シニカルロマネスク

成宮まりい

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5・可変と不変

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 鮮明に思い出した川に沈んで行く瞬間にぞっとした。俺を川に引き込んだのはサムなのだ。



どうして?


そんな疑問が顔をのぞかせたが、サムの様子からはそんなコトは微塵も感じさせなかった。


キラキラとした日差しの下でぼおっと外を眺めているサムを見て、現実感や体温を感じない彫刻か絵画のようだと思った。



「さてと、じゃあみんな、帰るわね。また明日来るわ」


リリーの声にハッとすると、ジャックが俺の袖を引っ張った。


「明日も来る?」

「……!」

俺が驚いた顔をしたのに気がついたのかジャックは少し恥ずかしそうに笑った。


「……ああ、そうだな。ここにいる間は務めて来るようにしよう」

「ホント?」

「約束する」


満面の笑みを浮かべたジャックと手を振り合って、リリーと歩く。

「足は大丈夫でして?」


時々引きずるように足を運ぶ俺を見てリリーはいった。


「大丈夫。鍛え方がちがうので」

「ふふふ。ですわね……ジュリアス様はすっかり子供達の人気者になってしまいましたわね」

「ははは! 人気者はどうかな? こんな見てくれの人間が珍しいのでしょう」

「珍しいなんて」

「子供は俺を怖がらないから、そのままでぶつかってきて何だか嬉しいですよ」


リリーは不思議そうに俺を見上げた。


「怖がる? 何故ですの?」


「何故? よく怒っているのか? とか不機嫌そうなら顔だといわれますよ。リリー殿のように美しい金色の髪をして吸い込まれそうな瞳をお持ちなら、天使として見間違うかもしれませんがね。俺は悪魔や死神に間違えられる」



そう言ってサムをチラリと見て苦笑すると、リリーは首を激しく振った。


「そんな! 悪魔や死神なんて!」


門扉の前で立ち止まるとリリーは俺の手をすっと、とって言った。


「ジュリアス様は、自己卑下しすぎですわ。悪魔にも死神にもみえませぬ。美しい黒髪と黒真珠のような瞳は、わたくしからしたら羨ましい限りです」


真剣に眼差しにどきりと心臓が跳ねる。



「人というのは、隣の芝ほど青く見えると申します。自らの持っているものの方が優れていても、つい他人を羨んでしまいます。わたくしごときの言葉など、何の効果も価値もないでしょうが、どうかもう、悪魔などと言わないでくださいまし」




「……」

「貴方はとても素敵です」

「!」

退屈そうにしていたサムが爛々と目を輝かせてこちらを向いた。


俺は慣れない言葉に挙動不審になって言葉を探しているとリリーはそんな様子に気がついたのか、手をパッと離して恥ずかしそうに笑った。


「お夕食が出来ましたら、ダイニングへどうぞ……のちほど」

そう言って頬を染めたままま、自室へと駆けていった。


何か言いたげなサムを横目で見ながら部屋に戻る前にキッチンへ向かった。


中身を抜いたたまごをひとつ貰って、色紙と絵の具を借りた。


「リリー、かわいいね。ジェイのこと、素敵だってさ! 素敵!」

からかうような口調でそういいながら、壁にかかっている絵と同じポーズをして見せた。


「バカ、社交辞令だ」

「社交辞令でも、素敵なんて面と向かって言う女の子いないじゃないか」

「俺は素敵じゃないからな」

「リリーの言うとおり、自己卑下しすぎ。ジェイはイケてる! 素敵だってば」


ぷくっと、頬を膨らませたサムはずんずんと歩いて部屋に入った。

ティータイムテーブルに教会でジャック達と作った小さな置き石をポケットから出し、たまごの中に入れると蓋をして色紙を貼り付けていった。


「しかし、教会は息がつまるかとおもったよ。明日は行かないよな?」

「さあ、どうだかな。ジャックと約束したしな」

「ジャック? あの生意気な子供か。はぁ……ボクはまっぴらゴメンだね」


サムはぶるっと震えて言った。

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