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第3章
すれ違う想い(2)
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俺も最初は、リュシエルとエルディラントは同格なのだと思っていた。いや、実際のところ、格付けとしては同位なんだと思う。ただ、出自のほうで格差があった。
リュシエルのほうは、いかにも育ちがよさそうな箱入りの印象そのままに、所謂名家の出身。そしてエルディラントはといえば、ごく一般的な階級の出身であるらしい。天界人の身分制度はいまいち正確に把握できていないが、どうやら王族と平民ぐらいの家格の差があるようだった。
だからリュシエルはエルディラントを『そなた』と呼ぶし、エルディラントはリュシエルに対して『あなた』と呼びかけていた。
一緒に暮らしはじめた当初は、年長者であるにもかかわらず、エルディラントはリュシエルに敬語で接していたそうだ。だが、おなじ次期盟主という対等な立場で、それはおかしいとリュシエルが異議を唱えたらしい。これから永い人生をともに歩んでいくのに、そんなふうに一線を引かれてしまうのは寂しいと。それならば年下である自分が遜るべきだと主張し、エルディラントも結局折れたとのことだった。
たしかに、恋い慕う相手に一歩引かれ、距離を取られるのはきついだろう。その一方で、筋金入りのド庶民の俺――記憶はなくても、それは確信を持って言える――からすれば、身分が上の人間に遠慮する気持ちもわかる。もし皇族と共同生活することになって、仲良くしようと言われたからといって、そうやすやすと打ち解けられるはずもない。緊張するし、いちいち失礼はないかと気を遣ってしまう。
それでも、リュシエルの言うことももっともだとエルディラントも納得し、歩み寄る姿勢を見せるようになった。
そうして表面上は対等の立場で接するようになったが、本音の部分では、身分差の壁は意外と厚かった。そんなところじゃないかと推測している。それが、メルヴィルの言っていた、エルディラントのリュシエルに対する気遣いだったのではないか。
そしてリュシエルもまた、好きな相手をまえに、緊張がまさって打ち解けることができなかった。
ふたりが力のやりとりをうまくできなかったのは、そういったお互いの気持ちが影響していたように思えてならない。
俺が思うに、エルディラントも間違いなく、リュシエルに好意を抱いていたはずなのだ。箱入りならではの世間知らずで我儘な一面もそれなりにあるが、他者を思いやる優しさも備えている。おおらかで奔放で、そのくせとても繊細な一面も持っている。そしてとても健気でいじらしい。そんな人間から一途な想いを寄せられたら、悪い気はしないどころか、守ってやりたくなるだろう。
「俺は、もしエルディラントが俺と入れ替わることなしにあのまま目覚めていたとしても、絶対に犯人を炙り出すためにおなじことをしたと思うぜ?」
「エルディラントは、そのように考えなしな真似はせぬ!」
「いや、まあ、犯人に目星がついてたなら、わざわざ探りを入れるまでもなく直接締め上げただろうけどな」
「締めっ!? エルディラントはそのような野蛮な男ではないっ」
「あ~、はいはい。考えかたも素行も野蛮で悪うござんした」
いくらなんでも崇拝しすぎだろと苦笑が漏れた。
「けどさ、あんたの大好きなエルディラントがどんなに温厚な紳士だったとしても、今回ばっかは絶対に容赦しなかったはずだ」
「なぜそんなことがわかる」
「わかるさ。危害を加えられたのは、ほかでもないあんただったんだからな」
言った途端に、意表を突かれたように青玉の瞳が瞬いた。
リュシエルのほうは、いかにも育ちがよさそうな箱入りの印象そのままに、所謂名家の出身。そしてエルディラントはといえば、ごく一般的な階級の出身であるらしい。天界人の身分制度はいまいち正確に把握できていないが、どうやら王族と平民ぐらいの家格の差があるようだった。
だからリュシエルはエルディラントを『そなた』と呼ぶし、エルディラントはリュシエルに対して『あなた』と呼びかけていた。
一緒に暮らしはじめた当初は、年長者であるにもかかわらず、エルディラントはリュシエルに敬語で接していたそうだ。だが、おなじ次期盟主という対等な立場で、それはおかしいとリュシエルが異議を唱えたらしい。これから永い人生をともに歩んでいくのに、そんなふうに一線を引かれてしまうのは寂しいと。それならば年下である自分が遜るべきだと主張し、エルディラントも結局折れたとのことだった。
たしかに、恋い慕う相手に一歩引かれ、距離を取られるのはきついだろう。その一方で、筋金入りのド庶民の俺――記憶はなくても、それは確信を持って言える――からすれば、身分が上の人間に遠慮する気持ちもわかる。もし皇族と共同生活することになって、仲良くしようと言われたからといって、そうやすやすと打ち解けられるはずもない。緊張するし、いちいち失礼はないかと気を遣ってしまう。
それでも、リュシエルの言うことももっともだとエルディラントも納得し、歩み寄る姿勢を見せるようになった。
そうして表面上は対等の立場で接するようになったが、本音の部分では、身分差の壁は意外と厚かった。そんなところじゃないかと推測している。それが、メルヴィルの言っていた、エルディラントのリュシエルに対する気遣いだったのではないか。
そしてリュシエルもまた、好きな相手をまえに、緊張がまさって打ち解けることができなかった。
ふたりが力のやりとりをうまくできなかったのは、そういったお互いの気持ちが影響していたように思えてならない。
俺が思うに、エルディラントも間違いなく、リュシエルに好意を抱いていたはずなのだ。箱入りならではの世間知らずで我儘な一面もそれなりにあるが、他者を思いやる優しさも備えている。おおらかで奔放で、そのくせとても繊細な一面も持っている。そしてとても健気でいじらしい。そんな人間から一途な想いを寄せられたら、悪い気はしないどころか、守ってやりたくなるだろう。
「俺は、もしエルディラントが俺と入れ替わることなしにあのまま目覚めていたとしても、絶対に犯人を炙り出すためにおなじことをしたと思うぜ?」
「エルディラントは、そのように考えなしな真似はせぬ!」
「いや、まあ、犯人に目星がついてたなら、わざわざ探りを入れるまでもなく直接締め上げただろうけどな」
「締めっ!? エルディラントはそのような野蛮な男ではないっ」
「あ~、はいはい。考えかたも素行も野蛮で悪うござんした」
いくらなんでも崇拝しすぎだろと苦笑が漏れた。
「けどさ、あんたの大好きなエルディラントがどんなに温厚な紳士だったとしても、今回ばっかは絶対に容赦しなかったはずだ」
「なぜそんなことがわかる」
「わかるさ。危害を加えられたのは、ほかでもないあんただったんだからな」
言った途端に、意表を突かれたように青玉の瞳が瞬いた。
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