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第6章
第1話(3)
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ふたりを見送った莉音は、ひとり玄関に佇んだまま、ふうっと溜息をついた。
もともと優しい人だとは思っていたが、まさかこんな関係になるとは思ってもみなかった。
土曜の夜にああいうことになったときも、怖い思いをしてショックを受けている自分を慰めるための行為だったと理解していたし、ひと晩かぎりのことだと思っていた。だが実際は、昨日も一日中ヴィンセントは莉音を自分のそばから離さず、終始身体を気遣いながらたっぷりと甘やかしてくれた。
思い出して、だれもいないのにひとりで赤くなる。
ふたりがベッドから抜け出してシャワーを浴びたのは、日曜の昼近くのことで、それから前日にデリバリーしたピザを温めなおして食べ、のんびりとした午後を過ごした。
ブランチのあと、莉音はいつもどおりに家事をこなすつもりでいたのだが、今日はなにもしなくていいと言われて、リビングのソファーで新聞を読んだり、タブレットを使って仕事関係のメールや文書をチェックするヴィンセントの横に座らされた。その間、ことあるごとに抱き寄せられ、頭を撫でられて額や頬、口唇にキスをされた。
性的な意味合いより、どちらかというと犬か猫でも可愛がっている感じで、けれどもそれがかえって心地よく、莉音も気兼ねなく甘えることができた。
優しく触れる手から自分を思いやってくれる気持ちが伝わってくる。それがとても嬉しくて、幸せな時間だった。
夜になって夕飯はさすがに用意すると言うと、ヴィンセントからは親子丼をリクエストされた。
莉音のアパートで、はじめて一緒に食事をしたときとおなじメニューでの夕食。
食後にまたふたりで映画などを観ながらのんびり過ごした後、十一時近くに寝支度を調えることになったが、莉音は昨夜もゲストルームではなく、ヴィンセントの寝室で寝ることとなった。
とはいえ、その際にふたたび躰を求められることはなく、ただヴィンセントのあたたかな胸に抱きしめられて眠った。今朝も、先に起きて朝食の準備を調えていると、身支度を済ませたヴィンセントが降りてきて、挨拶がてら軽く頬にキスをされた。欧米風のごく普通の挨拶といった感じで、甘やかな雰囲気もすでに消えていたため、莉音もまた、日常に戻ったのだと思っていた。それなのに――
――僕が、アルフさんの恋人……?
たったいまのやりとりを思い返して、茫然とする。たしかにヴィンセントと躰の関係を持った。これでもかというほどトロトロにとろかされて愛され、昨日もずっと、甘やかされて大切にしてもらった。けれども、社会的地位のあるヴィンセントと専門学校を中退して求職中の自分とでは、あまりにも立場が違いすぎて、それ以上を望むつもりは決してなかった。
自分に起こった出来事が、ただ怖くて不安で、そんな自分を抱きしめてくれる手が好きな相手のものだと気づいてしまったから、身のほど知らずとわかっていながらも甘えて縋ってしまった。ただ一度、受け止めてもらえただけで充分だと思っていた。それだけのはずだったのに。
愛される幸せを知ってしまったぶん、これからのことを考えると少し怖かった。
「これから、どうしよう……」
呟く声に、不安と戸惑いが滲む。
自分を狙う人間が何者で、どんな意図や目的があるのか、どうすれば知ることができるのだろうと莉音はひとり頭を悩ませた。
もともと優しい人だとは思っていたが、まさかこんな関係になるとは思ってもみなかった。
土曜の夜にああいうことになったときも、怖い思いをしてショックを受けている自分を慰めるための行為だったと理解していたし、ひと晩かぎりのことだと思っていた。だが実際は、昨日も一日中ヴィンセントは莉音を自分のそばから離さず、終始身体を気遣いながらたっぷりと甘やかしてくれた。
思い出して、だれもいないのにひとりで赤くなる。
ふたりがベッドから抜け出してシャワーを浴びたのは、日曜の昼近くのことで、それから前日にデリバリーしたピザを温めなおして食べ、のんびりとした午後を過ごした。
ブランチのあと、莉音はいつもどおりに家事をこなすつもりでいたのだが、今日はなにもしなくていいと言われて、リビングのソファーで新聞を読んだり、タブレットを使って仕事関係のメールや文書をチェックするヴィンセントの横に座らされた。その間、ことあるごとに抱き寄せられ、頭を撫でられて額や頬、口唇にキスをされた。
性的な意味合いより、どちらかというと犬か猫でも可愛がっている感じで、けれどもそれがかえって心地よく、莉音も気兼ねなく甘えることができた。
優しく触れる手から自分を思いやってくれる気持ちが伝わってくる。それがとても嬉しくて、幸せな時間だった。
夜になって夕飯はさすがに用意すると言うと、ヴィンセントからは親子丼をリクエストされた。
莉音のアパートで、はじめて一緒に食事をしたときとおなじメニューでの夕食。
食後にまたふたりで映画などを観ながらのんびり過ごした後、十一時近くに寝支度を調えることになったが、莉音は昨夜もゲストルームではなく、ヴィンセントの寝室で寝ることとなった。
とはいえ、その際にふたたび躰を求められることはなく、ただヴィンセントのあたたかな胸に抱きしめられて眠った。今朝も、先に起きて朝食の準備を調えていると、身支度を済ませたヴィンセントが降りてきて、挨拶がてら軽く頬にキスをされた。欧米風のごく普通の挨拶といった感じで、甘やかな雰囲気もすでに消えていたため、莉音もまた、日常に戻ったのだと思っていた。それなのに――
――僕が、アルフさんの恋人……?
たったいまのやりとりを思い返して、茫然とする。たしかにヴィンセントと躰の関係を持った。これでもかというほどトロトロにとろかされて愛され、昨日もずっと、甘やかされて大切にしてもらった。けれども、社会的地位のあるヴィンセントと専門学校を中退して求職中の自分とでは、あまりにも立場が違いすぎて、それ以上を望むつもりは決してなかった。
自分に起こった出来事が、ただ怖くて不安で、そんな自分を抱きしめてくれる手が好きな相手のものだと気づいてしまったから、身のほど知らずとわかっていながらも甘えて縋ってしまった。ただ一度、受け止めてもらえただけで充分だと思っていた。それだけのはずだったのに。
愛される幸せを知ってしまったぶん、これからのことを考えると少し怖かった。
「これから、どうしよう……」
呟く声に、不安と戸惑いが滲む。
自分を狙う人間が何者で、どんな意図や目的があるのか、どうすれば知ることができるのだろうと莉音はひとり頭を悩ませた。
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