【源次物語】最後の特攻隊員〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

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〈土浦空襲の奇跡〉後編

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 暗くなる時間に合わせて、僕達は由香里ちゃんおすすめのホタルが見える場所に行った。

「うわ~ゲンジがいっぱいや~」

「源氏ボタルね……ゲンジだと僕がいっぱいいるみたいになっちゃうから」

「ここら辺は空襲の被害がなくて本当によかったです」

「だいぶ基地から離れとるからのう」

「俺はこんなに沢山のホタルを見たのは初めてだ……なかなかキレイなもんだな」

「ね~すごいでしょ? 僕も去年、由香里さんと来た時に驚いて……絶対みんなと一緒に見たかったんだ」

「ほ~去年は二人で見たとは、その頃から好きやったんやないん?」

「篠田さん達が来なかったから仕方なくです~」 

「そんな~」

「あれ? あのホタルだけ光るの早くないか?」

「へ~珍しいな、同時に見られるなんて……あれは平家ボタルだよ。源氏ボタルは大きくゆっくりで、平家ボタルは小さな光で素早く光るんだ~ちなみに生息地が源氏は流れがある川で、平家は流れがない溜め池って鹿島で坂本くんに聞いたけど……ここでは同時に見られるんだね」

「そういえば僕も坂本くんから聞きました! ホタルが光るのは求愛の為なんだって……『俺はここにいるよ』って」

「じゃあ、あの一番よく光っているのが生まれ変わった坂本かもな」

「ほんまや……めっちゃピカピカしとる~あいつ涼子さんがいるんやから、これ以上モテようとすんなっちゅうねん」

「僕、気付いたんですけど…………人って亡くなって見えなくなっても、ちゃんといるんですね……坂本くんが、みんなの心の中で笑ってます」

「そっか…………そうやな……坂本も空襲で死んだ家族も、心の中におるんかもな……」

「3月の大空襲も酷かったですよね……東京の方が真っ赤な空で東京にいる父が心配だったけど、何もできなくて悔しくて涙が出て……」

「こっちの方まで見えてたんか……」

「実は、僕の父は小説家で……爆風がすごくて土浦まで色々なものが飛んで来た時に、目の前に落ちてきたのが父さんの本で……」

「幸い父は無事だったけど、今度空襲があった時は……今度こそは、誰か一人でもいいから助けたかったから……だからね? 後悔はないんですけど……」

 平井くんの目には薄っすら涙が浮かんでいた。

「僕も小説家になりたいと思って小説を書いてたから……こんな腕じゃもう二度と小説が書けないな~って…………もっとも戦争中でそれどころじゃないし、これを機にきっぱり諦めます」

 由香里ちゃんが堪らず声を掛けようとした時、ヒロが言った。

「諦めるな!! まだ左手があるやないか! お前には立派な想像力がある! 他人の痛みを自分の事のように感じる力があり……死んでもうた奴も、まるでそこにおるかのように見える力がある……お前のおかげで久し振りに坂本に会えた気がしたわ…………お前にはお前にしか書けない物語がある! だから絶対、諦めんな!」

「…………分かったよ……ありがとう、篠田くん。君の事、最初は正直嫌いだったけど……今では、大好きだ!」

「やっぱり篠田さんカッコいい……」

「由香里さん、そんな~」

「冗談よ! 今度弱音吐いたらバッターだからね?」

「「「あちゃーありゃ痛いんだよな~」」」

 僕達は、みんな揃って大笑いした。

 その翌日……百里原に戻ることにした僕とヒロと島田くんを、平井くん達は駅まで見送りに来てくれた。

「土浦に来てくれてありがとう! またみんなに会えて本当に嬉しかったよ!」

「僕も一緒にホタル見に行きたかった~来年は一緒に行こうね?」

「和男が寝てたからでしょ! 皆さんお元気で……絶対また来てくださいね!」

「必ず皆さんで、また食堂に食べに来てくださいね。いつでも待っているわ」

「ハイッ」

 電車が出発してからも、平井くんとトミさん達は、いつまでも手を振ってくれていた。

 空襲の被害は各地に広がっていて、6月17日には鹿児島、6月18日には浜松、6月19日には福岡と静岡で大空襲があり、6月22日には広島・呉軍港空襲があった。

 沖縄では6月23日に司令官と長参謀長が自決し、組織的戦闘が終結……
 6月29日には長崎・佐世保と岡山で空襲、7月1日は熊本大空襲と広島・呉市街空襲があり……呉出身の者の話によると、炎と煙が迫る防空壕の中で誰かが『海行かば』を歌おうと声を掛け、皆で泣きながら歌ったそうだ。
 最初は小声だったけれど、これがこの世の最後の歌だからと大合唱で……
 苦しい最期の時を励ましてくれたのも、また『歌』だった。

 沖縄戦もだが、7月に僕達の親族が住んでいる場所が空襲の被害に遭った。
 そして8月に原子力爆弾が落ち、日本が世界唯一の戦争被爆国になるなんて……
 6月の僕は夢にも思っていなかった。
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