59 / 80
〈隠していた思い〉前編
しおりを挟む
沖縄では米軍が3月26日に慶良間列島に上陸、4月1日に沖縄本島に約50万人の米軍が上陸し、約3ヶ月に渡り「鉄の暴風」とも呼ばれた凄まじい砲爆撃を受けた。
宮古島などの離島は空襲や艦砲射撃を受け、補給を絶たれて飢餓やマラリアなどの伝染病に苦しんだ。
沖縄守備軍は少しでも長く沖縄での戦いで「本土決戦」を遅らせようと、洞窟陣地に立てこもる持久戦を行ったが……
5月下旬に首里の司令部を捨てて南部へ撤退し、野戦病院などにいた重傷者は置き去りにされた。
日本軍は兵力不足を補うために中等学校などの10代の生徒まで戦場に動員……
14歳以上の男子学徒による『鉄血勤皇隊』などの少年兵部隊が組織されたり、女学校や師範学校の生徒も看護要員の『女子学徒隊』として戦場に駆り出され、多くの少年少女が亡くなった。
米軍は、艦砲射撃・爆撃・火炎放射器などを使って攻撃……
隠れ場所になった壕では、日本軍によって住民が壕から追い出されたり、泣き声を立てる子どもが殺されたりする痛ましい事件も起こったという。
米兵による日本兵捕虜の殺害・婦女暴行、それを戒めて民間人を保護しようとする米兵……
「壕を爆破する前に出てきなさい」というカタコトの米兵の問いかけに、「捕虜は恥だ」「捕虜になるより死を選べ」と教えられていた人たちは壕の中から出て行くことができず……
壕に爆弾が投げ込まれて、『ひめゆり学徒隊』などの女子学徒隊を含む多くの方が亡くなった。
他の壕や山や海岸に逃げ込んでも、助けてくれると思っていた日本軍の兵から手榴弾を渡されて集団自決を迫られる絶望……
人命軽視に疑問を持たず命令を守ることのみに忠実になった者や、未来を諦めた者たちが次々に爆死……
家族を手に掛ける者、崖から身を投げる者、縄で首を括る者、刃物による出血死……
追い詰められて絶望した人が次々に自死を選び、家族の名を呼びながら死んでいく……
本当は誰も、そんな事をしたくなかっただろう。
6月23日……司令官達の自決によって約3か月に及ぶ日本軍の組織的戦闘は終了したものの、その後も「各自戦え」との命令で個人の戦いは続き、住民の犠牲は9万4000人以上……
沖縄県民の4人に1人が命を落とし、軍民合わせて約18万人以上の方が亡くなってしまった。
軍国主義は自国の民間人をも殺し、前途ある若者の未来も奪っていく……
教育はいかに大事か、身に沁みて分かった。
7月に入っても全国各地で空襲が続き、7月4日に高知・高松・徳島、七夕である7月7日に千葉・甲府、7月9日に和歌山、7月10日に大阪・仙台……
7月12日に宇都宮、7月14日に岩手、7月15日に青森・北海道、7月17日に茨城・日立、7月19日に福井で空襲があり、7月25日の大分では小学校に爆弾が投下され児童や教師など127人が死亡した。
7月26日に日本に無条件降伏を求める「ポツダム宣言」が発表されたが、内閣は「黙殺」……
同7月26日に山口・松山大空襲、7月28日には愛知・青森……
そんな日本各地で数えきれない回数の空襲があった7月中旬の事だった。
ヒロ宛に手紙が届き、それを読んだヒロは膝から崩れ落ちた。
「ヒロ!? どうしたの?」
「高知市の大空襲で、明希子おばさんと下の弟も死んでもうたって、知り合いの人がくれた手紙に…………前の空襲で数寄屋橋商店街で働いてた店の2階に移っとったんやけど……全部燃えて、一緒に死んでしもたって…………どうしよ源次……俺、生みの親も育ての親も、みんな亡くしてしもた……」
呆然とするヒロを抱き締めようとしたその時……手紙を持った島田くんが飛び込んできた。
「おい、篠田! 本当にありがとう! お前のおかげだよ! 七夕に千葉で空襲があったと聞いてから心配で夜も眠れなかったんだが……母ちゃんも坂本の奥さんも無事だって! 防空壕を出て助かったって……ありがとう……本当にお前のおかげだ! これで心置き無く飛び立てる……」
「えっ?……飛び立てるって?」
「沖縄から出撃する隊に、つてがあってな! 宮古島で合流して7月29日の出撃に飛び入り参加できる事になったんだ!」
「まさか……沖縄で敵とるんか?」
「ああ! 前にお前に話した『龍虎隊』だよ! ここじゃあ暫く編成はなさそうだし、前から決めてたんだ」
「島田……その話、俺に譲ってくれ……お前にはまだ母ちゃんがおるやろ? 俺にはもう家族がおらんくなったから、俺の方が適任じゃ」
「どういう事だ?」
「ヒロの育ての親代わりだったおばさんが、この間の高知の空襲で死んだんだ……」
「そ、んな……」
「島田くんも、沖縄で敵をとるってどういう事?」
「こいつの親父と従兄弟……沖縄戦に巻き込まれて死んだんや」
「えっ?」
「なあ、島田お願いじゃ……分かるやろ? 俺も敵がとりたいんじゃ……」
「悪いがこれは譲れない……これは俺の戦いだ! それに…………何でもない」
島田くんの決意は固く、7月29日の出撃に間に合うように単独で百里原基地を出発してしまった。
坂本くんと同じように「読んでから送って欲しい」と手紙を残して……
