【源次物語】最後の特攻隊員〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

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〈初めての誕生日プレゼント〉後編

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「それ以上言わんでええよ」

「妹がいなくなってから母さんは変わってしまった……僕も悔しかった……出かける前に『七つの子』を歌いながら、七五三のお祝いが源にいちゃんの誕生日で嬉しいって言ってたんだけどな……」

「七五三か……そういや11月15日やな」

「小さい時からおとぎ話が大好きでさ……誕生日に貰った世界童話集を持ってきて、よく読んで読んでとせがまれたよ……特に『幸福な王子』が大好きだった」

「どんな話やったっけ?」

「王子の像が、身に付けていた宝石や黄金を貧しい人たちに配って欲しいとツバメに託すお話……剣のルビーは病気の子どもに、両目のサファイアは貧しい若い劇作家とマッチ売りの少女にって……」

「ああ、あの金箔も配ってボロボロになってツバメも死んで王子も捨てられる話やな? どこが幸福な王子やねんってツッコんだわ」

「だよね、でも純奈が言ってた……温かい南の国に行くこともできたのに、自分を命を犠牲にしてでも自分の願いを叶えてくれて、最後の最後まで自分のそばにいてくれたツバメに出会えて王子は幸せだったんじゃないかって……だから『幸福な王子』って題名なんじゃないかって」

「すごい子やな、おかげで思い出したわ……ツバメが死んで王子の鉛の心臓が割れて捨てられてしもうたけど、溶鉱炉でも鉛の心臓だけは溶けへんかった……」

「そう……この世で最も尊いものを持ってくるよう命じられた天使は、ゴミ溜めに捨てられた王子の鉛の心臓とツバメの骸を天国に連れていき、神は天使を褒めて王子とツバメは天国で永遠に幸せに暮らしましたって話だったよね」

「王子とツバメは幸せやったんやな……そんな小さいのによう気付いたなぁ」

「本当に優しい子でね……七夕の笹に『背が高くなりますように』と書いた短冊を飾りつけている僕の横で、『世界中のみんなが幸せになりますように』と立派な願い事を書いて微笑んでいたよ」

「そりゃえらいのう……あれ? お前の願い、半年前の浩と同じやん」

「そうなんだよ。だから七夕の時、短冊を見て妹のこと思い出して……歌も上手いし名前の漢字も同じだし純子ちゃんは妹に似てるなって」

「そうか、妹か……」

「スミレの花も好きだった……大きくなったら純子ちゃんが着てたみたいなスミレの浴衣を着てたんだろうな……」

 僕は話しながら、いつの間にか泣いていた。

「僕ね……本当は純奈みたいな子に希望が届くような物語を書きたくて文学部に入ったんだ。純奈の誕生日に手作りの絵本を渡そうと思って準備してたんだけど結局渡せなかったから……」

「そうか……なんか俺ら同じやな……実は俺も坂本龍馬みたいな漫画を描こうとしたのは純子のためやったんや」

「……知ってる」

「でもそれだけじゃない……本当は戦争に邁進している今の日本を変えたかったんだ……争いのない世の中を作ろうとした、坂本龍馬みたいに」

「やっぱりお前はすごいな……純子ちゃんにとってお前はきっと王子様のような存在だよ。ヒロが駅伝で先頭を走ってる時、渡り鳥の先陣を切るリーダーみたいでかっこよかった」

「買いかぶり過ぎや」

「みんなに幸せを運ぶ『幸福な王子』のツバメにも見えたよ……いや、やっぱり王子様かな」

「いや王子様はお前だよ……だって純子は……」

「僕はヒロの冗談で笑ってる純子ちゃんが好きなんだ……三人で笑ってる時間が一番大好きなんだ」

「ほんまはな、源次と二人で描いた漫画を今年の純子の誕生日にプレゼントする予定やったんや……俺の思い過ごしで作戦変更してしもうたけどって何でもないわ……来年の純子の誕生日プレゼントは、二人で描いた漫画にしような」

「賛成~僕の昔の願いも叶うし、一石……二鳥……だよ……」

「俺な、走ってみて分かったんや。駅伝は自分一人だけで走るんやない……人と人が繋がって、未来に希望を託していく競技なんやって……」

 ヒロが何か言っていたが、僕は例の如く先に寝落ちしてしまった。

 それから1ヶ月後の1943年2月7日……
 ガダルカナル島にアメリカ軍が上陸した1942年8月7日から6ヶ月間、厳しい戦いを強いられていた日本軍が撤退した。
 大本営発表で「転進」という言葉にすり替えられていたが、本当は地獄のような酷い惨状だったんだ……
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