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第1章
第3話(2)
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「通路で立ち話をしていると迷惑になる」
よく響く低音で男が静かに言うと、警察官ふたりが緊張したように背筋を伸ばすのがわかった。その一方で、早瀬と名乗った男性秘書は、慣れた様子でゆったりとかまえていた。
「あ~、たしかにそうですね。他の住人の方にもなにごとかと思われちゃいますよね」
言って、莉音に向きなおった。
「佐倉さん、ご都合もきちんと確認せず、突然押しかけてしまって申し訳ありませんでした。お騒がせしてしまいまして。面倒なおじさんの身柄は、こちらで引き取りますので」
「早瀬、聞こえてるぞ」
最後の部分は声をひそめて告げられたが、すかさずその後方から声が飛んできた。
状況がいまいち呑みこめないまま、莉音は早瀬と背後の人物とを見比べた。
「あの、記憶……」
「ああ、おかげさまでつい先程、思い出しました」
本人にかわって、やはり早瀬が受け応えた。
「最初、私の顔を見ても『だれだ、こいつ』って感じだったんですけどね。話をするうちにだんだんと思い出したようです。ですので、もう問題ないかと」
「あ、そうなんですね」
説明を聞いて、莉音は胸を撫で下ろした。自分のせいで今後も生活に支障をきたすようなことになったらと気になっていたのだ。
早瀬が心得たようにわきにどけたので、莉音はあらためて男に向きなおった。
「あの、無事思い出されてよかったです。でも、まだ怪我の状態も安心できないと思うので、くれぐれも大事になさってください」
「ああ。いろいろ世話になってすまなかった。ありがとう」
「いえ、僕のほうこそ、助けていただいてありがとうございました」
莉音の言葉に、青い瞳がわずかになごむ。
「本当にご面倒おかけしました。今日はこのあと、警察署のほうで今回の経緯についてくわしく説明する必要があるそうなのでこのままお暇しますが、お礼はまた、後日あらためて」
横合いから早瀬に言われて、莉音はあわててかぶりを振った。
「いえ、そんな。お礼とかしていただくようなことはなにもしてませんから。大丈夫です」
「とんでもない。そんなわけにはいきません。立て替えていただいた医療費のことなんかもありますから」
言われて、そういえばそうだったと思い出した。
「次はきちんと佐倉さんのご都合に合わせてお邪魔したいと思いますので、ご連絡先を教えていただいてもいいですか?」
早瀬の申し出に応じて、莉音はその場で携帯を取り出すと互いの連絡先を交換し合った。
「それじゃ、あわただしくて申し訳ないんですが、今日のところはこの辺で」
山岡のほうからも後日あらためて連絡をすると言われ、莉音は去っていく一行を見送った。
「親子丼、美味しかった」
立ち去りぎわ、耳打ちするように礼を言われて莉音は少し驚いた。
男を中心に、訪ねてきた一行がゾロゾロと階段を降りていく。
「いろいろ、買いすぎちゃったなぁ」
車が敷地内から出て行くのを見送ってから、莉音は手に提げていたスーパーの袋を見下ろしてポツリと呟いた。それでも、生命の恩人の記憶が無事に戻って、本当によかったと口許にかすかな笑みを浮かべた。
よく響く低音で男が静かに言うと、警察官ふたりが緊張したように背筋を伸ばすのがわかった。その一方で、早瀬と名乗った男性秘書は、慣れた様子でゆったりとかまえていた。
「あ~、たしかにそうですね。他の住人の方にもなにごとかと思われちゃいますよね」
言って、莉音に向きなおった。
「佐倉さん、ご都合もきちんと確認せず、突然押しかけてしまって申し訳ありませんでした。お騒がせしてしまいまして。面倒なおじさんの身柄は、こちらで引き取りますので」
「早瀬、聞こえてるぞ」
最後の部分は声をひそめて告げられたが、すかさずその後方から声が飛んできた。
状況がいまいち呑みこめないまま、莉音は早瀬と背後の人物とを見比べた。
「あの、記憶……」
「ああ、おかげさまでつい先程、思い出しました」
本人にかわって、やはり早瀬が受け応えた。
「最初、私の顔を見ても『だれだ、こいつ』って感じだったんですけどね。話をするうちにだんだんと思い出したようです。ですので、もう問題ないかと」
「あ、そうなんですね」
説明を聞いて、莉音は胸を撫で下ろした。自分のせいで今後も生活に支障をきたすようなことになったらと気になっていたのだ。
早瀬が心得たようにわきにどけたので、莉音はあらためて男に向きなおった。
「あの、無事思い出されてよかったです。でも、まだ怪我の状態も安心できないと思うので、くれぐれも大事になさってください」
「ああ。いろいろ世話になってすまなかった。ありがとう」
「いえ、僕のほうこそ、助けていただいてありがとうございました」
莉音の言葉に、青い瞳がわずかになごむ。
「本当にご面倒おかけしました。今日はこのあと、警察署のほうで今回の経緯についてくわしく説明する必要があるそうなのでこのままお暇しますが、お礼はまた、後日あらためて」
横合いから早瀬に言われて、莉音はあわててかぶりを振った。
「いえ、そんな。お礼とかしていただくようなことはなにもしてませんから。大丈夫です」
「とんでもない。そんなわけにはいきません。立て替えていただいた医療費のことなんかもありますから」
言われて、そういえばそうだったと思い出した。
「次はきちんと佐倉さんのご都合に合わせてお邪魔したいと思いますので、ご連絡先を教えていただいてもいいですか?」
早瀬の申し出に応じて、莉音はその場で携帯を取り出すと互いの連絡先を交換し合った。
「それじゃ、あわただしくて申し訳ないんですが、今日のところはこの辺で」
山岡のほうからも後日あらためて連絡をすると言われ、莉音は去っていく一行を見送った。
「親子丼、美味しかった」
立ち去りぎわ、耳打ちするように礼を言われて莉音は少し驚いた。
男を中心に、訪ねてきた一行がゾロゾロと階段を降りていく。
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車が敷地内から出て行くのを見送ってから、莉音は手に提げていたスーパーの袋を見下ろしてポツリと呟いた。それでも、生命の恩人の記憶が無事に戻って、本当によかったと口許にかすかな笑みを浮かべた。
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