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「英雄のしつけかた」 1章 王都で暮らしましょう
11. 何か問題がありまして? 1
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ガシャン、と重い音がした。
王都にはふさわしくない乱雑な騒音だった。
「ん? なんの音だ?」
首を傾げたけれど想像がつかず頭を悩ませている間も、ドサドサと投げだされる威勢のいい音が続いている。
詰所の窓からヒョイと顔を出したキサルが、驚愕の表情で「うお!」と声を上げた。
「どうした?」
顔を出したサガンやデュランも、ポカンと口を開ける。
常日頃から動じにくい者たちが、次々と硬直していく。
なんだ? と次々に窓から顔を出した全員が驚きの表情で動きを止めた。
玄関ホールに積まれていた荷物が、ものすごい勢いで窓からポイポイと投げだされていたのだ。
大通りに面した窓ではなく、詰所側から見える窓からであることに、なけなしの気遣いを感じる。
「キャ!」とか「ヒッ!」とか悲鳴じみた声がたまに混じっているが、ドッシャンガッシャンと投げ出されていく荷物の勢いはまったく止まらなかった。
「せぇの!」
気合を入れた声と共にマキビシなどを詰めた箱が投げられ、綺麗に弧を描く。
大きな音をたてて地面に激突した箱の蓋が壊れ、バラバラと一帯に散らばったのを見て、硬直していった武人たちはようやく事態を把握する。
玄関付近に積まれていた重要物が、問答無用で撤去されようとしていた。
退魔用の特殊な品がほとんどで、普通の傭兵でさえ怯える荷物の山のはずだった。
一応触れても害のない処理はしてあるが、見てくれは凶悪である。
まさか、魔物捕獲用におどろおどろしい物が置いてあったのに、当たり前に触れる勇気ある女がいるとは。
これは想定外である。
サァーッと全身から血の気が引いて行った。
「まずい、まずいぞ、これは!」
「あのお嬢さん、本気で片付ける気だ!」
「あそこには貴重品まで置いてあるぞ!」
「冗談じゃないぞ! いくらすると思ってんだ?」
「みんな来い!」
ものすごい勢いで母屋に行き、玄関を開ける。
そこではミレーヌが手袋をはめ、タオルで頭と口元を完全武装して、せっせと撤去に動き回っていた。
自分なりの判断で置かれた荷物を仕分けしているようだ。
武具だの武器だのあきらかな武人の道具は、遠慮なく窓から放り出している。
その行動は威勢がよく、投げ捨てるどころか、破壊も辞さない勢いだった。
詰所か中庭ある物置や倉庫にも入れるつもりらしいが、丈夫そうに見えて繊細な武器・道具もある。
トウッと気合とともに、また一つ荷袋が空を飛んだ。
ガッシャン。
ありゃ半分ぐらい壊れたなと皆は思ったが、呆然としていたから止めることができなかった。
だが、見ている場合ではない。
コホン、と咳を一つして、気を取り直したキサルが問いかけた。
「つかぬことを聞くが、ここに置いていた服は?」
まぁ顔色が悪い、と思いながらミレーヌはエプロンの埃をはらいながら答えた。
「あら、汚れ物はライナさんに洗っていただいてますの。ボロはそちらの袋ですわ」
やられた! と青ざめてそれぞれが叫ぶ。
ライナも優れた特技を持っている。
料理は不得手だが、洗濯業者に勤めていた経験がある。
強烈な汚れものでも間違いなく新品同様に洗いあげてしまうのだ。
変装用の旅装束や浮浪者の服を洗ったなら、再び汚すのはかなり大変な作業だった。
身ぎれいな格好では変装が成り立たない。
「ここにあった、仕掛けは?」
震える指先で床の一部を指さした。
とってもおぞましい物だったはずだが、ない。
汚れているものの冷たい大理石が顔をのぞかせていた。
「あら、生ゴミでしょう? とっても臭いんですもの。革袋に詰めて裏に。業者に引き取ってもらわなくてはいけませんわね」
魔物をおびき寄せる品だと聞いて、ミレーヌは目をパチクリさせる。
気持ちは悪かったけれどポンと放り投げてあるのだから、そこまで恐ろしいものだと感じていなかった。
妙なキノコだのカビだのも繁殖していたし、火バシでつまむだけで溶ける物体まであって驚いたと、朗らかにホホホと笑う。
アレを片づけて笑えるかと皆が表情を消した。
「いや、気持ちはわかるが、このままにしておくのが一番だ。便利で手っ取り早くて……」
あら? とミレーヌは小首をかしげた。
「生活に関わることはわたくしに一任すると、流派を担う方が剣に誓いましたのに。命と同じ誓いを、剣士がほごにするんですの?」
