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第6章

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「たしかに、逮捕時のあの興奮のしかたは常軌を逸してる印象だったかな。けど、薬物反応は出なかったって話だったよね」
「そうみたいですね。俺もネットニュースで見ましたけど」
 群司は、坂巻の反応を見ながら頷いた。

「けど、納得してない?」

 坂巻はそんな群司をチラリと見やる。群司もまた、ふたたび「そうですね」と頷いた。
 坂巻は「そうだなぁ」と呟いて天を仰ぎ、ガリガリと無造作に頭を掻いた。

「薬物か、脳の器質性障害か。あの短い映像だけで判断するのは難しいかな」
「やっぱりそうですよね」
 同意しつつ、群司は「でも」と付け加えた。

「絶対に可能性がないわけでもない。そうとも言えますよね?」
「まあ、言えなくもないねぇ」

 答えたあとで、坂巻はふっと笑った。

「なに? 群ちゃんは松木大臣にヤク中であってほしいの?」
「あ~、いや。そういうわけではないですけど」
 群司は否定した。

「ただ、ここ最近の傾向を見るかぎり、こういうケースが不自然に増えてるのはどうしてなのかなって」
「こういうケースって?」
「世界中の有名人たちがこぞって突如、理性をなくして凶暴化するケースです。松木さんみたいに」

 群司が言いきると、坂巻は黙りこんだ。

「偶然と言ってしまえばそれまでですけど、でもなんだか、パターン化してるような気がするんです。そして、そうなるメカニズムはなんだろうって考えると、共通するなにかが見えてくるんじゃないかって思えてきて。たとえば、なんらかの生物を媒介にして脳に影響を及ぼす感染症であったり、あるいは日常的に摂取している食べ物や飲み物の中に含まれるなんらかの要素が作用したり」
「もしくは、ごく一部の人間だけが享受できる薬物……とまではいかなくとも、サプリメントのような『なにか』、とか?」

 さりげない様子で補足を加えた坂巻を、群司は見据えた。

「そういう可能性は、坂巻さんから見て、ありうると思いますか?」
「そうだねぇ……」

 手の中でコーヒーの缶を弄びながら、坂巻はたのしげな様子を見せた。

「まあ、製薬会社の研究部門に身を置く立場としては、そういう方向に妄想を働かせると、なかなか愉快ではあるよね」
「プロの目から見たら、やっぱり妄想の域を出ませんか?」
「現時点で科学的根拠はどこにもないからね。ただ、いろんな可能性を踏まえて、柔軟な発想力で検証していこうとする姿勢は大事だと思うよ? 将来的に、それがどんな発見に繋がっていくかは、だれにもわからないことだからさ」

 言ったあとで、坂巻は身を乗り出した。

「ね、この話ってさ、俺以外にもだれかにしたことある?」
「あ~、あります。その、薬理研究の早乙女さんに」

 群司の言葉に、坂巻は目を瞠った。

「えっ、早乙女くんって、あの?」
、早乙女さんです」

 群司がしっかり肯定すると、坂巻は「うわっ、チャレンジャー!」と本音を漏らした。
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