【源次物語】最後の特攻隊員〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

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〈ガダルカナル島からの手紙〉前編

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 ガダルカナル島……日本から南に約5千キロ以上離れたソロモン諸島の島……
 晴れた日は空も海も真っ青でとても美しい島であるが、日本にとっては地獄のような惨状が繰り返された辛く苦しい悲劇の島になってしまった。

 米国と豪州を分断する拠点として日本軍が建設していた飛行場が完成したばかりの1942年8月7日……
 アメリカは軍をガダルカナル島に上陸させて飛行場を占領した。

 大本営の見積もりが甘く、1万人以上いた米軍の規模を約2千人と判断し、日本軍は精鋭部隊900人を逆上陸させて飛行場奪還を目指したが、正面攻撃を受け部隊は壊滅……
 その後も増援部隊を送り込んだものの、物量に勝る米軍との消耗戦となり、補給の続かない日本軍は飢餓に苦しんだ。

 日本は夜間の奇襲攻撃作戦を行ったものの、日本軍が使用していた銃剣と米軍の機関銃では威力がまるで違い、激戦地となったムカデ高地は血染めの丘と呼ばれるようになった。

 食糧を輸送しようとした海軍の潜水艦や輸送船は攻撃を受け沈没……
 補給を絶たれた日本兵は、ジャングルの中で飢えとマラリヤや赤痢に苦しみながら死んでいった。

 最初のうちは配られていたお米も底をつき、寝ている間に盗まれたり食糧の取り合いで日本人同士の撃ち合いになることもあった。
 それもなくなるとヤシの実やヘビやトカゲを食べて命を繋いだり、極限状態の中で生きるために死体の肉に手を出した者もいたという。

 8月8日の第1次ソロモン海戦、8月24日の第2次ソロモン海戦、10月11日のサボ島沖海戦、10月26日の南太平洋海戦……
 そして11月12~15日の第3次ソロモン海戦に日本は敗れ、制空権制海権は完全にアメリカに握られた。

 負傷した日本兵の一部は、手当をしようと救いの手を差し伸べた米兵に対して手榴弾で自爆攻撃を実行した。
 日本軍に降伏という選択肢がないことを悟ったアメリカ軍は、横たわっている日本兵がいると生きていようが死んでいようが戦車のキャタピラで踏みつぶすようになったそうだ。

 ガダルカナル島は孤立して日本の守備隊はジャングルに逃げ込まざるを得なくなり、陸軍は船舶増徴による救援を要求したが、12月31日に大本営はガダルカナル島の放棄を決定した。
 しかし情報が漏れることを恐れた大本営は、命令の伝達を無線ではなく人づてで行ったため、伝わるまでに2週間余りかかり……撤退命令を知らないまま多くの隊が壊滅した。

 結局ガダルカナル島に上陸した日本軍約3万人のうち2万人以上が亡くなってしまった。
 そのうち戦闘ではなく餓えとマラリアなどの病気で命を落とした者が1万5千人にものぼり、ガダルカナル島は「ガ島=餓島」と呼ばれるようになった。

 大本営が撤退を命じ、実際に撤退できた者は約1万人……
 歩けない者は置き去りにされ、負傷者は自決……または処分を余儀なくされた。

 ガダルカナル島の戦いは、補給の軽視、情報収集の不徹底など連戦連勝で慢心していた日本軍が敗北を喫し攻守が逆転するきっかけとなる歴史的な悲劇の戦いになってしまった。

 そして2月9日、大本営はガダルカナル島からの「撤退」を「転進」として発表した。
 新聞は、戦況の悪化にもかかわらず有利であるかのように戦果を水増しすることが常態化しており、反対に被害は少ないことにして虚偽の発表を行い続けることに葛藤して心苦しかったことだろう。

 同じく1943年2月、日本政府は「軍需造船供木運動」を開始……急速に進む鉄不足で鋼船に代えて木造船を緊急増産する必要があるため、山林だけでなく屋敷林・社寺林・並木・公園・海岸林の木々が一斉に伐採された。

 桜は薪や下駄の材料にもなるため、1年前に「来年も一緒に見ようね」と約束した神田明神と宮本公園の桜は、その花を咲かせる前に伐採されてしまい……お花見は中止となった。

 そんな1943年5月のある日、珍しくいつもの三人が外出していたので播磨屋で一人で食事をしていたら、見知らぬ兵隊さんが訪ねてきた。
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