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〈封じ込めた想い〉前編
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あっという間に5月12日の出撃に向けて坂本くんが串良に旅立つ日になり……
出発の日の朝、僕は坂本くんから「手紙と詩集を涼子に送って欲しい」と頼まれた。
ヒロと島田くん、それぞれとの別れの挨拶を済ませた坂本くんは……最後に僕の所に来て、こっそり耳打ちをした。
「手紙と詩集、頼んだぞ! 貴様らへの思いも書いてあるから、読んだ後に出してもらえると助かる……じゃ! 行ってくる!」
「坂本くん、待って……」
僕は坂本くんに色々教えてもらったり助けてもらったお礼を言いたかったが、坂本くんは颯爽と機体に乗り込んで飛び立ってしまった。
僕達の呼びかけに振り向きもせずに……
僕は落ち着いた場所でヒロ達に坂本くんの手紙の事を話し、一緒に手紙を開いた。
そこには綺麗な文字で沢山の文章が書かれていた。
~~~~~~~~~~
(この手紙は百里原で再会した
親愛なる仲間に託す事ができます故、
今までとは違い本心を書きます)
涼子……元気にしてるか?
お腹の子も無事か?
君がくれた手作りの詩集、何度も読んだよ。
君の想いが沢山つまっていた。
仲間も感動して泣いていたよ。
君が書いたと知ったら驚くだろうな……
俺は海軍に入って本当によかった。
飛行機乗りを志願して、本当は不安で不安でたまらなかったはずなのに……
その先で最高の仲間に出会えた。
そして何より、君を好きになって本当によかった。
俺は君の思い出の中で、笑っていられたらそれでいい。
子供の名前を決めてくれと言われて考えたんだが……
俺は音楽が好きだから音楽に因んだ名前か、二人が好きな文学に因んだ名前か……と考えていて浮かんだことがある。
名前は君が決めてくれ。
君は自由だ。
死にに行く俺に縛られることなんてない。
これからの未来は全部、君次第だ。
俺はこの世で一番尊い音楽は、
人の心臓の音だと思っている。
君の中で小さな鼓動が繰り返し鳴って、
小さな命が生きている事が
たまらなく嬉しい。
初めてのお産は不安だろうに……
そばにいてやれなくて本当にすまない。
涼子……その子をお願いな。
出来ることなら生まれた子供を肩車して、色々な景色を見せてやりたかったが……
新しい伴侶でも見つけて、そうしてやって欲しい。
子供が無事に生まれて、君たちがいつまでも幸せに暮らせますように……
土浦で出会った大切な仲間が、みんな無事に家に帰れますように……
それが俺の、最後の願いだ。
俺のもう一つの想いは、二人の思い出の中に封じ込めて俺は行きます。
愛すべき君と母上と、まだ見ぬ我が子の幸せを、いつまでもいつまでも願っている。
それと最高の仲間の幸せも……
追伸
仲間と撮った写真を同封します。
いつか会いに行くことがあったら、丁重に持て成してやって下さい。
~~~~~~~~~~
僕はそれを読んで涙が止まらなかった。
「あいつは、ほっんまにキザやなあ……おかしいわ、前が見えへん」
「本当にあいつは……昔からバカな奴だよ……」
坂本くんは特攻に行くとはどういうことなのか身を持って教えてくれた。
まるで「貴様らは来るな」、「お前達には同じ思いをして欲しくない」と言ってくれているかのようで……僕達は三人で背中を寄せ合って泣いた。
落ち着いてきた頃に、ふと疑問が湧いた。
「二人の思い出の中に封じ込めた、もう一つの想いって何だろう?」
ふと一緒に渡された詩集を開いてみると、中の文字に所々○が付いていた。
「この『笑う』って漢字だけ半分の丸になっている…………ってもしかして……」
「どないしたんや、源次?」
「暗号だよ! この詩集の文にある頭の丸の部分を読んでいくと、文章になる!」
一文字ずつ辿って読んでみると……
「サカモト、ワタルハ、リヨウコヲ、イツマデモ、アイシテル……ズツト、イツシヨニ、イタカツタ……」
それを読み上げた途端、今までどんな時も冷静だった島田くんが声を上げて泣いた。
「バッカヤロウ! こんな暗号残して、自分の気持ち押し殺して……飛び立つ直前まで泣くの我慢して、最後までカッコつけてんじゃねーよ!」
「坂本くんが……泣いてた?」
「ああ……飛び立つ直前にクシャクシャな顔して泣いてたよ……俺はあいつに何もしてやれなかった……ずっと、あいつに救われてたのに……」
暴れる島田くんをヒロが泣きながら抱え込んで……落ち着いた頃に島田くんがポツリと言った。
「俺……ずっと出してなかったけど、母ちゃんに手紙書くよ……あいつの嫁さんが無事に赤ちゃん産めるように、絶対守ってやってくれって」
「そうだね……それがいい」
「防空壕のこと書くのも……忘れんなや?」
僕はその夜、坂本くんの手紙に背中を押され……純子ちゃんとの約束を守るために、ある計画を実行することにした。
出発の日の朝、僕は坂本くんから「手紙と詩集を涼子に送って欲しい」と頼まれた。
ヒロと島田くん、それぞれとの別れの挨拶を済ませた坂本くんは……最後に僕の所に来て、こっそり耳打ちをした。
「手紙と詩集、頼んだぞ! 貴様らへの思いも書いてあるから、読んだ後に出してもらえると助かる……じゃ! 行ってくる!」
「坂本くん、待って……」
僕は坂本くんに色々教えてもらったり助けてもらったお礼を言いたかったが、坂本くんは颯爽と機体に乗り込んで飛び立ってしまった。
僕達の呼びかけに振り向きもせずに……
僕は落ち着いた場所でヒロ達に坂本くんの手紙の事を話し、一緒に手紙を開いた。
そこには綺麗な文字で沢山の文章が書かれていた。
~~~~~~~~~~
(この手紙は百里原で再会した
親愛なる仲間に託す事ができます故、
今までとは違い本心を書きます)
涼子……元気にしてるか?