坂本くんとは違って相変わらずぶっきらぼうで、初めて見るような清々しい笑顔で……
宮古島などの離島は空襲や艦砲射撃を受け、補給を絶たれて飢餓やマラリアなどの伝染病に苦しんだ。
沖縄守備軍は少しでも長く沖縄での戦いで「本土決戦」を遅らせようと、洞窟陣地に立てこもる持久戦を行ったが……
5月下旬に首里の司令部を捨てて南部へ撤退し、野戦病院などにいた重傷者は置き去りにされた。
日本軍は兵力不足を補うために中等学校などの10代の生徒まで戦場に動員……
14歳以上の男子学徒による『鉄血勤皇隊』などの少年兵部隊が組織されたり、女学校や師範学校の生徒も看護要員の『女子学徒隊』として戦場に駆り出され、多くの少年少女が亡くなった。
米軍は、艦砲射撃・爆撃・火炎放射器などを使って攻撃……
隠れ場所になった壕では、日本軍によって住民が壕から追い出されたり、泣き声を立てる子どもが殺されたりする痛ましい事件も起こったという。
米兵による日本兵捕虜の殺害・婦女暴行、それを戒めて民間人を保護しようとする米兵……
「壕を爆破する前に出てきなさい」というカタコトの米兵の問いかけに、「捕虜は恥だ」「捕虜になるより死を選べ」と教えられていた人たちは壕の中から出て行くことができず……
壕に爆弾が投げ込まれて、『ひめゆり学徒隊』などの女子学徒隊を含む多くの方が亡くなった。
他の壕や山や海岸に逃げ込んでも、助けてくれると思っていた日本軍の兵から手榴弾を渡されて集団自決を迫られる絶望……
人命軽視に疑問を持たず命令を守ることのみに忠実になった者や、未来を諦めた者たちが次々に爆死……
家族を手に掛ける者、崖から身を投げる者、縄で首を括る者、刃物による出血死……
追い詰められて絶望した人が次々に自死を選び、家族の名を呼びながら死んでいく……
本当は誰も、そんな事をしたくなかっただろう。
6月23日……司令官達の自決によって約3か月に及ぶ日本軍の組織的戦闘は終了したものの、その後も「各自戦え」との命令で個人の戦いは続き、住民の犠牲は9万4000人以上……
沖縄県民の4人に1人が命を落とし、軍民合わせて約18万人以上の方が亡くなってしまった。
軍国主義は自国の民間人をも殺し、前途ある若者の未来も奪っていく……
教育はいかに大事か、身に沁みて分かった。
7月に入っても全国各地で空襲が続き、7月4日に高知・高松・徳島、七夕である7月7日に千葉・甲府、7月9日に和歌山、7月10日に大阪・仙台……
7月12日に宇都宮、7月14日に岩手、7月15日に青森・北海道、7月17日に茨城・日立、7月19日に福井で空襲があり、7月25日の大分では小学校に爆弾が投下され児童や教師など127人が死亡した。
7月26日に日本に無条件降伏を求める「ポツダム宣言」が発表されたが、内閣は「黙殺」……
同7月26日に山口・松山大空襲、7月28日には愛知・青森……
そんな日本各地で数えきれない回数の空襲があった7月中旬の事だった。
ヒロ宛に手紙が届き、それを読んだヒロは膝から崩れ落ちた。
「ヒロ!? どうしたの?」
「高知市の大空襲で、明希子おばさんと下の弟も死んでもうたって、知り合いの人がくれた手紙に…………前の空襲で数寄屋橋商店街で働いてた店の2階に移っとったんやけど……全部燃えて、一緒に死んでしもたって…………どうしよ源次……俺、生みの親も育ての親も、みんな亡くしてしもた……」
呆然とするヒロを抱き締めようとしたその時……手紙を持った島田くんが飛び込んできた。
「おい、篠田! 本当にありがとう! お前のおかげだよ! 七夕に千葉で空襲があったと聞いてから心配で夜も眠れなかったんだが……母ちゃんも坂本の奥さんも無事だって! 防空壕を出て助かったって……ありがとう……本当にお前のおかげだ! これで心置き無く飛び立てる……」
「えっ?……飛び立てるって?」
「沖縄から出撃する隊に、つてがあってな! 宮古島で合流して7月29日の出撃に飛び入り参加できる事になったんだ!」
「まさか……沖縄で敵とるんか?」
「ああ! 前にお前に話した『龍虎隊』だよ! ここじゃあ暫く編成はなさそうだし、前から決めてたんだ」
「島田……その話、俺に譲ってくれ……お前にはまだ母ちゃんがおるやろ? 俺にはもう家族がおらんくなったから、俺の方が適任じゃ」
「どういう事だ?」
「ヒロの育ての親代わりだったおばさんが、この間の高知の空襲で死んだんだ……」
「そ、んな……」
「島田くんも、沖縄で敵をとるってどういう事?」
「こいつの親父と従兄弟……沖縄戦に巻き込まれて死んだんや」
「えっ?」
「なあ、島田お願いじゃ……分かるやろ? 俺も敵がとりたいんじゃ……」
「悪いがこれは譲れない……これは俺の戦いだ! それに…………何でもない」
島田くんの決意は固く、7月29日の出撃に間に合うように単独で百里原基地を出発してしまった。
坂本くんと同じように「読んでから送って欲しい」と手紙を残して……
坂本くんとは違って相変わらずぶっきらぼうで、初めて見るような清々しい笑顔で……
2
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる