肌が立つような感覚が体を抜けた。
サムは、片目をそっとあけて俺を見ると唇をゆっくり動かした。
バカ
音にならない唇の動きは、そう伝えてくるとまた硬く閉じられて寝たふりの中に消えていった。
さっきの声は……サムだったのだろうか?
それとも俺が数々の戦で殺めてしまった亡霊だろうか?
そんな事を思いながら窓の外に目をやる。
「ジュリアスにいちゃん! 一緒にやろうよ!」
「!」
「ほら、これを作るんだよ」
「?」
ジャックや子供達の座るテーブルに小石や貝殻が広げられていて、それに思い思いの絵をつけたりしていた。
「ほう、すごい」
丸い石に綺麗に模様を書き込んでいく女の子の手元を見てそう言うと、彼女は嬉しそうに俺を見上げた。
「ん? リリー殿はどちらへ?」
「ねえちゃんならシスターの部屋に行ったよ」
「……そうか」
リリーは本当にシスターになるつもりなのだろうか?
俗世を捨てて神への愛を誓うのだろうか?
そんな事を思いながらジャックの、横に腰掛けた。
「にいちゃんもやってみなよ! これさ、今度のバザーで売るんだよ」
「へえ、そうか」
「気に入ったのがあったら、持ってかえっていいよ」
ジャックは石をいくつかとると絵筆で何かを描き始める。俺も目の前の石の形にあう動物を描いていった。
ただ穏やかな午後。こんなにも、穏やかな午後はどれくらいぶりだろうか?
何かガラスのかけらなのか、小さな透明の歪な石を摘まむと百合の花を描き込んだ。
戦から国へ戻り、淡々と書類の整理をして、王様の護衛の為の訓練をする。
そんな日が続いていた。戦地に比べたら本当に穏やかで、何事もない日々だ。
人間というのは、愚かなものでそんな平和な毎日が続くとそれに満足できなくなるのだ。
このおだやかな現状がどれほど幸福なのか忘れてしまうのだ。
そんな中で俺でなく肩書きや家柄で言い寄る女達から逃げるように、城の詰め所で何となく当直を終えて帰宅する途中だった。
馬を置いて、小川に降りるとぼんやりと釣りをする老人を眺めていた。
「お若いの、釣りますかね?」
そう言って竿差し出した老人は、異国の香りのする葉巻を吸いながら笑った。
「いや、驚くほどに釣りの才能がなくてな。……お邪魔でなければ暫く見ていてもよいだろうか?」
「ええ、ええ。かまわんよ。こんなじいさんの震える手じゃ大した魚も釣れんがね」
オレはただぼんやりと老人の釣りを眺めていた。
暫くして犬をつれた老人の孫娘がやってくると、2人は俺に挨拶をして帰って行った。
「ジェイ、退屈だね」
「そうか?」
「スリルもなにもない。ボクらもあのじいさんみたいに……つまらない人生を送るのかな」
「さあな」
「ジェイは、沢山の功績をあげてさ、国の英雄なのにあんな風につまらない人生を送って死ぬのを待つのかな」
サムはそういってふてくされるように小石を川に投げた。
「俺は、戦で死ぬとばかり思っていたからな。この穏やかな毎日が驚きの連続だよ」
「驚きねえ」
「俺は……何故、俺のような奴が生きてるのか苛立つ事もあるが」
そこまで言った瞬間、視界がぐらりと落ちた。
背中に負ぶさるように乗ったサムが耳元で囁いた。
悪魔ノ中尉ハ何処ヘ
ぞわっと鳥肌が立つような感覚が体を抜けた。
サムは、片目をそっとあけて俺を見ると唇をゆっくり動かした。
バカ
音にならない唇の動きは、そう伝えてくるとまた硬く閉じられて寝たふりの中に消えていった。
さっきの声は……サムだったのだろうか?
それとも俺が数々の戦で殺めてしまった亡霊だろうか?
そんな事を思いながら窓の外に目をやる。
「ジュリアスにいちゃん! 一緒にやろうよ!」
「!」
「ほら、これを作るんだよ」
「?」
ジャックや子供達の座るテーブルに小石や貝殻が広げられていて、それに思い思いの絵をつけたりしていた。
「ほう、すごい」
丸い石に綺麗に模様を書き込んでいく女の子の手元を見てそう言うと、彼女は嬉しそうに俺を見上げた。
「ん? リリー殿はどちらへ?」
「ねえちゃんならシスターの部屋に行ったよ」
「……そうか」
リリーは本当にシスターになるつもりなのだろうか?
俗世を捨てて神への愛を誓うのだろうか?
そんな事を思いながらジャックの、横に腰掛けた。
「にいちゃんもやってみなよ! これさ、今度のバザーで売るんだよ」
「へえ、そうか」
「気に入ったのがあったら、持ってかえっていいよ」
ジャックは石をいくつかとると絵筆で何かを描き始める。俺も目の前の石の形にあう動物を描いていった。
ただ穏やかな午後。こんなにも、穏やかな午後はどれくらいぶりだろうか?
何かガラスのかけらなのか、小さな透明の歪な石を摘まむと百合の花を描き込んだ。
戦から国へ戻り、淡々と書類の整理をして、王様の護衛の為の訓練をする。
そんな日が続いていた。戦地に比べたら本当に穏やかで、何事もない日々だ。
人間というのは、愚かなものでそんな平和な毎日が続くとそれに満足できなくなるのだ。
このおだやかな現状がどれほど幸福なのか忘れてしまうのだ。
そんな中で俺でなく肩書きや家柄で言い寄る女達から逃げるように、城の詰め所で何となく当直を終えて帰宅する途中だった。
馬を置いて、小川に降りるとぼんやりと釣りをする老人を眺めていた。
「お若いの、釣りますかね?」
そう言って竿差し出した老人は、異国の香りのする葉巻を吸いながら笑った。
「いや、驚くほどに釣りの才能がなくてな。……お邪魔でなければ暫く見ていてもよいだろうか?」
「ええ、ええ。かまわんよ。こんなじいさんの震える手じゃ大した魚も釣れんがね」
オレはただぼんやりと老人の釣りを眺めていた。
暫くして犬をつれた老人の孫娘がやってくると、2人は俺に挨拶をして帰って行った。
「ジェイ、退屈だね」
「そうか?」
「スリルもなにもない。ボクらもあのじいさんみたいに……つまらない人生を送るのかな」
「さあな」
「ジェイは、沢山の功績をあげてさ、国の英雄なのにあんな風につまらない人生を送って死ぬのを待つのかな」
サムはそういってふてくされるように小石を川に投げた。
「俺は、戦で死ぬとばかり思っていたからな。この穏やかな毎日が驚きの連続だよ」
「驚きねえ」
「俺は……何故、俺のような奴が生きてるのか苛立つ事もあるが」
そこまで言った瞬間、視界がぐらりと落ちた。
背中に負ぶさるように乗ったサムが耳元で囁いた。
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