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第9章
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「あ、どうしよう…っ。あれ、本物? まさかそんな……」
「莉音、どうしたんだ。莉音?」
「アルフさん、そのダイヤって、ひょっとしてものすごく高いものなんですかっ? 普通のダイヤより!?」
「まあ、そうだが」
「高いってどれくらい!? 百万とか二百万とか? ……まさか、一千万円とか、そういう金額じゃない、です…よね……?」
おそるおそる尋ねる莉音の顔をしばらく見ていたヴィンセントは、ややあってから口を開いた。
「正確なところは私にもわからないが、おそらくいまならば、このペントハウスがいくつかまとめて買える程度の価値は」
聞いた途端、莉音は気が遠くなりそうになった。
これだけの立地で最上階まるまるワンフロアー所有しているのだ。その価値が、一億二億程度では済まないことくらい、莉音にでもわかる。ひょっとすると、さらに桁が違うかもしれない。それをいくつか――
「莉音! 莉音、どうしたんだ、いったい。しっかりしなさい」
しばし空を眺めていた莉音は、肩を掴まれてようやくヴィンセントを顧みた。
「ア、ルフさん、どうしよう。僕……」
「うん、どうした? 落ち着いて」
「その指輪、もうないです」
「え?」
怪訝そうに顔を覗きこまれて、莉音はくしゃりと表情を歪ませた。
「母さん、偽物だけどすっごくきれいだからって、ずっと大事にしてて。すごくお気に入りで。だから僕、向こうに――天国に行ってもずっと身につけていられるようにって、母さん亡くなったとき、お棺に入れてあげて……」
「莉音……」
美しい輝きの双眸を瞠って、ヴィンセントは茫然と呟いた。
「どうしよう、アルフさん。僕、そんなに価値のあるものだなんて全然知らなくて」
先程とは違った意味で泣きそうになっている莉音をしばし見つめていたヴィンセントは、しかし不意に、クッと肩を揺らすと笑いはじめた。
「アッ、アルフさんっ! 笑いごとじゃないですってば! 僕、大変なことしちゃったのにっ」
莉音は半ベソをかいて抗議する。だがヴィンセントは、なおもおかしくてしかたがなさそうに笑いつづけた。
取り返しのつかない事態にかつてないほど動転していた莉音は、すぐ横で大笑いするヴィンセントを茫然と見ているうちに少しだけ気分が落ち着いてくる。おかげで、それ以上は取り乱さずに済んだ。
やがて笑いをおさめると、ヴィンセントはやわらかな笑みを浮かべて莉音の頬に手を伸ばし、そっと触れた。
「すまない、あまりにも想定外のことで。だが、とても莉音らしい」
「そんなこと言ってる場合じゃっ――」
「莉音はお母さんのためにしたことを、後悔しているか?」
真面目に訊かれて、莉音は困惑する。
「わかり、ません。母さんのためだから、そういう意味では後悔はないけど、でも、そんなにすごいものだったなんて知らなかったから……。あの、さっき、この家がいくつか買えるくらいって言ってましたけど、具体的に、何個くらい……?」
莉音の質問に、ヴィンセントは笑みを深くするばかりではぐらかし、なにも答えてはくれなかった。
「知っていても、私は君なら、おなじことをしたと思うのだけれどね」
「そっ、そんなのわかんないじゃないですか! むしろ知ってたら怖くてそんなことできません! アルフさん、僕のこと買いかぶりすぎですっ。っていうか、ほんとにいくらの値打ちが――」
「そんなことはない。私の知っている莉音なら、きっとそうした」
断言されて、莉音は一瞬押し黙った。
「莉音、どうしたんだ。莉音?」
「アルフさん、そのダイヤって、ひょっとしてものすごく高いものなんですかっ? 普通のダイヤより!?」
「まあ、そうだが」
「高いってどれくらい!? 百万とか二百万とか? ……まさか、一千万円とか、そういう金額じゃない、です…よね……?」
おそるおそる尋ねる莉音の顔をしばらく見ていたヴィンセントは、ややあってから口を開いた。
「正確なところは私にもわからないが、おそらくいまならば、このペントハウスがいくつかまとめて買える程度の価値は」
聞いた途端、莉音は気が遠くなりそうになった。
これだけの立地で最上階まるまるワンフロアー所有しているのだ。その価値が、一億二億程度では済まないことくらい、莉音にでもわかる。ひょっとすると、さらに桁が違うかもしれない。それをいくつか――
「莉音! 莉音、どうしたんだ、いったい。しっかりしなさい」
しばし空を眺めていた莉音は、肩を掴まれてようやくヴィンセントを顧みた。
「ア、ルフさん、どうしよう。僕……」
「うん、どうした? 落ち着いて」
「その指輪、もうないです」
「え?」
怪訝そうに顔を覗きこまれて、莉音はくしゃりと表情を歪ませた。
「母さん、偽物だけどすっごくきれいだからって、ずっと大事にしてて。すごくお気に入りで。だから僕、向こうに――天国に行ってもずっと身につけていられるようにって、母さん亡くなったとき、お棺に入れてあげて……」
「莉音……」
美しい輝きの双眸を瞠って、ヴィンセントは茫然と呟いた。
「どうしよう、アルフさん。僕、そんなに価値のあるものだなんて全然知らなくて」
先程とは違った意味で泣きそうになっている莉音をしばし見つめていたヴィンセントは、しかし不意に、クッと肩を揺らすと笑いはじめた。
「アッ、アルフさんっ! 笑いごとじゃないですってば! 僕、大変なことしちゃったのにっ」
莉音は半ベソをかいて抗議する。だがヴィンセントは、なおもおかしくてしかたがなさそうに笑いつづけた。
取り返しのつかない事態にかつてないほど動転していた莉音は、すぐ横で大笑いするヴィンセントを茫然と見ているうちに少しだけ気分が落ち着いてくる。おかげで、それ以上は取り乱さずに済んだ。
やがて笑いをおさめると、ヴィンセントはやわらかな笑みを浮かべて莉音の頬に手を伸ばし、そっと触れた。
「すまない、あまりにも想定外のことで。だが、とても莉音らしい」
「そんなこと言ってる場合じゃっ――」
「莉音はお母さんのためにしたことを、後悔しているか?」
真面目に訊かれて、莉音は困惑する。
「わかり、ません。母さんのためだから、そういう意味では後悔はないけど、でも、そんなにすごいものだったなんて知らなかったから……。あの、さっき、この家がいくつか買えるくらいって言ってましたけど、具体的に、何個くらい……?」
莉音の質問に、ヴィンセントは笑みを深くするばかりではぐらかし、なにも答えてはくれなかった。
「知っていても、私は君なら、おなじことをしたと思うのだけれどね」
「そっ、そんなのわかんないじゃないですか! むしろ知ってたら怖くてそんなことできません! アルフさん、僕のこと買いかぶりすぎですっ。っていうか、ほんとにいくらの値打ちが――」
「そんなことはない。私の知っている莉音なら、きっとそうした」
断言されて、莉音は一瞬押し黙った。
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