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第6章
第1話(2)
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「いいですよ、わかりました。なにがあったのか知りませんけれども、この週末に、おふたりの関係は雇用のそれではなく、恋人的な方向に変わったってことなんですね?」
「こっ、恋人だなんて、そんな……っ」
「そうだ」
おろおろと狼狽える莉音の肩を抱いて、ヴィンセントは堂々と告げた。これには莉音のほうがギョッとして、ヴィンセントを振り返る。だが、平然とした顔で早瀬を見据える瞳に、いっさいの迷いも躊躇いも見られなかった。
「ア、ルフさん……」
「そういうことだから早瀬、口出しは無用だ。今後私は、雇い主ではなく恋人の立場で莉音を守り、自分の責任を果たすことにする」
気負いのない口調で宣言されて、莉音は茫然とヴィンセントの端整な横顔を見上げた。
早瀬の口から、ふたたびふうっと吐息が漏れる。それから、立てた中指で眼鏡のブリッジ部分をくいっと持ち上げると、あらためてふたりに向きなおった。
「わかりました、いいでしょう。そういうことなら私もこれ以上はなにも申しません。立場を利用して関係を無理強いしたというのであれば言語道断ですけれど、どうやら両想いのようですし、私がとやかく言うようなことではないみたいですからね。もちろん、言いたいことは山ほどありますけど」
『山ほど』を強調して言われて、莉音はふたたび首を竦めるように項垂れた。
「早瀬さん、ほんとにすみません……」
「いいんですよ、莉音くん。そんな申し訳なさそうな顔しないでください。君はなにも悪くないってことぐらいわかってますから。君が嫌な思いをしていないということならそれでいいんです。私だってそんな野暮じゃありませんからね。想い合ってるふたりのあいだに割って入って、馬に蹴られるような真似はしたくありません」
「ウマ?」
早瀬の言葉に、ヴィンセントが不思議そうに眉根を寄せた。
「ウマというのは、動物の馬のことか? なんでいまの話の流れで、そんなのが突然出てくる」
「おや、知りませんか? 人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえってね。日本ではそういう言いかたをするときもあるんです」
そう説明されても、腑に落ちない顔をしている。日本語に精通しているヴィンセントでも、わからない言いまわしに戸惑うこともあるのだと思うと、なんだかおかしかった。
そんな主を、早瀬はサバサバとした口調でうながした。
「さあ、もう行きますよ。今日は朝から会議があるんですからね。社長のあなたが遅れるわけにはいかないでしょう」
そして莉音には、「いっぱい我儘言って、たっぷり甘やかしてもらってくださいね。お金と包容力だけはある人ですから」と笑った。途端にヴィンセントは「バカなことを言うんじゃない」と渋い顔をする。だが、あらためて莉音を抱き寄せると頬にキスをした。
「なるべく早く帰ってくるから、いい子にしておいで。なにかあったら遠慮せず、すぐに連絡するように」
念を押すように顔を覗きこまれて、莉音ははいと頷いた。その額に、もう一度口づけを落とす。そしてようやく莉音を解放すると、早瀬を伴って出かけていった。
「こっ、恋人だなんて、そんな……っ」
「そうだ」
おろおろと狼狽える莉音の肩を抱いて、ヴィンセントは堂々と告げた。これには莉音のほうがギョッとして、ヴィンセントを振り返る。だが、平然とした顔で早瀬を見据える瞳に、いっさいの迷いも躊躇いも見られなかった。
「ア、ルフさん……」
「そういうことだから早瀬、口出しは無用だ。今後私は、雇い主ではなく恋人の立場で莉音を守り、自分の責任を果たすことにする」
気負いのない口調で宣言されて、莉音は茫然とヴィンセントの端整な横顔を見上げた。
早瀬の口から、ふたたびふうっと吐息が漏れる。それから、立てた中指で眼鏡のブリッジ部分をくいっと持ち上げると、あらためてふたりに向きなおった。
「わかりました、いいでしょう。そういうことなら私もこれ以上はなにも申しません。立場を利用して関係を無理強いしたというのであれば言語道断ですけれど、どうやら両想いのようですし、私がとやかく言うようなことではないみたいですからね。もちろん、言いたいことは山ほどありますけど」
『山ほど』を強調して言われて、莉音はふたたび首を竦めるように項垂れた。
「早瀬さん、ほんとにすみません……」
「いいんですよ、莉音くん。そんな申し訳なさそうな顔しないでください。君はなにも悪くないってことぐらいわかってますから。君が嫌な思いをしていないということならそれでいいんです。私だってそんな野暮じゃありませんからね。想い合ってるふたりのあいだに割って入って、馬に蹴られるような真似はしたくありません」
「ウマ?」
早瀬の言葉に、ヴィンセントが不思議そうに眉根を寄せた。
「ウマというのは、動物の馬のことか? なんでいまの話の流れで、そんなのが突然出てくる」
「おや、知りませんか? 人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえってね。日本ではそういう言いかたをするときもあるんです」
そう説明されても、腑に落ちない顔をしている。日本語に精通しているヴィンセントでも、わからない言いまわしに戸惑うこともあるのだと思うと、なんだかおかしかった。
そんな主を、早瀬はサバサバとした口調でうながした。
「さあ、もう行きますよ。今日は朝から会議があるんですからね。社長のあなたが遅れるわけにはいかないでしょう」
そして莉音には、「いっぱい我儘言って、たっぷり甘やかしてもらってくださいね。お金と包容力だけはある人ですから」と笑った。途端にヴィンセントは「バカなことを言うんじゃない」と渋い顔をする。だが、あらためて莉音を抱き寄せると頬にキスをした。
「なるべく早く帰ってくるから、いい子にしておいで。なにかあったら遠慮せず、すぐに連絡するように」
念を押すように顔を覗きこまれて、莉音ははいと頷いた。その額に、もう一度口づけを落とす。そしてようやく莉音を解放すると、早瀬を伴って出かけていった。
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