【源次物語】最後の特攻隊員〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

文字の大きさ
58 / 80

〈土浦空襲の奇跡〉後編

しおりを挟む
 暗くなる時間に合わせて、僕達は由香里ちゃんおすすめのホタルが見える場所に行った。

「うわ~ゲンジがいっぱいや~」

「源氏ボタルね……ゲンジだと僕がいっぱいいるみたいになっちゃうから」

「ここら辺は空襲の被害がなくて本当によかったです」

「だいぶ基地から離れとるからのう」

「俺はこんなに沢山のホタルを見たのは初めてだ……なかなかキレイなもんだな」

「ね~すごいでしょ? 僕も去年、由香里さんと来た時に驚いて……絶対みんなと一緒に見たかったんだ」

「ほ~去年は二人で見たとは、その頃から好きやったんやないん?」

「篠田さん達が来なかったから仕方なくです~」 

「そんな~」

「あれ? あのホタルだけ光るの早くないか?」

「へ~珍しいな、同時に見られるなんて……あれは平家ボタルだよ。源氏ボタルは大きくゆっくりで、平家ボタルは小さな光で素早く光るんだ~ちなみに生息地が源氏は流れがある川で、平家は流れがない溜め池って鹿島で坂本くんに聞いたけど……ここでは同時に見られるんだね」

「そういえば僕も坂本くんから聞きました! ホタルが光るのは求愛の為なんだって……『俺はここにいるよ』って」

「じゃあ、あの一番よく光っているのが生まれ変わった坂本かもな」

「ほんまや……めっちゃピカピカしとる~あいつ涼子さんがいるんやから、これ以上モテようとすんなっちゅうねん」

「僕、気付いたんですけど…………人って亡くなって見えなくなっても、ちゃんといるんですね……坂本くんが、みんなの心の中で笑ってます」

「そっか…………そうやな……坂本も空襲で死んだ家族も、心の中におるんかもな……」

「3月の大空襲も酷かったですよね……東京の方が真っ赤な空で東京にいる父が心配だったけど、何もできなくて悔しくて涙が出て……」

「こっちの方まで見えてたんか……」

「実は、僕の父は小説家で……爆風がすごくて土浦まで色々なものが飛んで来た時に、目の前に落ちてきたのが父さんの本で……」

「幸い父は無事だったけど、今度空襲があった時は……今度こそは、誰か一人でもいいから助けたかったから……だからね? 後悔はないんですけど……」

 平井くんの目には薄っすら涙が浮かんでいた。

「僕も小説家になりたいと思って小説を書いてたから……こんな腕じゃもう二度と小説が書けないな~って…………もっとも戦争中でそれどころじゃないし、これを機にきっぱり諦めます」

 由香里ちゃんが堪らず声を掛けようとした時、ヒロが言った。

「諦めるな!! まだ左手があるやないか! お前には立派な想像力がある! 他人の痛みを自分の事のように感じる力があり……死んでもうた奴も、まるでそこにおるかのように見える力がある……お前のおかげで久し振りに坂本に会えた気がしたわ…………お前にはお前にしか書けない物語がある! だから絶対、諦めんな!」

「…………分かったよ……ありがとう、篠田くん。君の事、最初は正直嫌いだったけど……今では、大好きだ!」

「やっぱり篠田さんカッコいい……」

「由香里さん、そんな~」

「冗談よ! 今度弱音吐いたらバッターだからね?」

「「「あちゃーありゃ痛いんだよな~」」」

 僕達は、みんな揃って大笑いした。

 その翌日……百里原に戻ることにした僕とヒロと島田くんを、平井くん達は駅まで見送りに来てくれた。

「土浦に来てくれてありがとう! またみんなに会えて本当に嬉しかったよ!」

「僕も一緒にホタル見に行きたかった~来年は一緒に行こうね?」

「和男が寝てたからでしょ! 皆さんお元気で……絶対また来てくださいね!」

「必ず皆さんで、また食堂に食べに来てくださいね。いつでも待っているわ」

「ハイッ」

 電車が出発してからも、平井くんとトミさん達は、いつまでも手を振ってくれていた。

 空襲の被害は各地に広がっていて、6月17日には鹿児島、6月18日には浜松、6月19日には福岡と静岡で大空襲があり、6月22日には広島・呉軍港空襲があった。

 沖縄では6月23日に司令官と長参謀長が自決し、組織的戦闘が終結……
 6月29日には長崎・佐世保と岡山で空襲、7月1日は熊本大空襲と広島・呉市街空襲があり……呉出身の者の話によると、炎と煙が迫る防空壕の中で誰かが『海行かば』を歌おうと声を掛け、皆で泣きながら歌ったそうだ。
 最初は小声だったけれど、これがこの世の最後の歌だからと大合唱で……
 苦しい最期の時を励ましてくれたのも、また『歌』だった。

 沖縄戦もだが、7月に僕達の親族が住んでいる場所が空襲の被害に遭った。
 そして8月に原子力爆弾が落ち、日本が世界唯一の戦争被爆国になるなんて……
 6月の僕は夢にも思っていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

処理中です...