シレッと返す。
確かに「剣に誓って」と冗談交じりに宣言しているので、一同はそろって言葉に詰まった。
王都にはふさわしくない乱雑な騒音だった。
「ん? なんの音だ?」
首を傾げたけれど想像がつかず頭を悩ませている間も、ドサドサと投げだされる威勢のいい音が続いている。
詰所の窓からヒョイと顔を出したキサルが、驚愕の表情で「うお!」と声を上げた。
「どうした?」
顔を出したサガンやデュランも、ポカンと口を開ける。
常日頃から動じにくい者たちが、次々と硬直していく。
なんだ? と次々に窓から顔を出した全員が驚きの表情で動きを止めた。
玄関ホールに積まれていた荷物が、ものすごい勢いで窓からポイポイと投げだされていたのだ。
大通りに面した窓ではなく、詰所側から見える窓からであることに、なけなしの気遣いを感じる。
「キャ!」とか「ヒッ!」とか悲鳴じみた声がたまに混じっているが、ドッシャンガッシャンと投げ出されていく荷物の勢いはまったく止まらなかった。
「せぇの!」
気合を入れた声と共にマキビシなどを詰めた箱が投げられ、綺麗に弧を描く。
大きな音をたてて地面に激突した箱の蓋が壊れ、バラバラと一帯に散らばったのを見て、硬直していった武人たちはようやく事態を把握する。
玄関付近に積まれていた重要物が、問答無用で撤去されようとしていた。
退魔用の特殊な品がほとんどで、普通の傭兵でさえ怯える荷物の山のはずだった。
一応触れても害のない処理はしてあるが、見てくれは凶悪である。
まさか、魔物捕獲用におどろおどろしい物が置いてあったのに、当たり前に触れる勇気ある女がいるとは。
これは想定外である。
サァーッと全身から血の気が引いて行った。
「まずい、まずいぞ、これは!」
「あのお嬢さん、本気で片付ける気だ!」
「あそこには貴重品まで置いてあるぞ!」
「冗談じゃないぞ! いくらすると思ってんだ?」
「みんな来い!」
ものすごい勢いで母屋に行き、玄関を開ける。
そこではミレーヌが手袋をはめ、タオルで頭と口元を完全武装して、せっせと撤去に動き回っていた。
自分なりの判断で置かれた荷物を仕分けしているようだ。
武具だの武器だのあきらかな武人の道具は、遠慮なく窓から放り出している。
その行動は威勢がよく、投げ捨てるどころか、破壊も辞さない勢いだった。
詰所か中庭ある物置や倉庫にも入れるつもりらしいが、丈夫そうに見えて繊細な武器・道具もある。
トウッと気合とともに、また一つ荷袋が空を飛んだ。
ガッシャン。
ありゃ半分ぐらい壊れたなと皆は思ったが、呆然としていたから止めることができなかった。
だが、見ている場合ではない。
コホン、と咳を一つして、気を取り直したキサルが問いかけた。
「つかぬことを聞くが、ここに置いていた服は?」
まぁ顔色が悪い、と思いながらミレーヌはエプロンの埃をはらいながら答えた。
「あら、汚れ物はライナさんに洗っていただいてますの。ボロはそちらの袋ですわ」
やられた! と青ざめてそれぞれが叫ぶ。
ライナも優れた特技を持っている。
料理は不得手だが、洗濯業者に勤めていた経験がある。
強烈な汚れものでも間違いなく新品同様に洗いあげてしまうのだ。
変装用の旅装束や浮浪者の服を洗ったなら、再び汚すのはかなり大変な作業だった。
身ぎれいな格好では変装が成り立たない。
「ここにあった、仕掛けは?」
震える指先で床の一部を指さした。
とってもおぞましい物だったはずだが、ない。
汚れているものの冷たい大理石が顔をのぞかせていた。
「あら、生ゴミでしょう? とっても臭いんですもの。革袋に詰めて裏に。業者に引き取ってもらわなくてはいけませんわね」
魔物をおびき寄せる品だと聞いて、ミレーヌは目をパチクリさせる。
気持ちは悪かったけれどポンと放り投げてあるのだから、そこまで恐ろしいものだと感じていなかった。
妙なキノコだのカビだのも繁殖していたし、火バシでつまむだけで溶ける物体まであって驚いたと、朗らかにホホホと笑う。
アレを片づけて笑えるかと皆が表情を消した。
「いや、気持ちはわかるが、このままにしておくのが一番だ。便利で手っ取り早くて……」
あら? とミレーヌは小首をかしげた。
「生活に関わることはわたくしに一任すると、流派を担う方が剣に誓いましたのに。命と同じ誓いを、剣士がほごにするんですの?」
シレッと返す。
確かに「剣に誓って」と冗談交じりに宣言しているので、一同はそろって言葉に詰まった。
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