【源次物語】最後の特攻隊員〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

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〈悲劇の前夜〉後編

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 「防空法」の改正後、政府は「焼夷弾は簡単に消せる」と砂袋や手製の火叩きなど身近な道具で消火する方法を紹介し、「空襲から決して逃げず、焼夷弾を消火することが国民の義務」として消火訓練を盛んに行い、防空壕は床下を掘って設置することが原則とされた。
 それは爆弾が投下されたら迅速に飛び出して防空活動に従事できるようにするためで……名称も退避所ではなく消火出動拠点として「待避所」に改められた。

 しかし焼夷弾は発火装置と燃焼剤が一体となっており……投下されると数10メートル四方へ火焔とゲル化したガソリンなどの油脂が噴出され、一瞬で猛烈な炎が家屋を包んで近づくのも危険な程の火力で……紹介された方法で到底消火できるものではなかった。
 帝国大学の教授が、中国で押収した米軍製の焼夷弾の燃焼実験を行ったところ「焼夷弾を消すことは不可能」という結論を得たにも関わらず、政府は科学者の警告を無視し「空襲は怖くないから逃げる必要はない。逃げずに火を消せ」と宣伝していた。

 夜もふける頃、明日は早いので僕は播磨屋に泊まる事を提案された。
 浩くんは、はしゃぎ疲れて1階の居間で寝てしまい……静子おばさんも隣で寝るとのことで勧められた風呂に入りにいった。

 しかし、着替えの一部を2階に忘れた事に気付き、寝ている浩くん達を起こさないよう静かに階段を上がると……ヒロと純子ちゃんの声が聞こえてきた。

「……純子……ずっと言われへんかったけど…………俺はお前が好きや!」

「えっ、光ちゃん?」

「実はな、これが最後かもしれへんのや……せやから戻る前に言わなあかん思て」

「そんな……そんな事言わずに必ず帰ってきて」

「帰ってきたくてものう……3月末から特攻作戦に参加するから、無理かもしれへんのや」

「嫌! 嫌よ、そんなの……約束したじゃない!」

「せやな、約束したな……でもこの国を守るために、お前を守るために、行かなあかんのや…………最後に、おまんを抱き締めてもええか?」

「うん……いいよ……」

「ほんまは、おまんのそばにずっとおりたい……このまま、おまんと一つになりたい……」

「……………………いいよ……」

「…………やっぱやめや……お前、泣いとるし」

「ック、泣いてない!」

「泣いてるやろ……目、見れば分かる」

「ち、違……」

「すまんな、変な事言うて……忘れてくれ」

 僕は動揺している自分の気持ちを必死に押し殺し、1階に降りてきたヒロに今まさに風呂から出てきたようなフリをした。

「すまん源次……やっぱ今日、源次の所に泊めてもらえへんか? 久し振りに二人で飲み明かそうや……っちゅうても、ほぼ水やけどな」

 僕達は泣きながら寝てしまった純子ちゃんや1階で寝ている静子おばさん達が心配しないように置き手紙を書き、もう遅い時間なので二人で歩いてアパートに向かった。
 その途中、なぜだか分からないが僕はとても嫌な予感がしていた。

「なあ、ヒロ……空襲、本当に大丈夫かな? 予告の空襲が2月だけの事ならいいんだけど、明日の3月10日が陸軍記念日だから気になって……」

「ビラの予告か? まあ、大丈夫やろ」

 出来るだけ純子ちゃんの話題にならないよう気を使いながら歩いていると……

ウゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウゥゥ

「長いから警戒警報だ……急いで戻らなきゃ!」

 僕達は大分先まで歩いていたが、播磨屋に戻るため急いで走った……が暫くして警戒警報が解除された。

「なんじゃ~おどかしよって」

 一瞬本当に焦ったが、空襲が来なくて本当によかったと安堵し再びアパートに向かった。
 到着する頃には二人とも疲れていて、一息ついて「やっぱり明日の卒業式に備えて眠ろう」と布団を広げていた時だった……
 ラジオから突然、東部軍管区情報が鳴り響いた。

「ブーッブーッ、関東地区、関東地区、空襲警報発令、東部軍司令部より関東地区に空襲警報が発令されました……房総半島沖合に多数のB-29を発見……」

ゴォォォォォォォォォォ

「なんじゃあ、ありゃあ!!」

 僕達が遠くの空に見たのは、今まで誰も見たことがないであろう一面に広がる多数のB-29の不気味な姿だった。
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