フェリシアン・シンドローム

九條 連

文字の大きさ
4 / 192
第1章

第1話(2)

しおりを挟む
「評判いいねえ」

 気がつくと傍らに部長の門脇が立っていて、ニコニコと群司を見ていた。

「あ、いえ。すべて皆さんのご指導の賜物です。わからないことは丁寧に教えていただけますし、俺――僕のほうこそ日々勉強になってます」
「謙虚だねえ」
 門脇はおおらかに笑う。そのあとでさりげなく付け足した。

「八神くんさ、うちに来る気があるなら遠慮なく言ってね。いまのみんなの反応見てもわかるとおり、君みたいな子は本当に大歓迎だから」
「ありがとうございます。前向きに検討させていただきます」

 真摯に受け応える群司に、門脇はうんうんと満足げに頷いた。

「いやほんと、例年の新入社員でもここまでできる子はいないって、もっぱらの評判だよ。新卒の子たちも充分優秀な子を採用してるはずなんだけどねえ」

 門脇からすれば最大限の賛辞なのだろうが、この程度ではまだたりないというのが群司の率直な認識だった。

 目的の領域に踏みこめるところまでは到底たどり着けていない。焦りは禁物だと己に言い聞かせつつ、いっそ大学は一旦わきに置いて、研究アシスタントに専念しようかとも考えていた。新年度がはじまるまえに休学届を出してしまえば、それも可能である。だが、ここまで来たら、このままバイトをつづけながら進級をして、採用に有利になる働きかけをしておくほうがいいのかもしれないと思いはじめた。

 現時点でインターン以上の成果を上げられていることはたしかである。たかが一アルバイトの立場では、立ち入れないことのほうが多い。来年度の新卒枠に潜りこみ、正式に社員となるほうが得策なのかもしれないと考えなおした。
 門脇は期待してるよと群司の肩に手を置いて去っていった。

 できることなら一刻も早く手がかりを掴みたいと心が騒ぐ。正直、悠長に構えていられない心境なのはたしかだった。それでも、ことをいて失敗するわけにはいかないのだ。
 群司は焦る気持ちを、ぐっと腹の底に押しとどめた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

我が為に生きるもの【BL】

いんげん
BL
大正ごろの日本に似た和国の話。 能力者の痣から蜜を吸わないと生きていけない僕は、幼馴染から蜜をもらって生きている。 しかし、兄のように慕っている人が海外から帰ってきて…僕たちの関係は変わりはじめ……。 守られ系、病弱主人公。可愛いが正義。  作品の都合上、主に喘いでるのは攻めです。絶頂してるのも攻めです。 無口で横暴だけど、誰よりも主人公に執着する能力者のヒーロー。 二人の兄のような存在で、主人公を愛するヤンデレ能力者。 駄目なおじさん能力者参戦しました。 かなり好き勝手書いているので、地雷が有る人には向かないです。 何でも許せる人向けです。 予告なしに性的表現が入ります。むしろ、ほぼ性的表現・・・。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

晴れの日は嫌い。

うさぎのカメラ
BL
有名名門進学校に通う美少年一年生笹倉 叶が初めて興味を持ったのは、三年生の『杉原 俊』先輩でした。 叶はトラウマを隠し持っているが、杉原先輩はどうやら知っている様子で。 お互いを利用した関係が始まる?

BL団地妻on vacation

夕凪
BL
BL団地妻第二弾。 団地妻の芦屋夫夫が団地を飛び出し、南の島でチョメチョメしてるお話です。 頭を空っぽにして薄目で読むぐらいがちょうどいいお話だと思います。 なんでも許せる人向けです。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...