花とオオカミ

真朱マロ

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おわり

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「花。夜に出歩くな。不審者情報を知らないのか?」
「ごめん、家族にコンビニで買い物を頼まれたの」
 本当は言い出したのは私で、ただたんに肉まんが食べたかっただけなのだけど、家族から渡された買い物メモが良い仕事をしてくれた。大神君はまるっと信じたようだ。
「いや、危ないだろ。おまえの家族、危機管理が足りてないぞ。大丈夫か?」
 あきれたような大神君の表情に、てへっと笑った。
「私の逃げ足の速さを知ってるからね。あのさ、さっきのなぁに? 格好良かったね」
「格好良いっって……穢れの場にいてもいつも通りって、メンタル最強かよ」
 大神君はなぜだかギョッとしていた。どうやら変化なしの私は、驚く事らしい。
 そして「説明するから」と言って、鳥居横のコンビニでピザまんを買ってくれた。
 ホカホカの湯気を漂わせる肉まんが、さっきまでの異様な状況を忘れさせてくれた。
 私はピザまんを半分にして「夜だから半分でいい」と言って大神君に渡す。
 大神君ははんぶんこしたピザまんを食べながら、何でもない事のように「穢れと神降ろしの一族」の説明を簡単にしてくれた。
 穢れは、生き物の持つ恨み・嫉み・憎悪・欲望といった負の要素から生まれる澱みの事。
 それを祓い清める神を身に降ろした一族がいて、そのうちの一人が大神君。
 普段は神力を制御していても、戦闘モードになると尻尾を隠せなくなるらしい。
「物語みたいだね」と笑ったら、大神君も「ま~な」と笑った。
「ご先祖様が、違和感なく普通の人たちと溶け込めるように、劇やらなんやで広報を頑張ったらしいけどな。違和感があるんだか、ないんだか、俺にはわかんね~よ」
 そりゃそうだ。他の人には見えなくても、ずっと獣耳があるのが大神君だ。
「コスプレに見えて、格好良いからいいんじゃない?」
 大神君はぶふっと吹き出して「コスプレかよ」と笑い転げていた。
 とりあえず、今週一緒に帰れなかった理由が判明した。
 穢れの汚泥人間の痕跡を追って、神社に誘き寄せる準備をしていたらしい。
「そういう事情なら仕方ないよね。付き合ってもないのに一緒にいたから、ウザがられたのかと思っちゃった」
「俺ら、付き合ってね~の?」
 思いがけない言葉に、ギュンッとすごい勢いで大神君を見上げたら、真顔だった。冗談の要素はかけらもなく、本気でそう思っている顔だ。
 不安げに揺れる尻尾と耳が、たまらなく良い。
「付き合ってる! 私の中では付き合ってる! というか、よろしく?」
 どういえば正解かわからないので前のめりになっていたら、大神くんはクツクツ笑い転げた後で、自分の持っていた特性肉まんを半分私にくれた。
「ちゃんと言ってなかったけど、俺の中でも、花と付き合ってる」
 うわぁぁぁぁぁぁぁ嬉しいぃぃぃぃと思いながら、私は特性肉まんを頬張った。
 脳内で、エンダァァァッてお馴染みのあの曲がグルグル回る。
 こんなに幸せでいいのだろうか。などと思っていたけど、ふと、気付いた。
「半分と半分を食べたら、丸ごと一個食べたのと同じだった!」
 夜の間食は太るから、肉まんは半分だけって決めていたのに。
 ひ~んと半ベソになる私に、大神君は思い切り笑い転げるのだった。


 【 終 】
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