お腹の子も無事か?
君がくれた手作りの詩集、何度も読んだよ。
君の想いが沢山つまっていた。
仲間も感動して泣いていたよ。
君が書いたと知ったら驚くだろうな……
俺は海軍に入って本当によかった。
飛行機乗りを志願して、本当は不安で不安でたまらなかったはずなのに……
その先で最高の仲間に出会えた。
そして何より、君を好きになって本当によかった。
俺は君の思い出の中で、笑っていられたらそれでいい。
子供の名前を決めてくれと言われて考えたんだが……
俺は音楽が好きだから音楽に因んだ名前か、二人が好きな文学に因んだ名前か……と考えていて浮かんだことがある。
名前は君が決めてくれ。
君は自由だ。
死にに行く俺に縛られることなんてない。
これからの未来は全部、君次第だ。
俺はこの世で一番尊い音楽は、
人の心臓の音だと思っている。
君の中で小さな鼓動が繰り返し鳴って、
小さな命が生きている事が
たまらなく嬉しい。
初めてのお産は不安だろうに……
そばにいてやれなくて本当にすまない。
涼子……その子をお願いな。
出来ることなら生まれた子供を肩車して、色々な景色を見せてやりたかったが……
新しい伴侶でも見つけて、そうしてやって欲しい。
子供が無事に生まれて、君たちがいつまでも幸せに暮らせますように……
土浦で出会った大切な仲間が、みんな無事に家に帰れますように……
それが俺の、最後の願いだ。
俺のもう一つの想いは、二人の思い出の中に封じ込めて俺は行きます。
愛すべき君と母上と、まだ見ぬ我が子の幸せを、いつまでもいつまでも願っている。
それと最高の仲間の幸せも……
追伸
仲間と撮った写真を同封します。
いつか会いに行くことがあったら、丁重に持て成してやって下さい。
~~~~~~~~~~
僕はそれを読んで涙が止まらなかった。
「あいつは、ほっんまにキザやなあ……おかしいわ、前が見えへん」
「本当にあいつは……昔からバカな奴だよ……」
坂本くんは特攻に行くとはどういうことなのか身を持って教えてくれた。
まるで「貴様らは来るな」、「お前達には同じ思いをして欲しくない」と言ってくれているかのようで……僕達は三人で背中を寄せ合って泣いた。
落ち着いてきた頃に、ふと疑問が湧いた。
「二人の思い出の中に封じ込めた、もう一つの想いって何だろう?」
ふと一緒に渡された詩集を開いてみると、中の文字に所々○が付いていた。
「この『笑う』って漢字だけ半分の丸になっている…………ってもしかして……」
「どないしたんや、源次?」
「暗号だよ! この詩集の文にある頭の丸の部分を読んでいくと、文章になる!」
一文字ずつ辿って読んでみると……
「サカモト、ワタルハ、リヨウコヲ、イツマデモ、アイシテル……ズツト、イツシヨニ、イタカツタ……」
それを読み上げた途端、今までどんな時も冷静だった島田くんが声を上げて泣いた。
「バッカヤロウ! こんな暗号残して、自分の気持ち押し殺して……飛び立つ直前まで泣くの我慢して、最後までカッコつけてんじゃねーよ!」
「坂本くんが……泣いてた?」
「ああ……飛び立つ直前にクシャクシャな顔して泣いてたよ……俺はあいつに何もしてやれなかった……ずっと、あいつに救われてたのに……」
暴れる島田くんをヒロが泣きながら抱え込んで……落ち着いた頃に島田くんがポツリと言った。
「俺……ずっと出してなかったけど、母ちゃんに手紙書くよ……あいつの嫁さんが無事に赤ちゃん産めるように、絶対守ってやってくれって」
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