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「英雄のしつけかた」 1章 王都で暮らしましょう
13. どうしたものかとぼやいてみる 1
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振り返りもせず、ミレーヌは足取りも軽く買い物に出かけた。
フンフン♪ と鼻歌がついついこぼれている。
ものすごくご機嫌なのがそれだけでわかった。
残された武人たちは遠ざかる背中を、恐ろしげに見送ることしかできない。
遠くに去ったのを見て、ようやく息をついた。
商店街までは距離があるので、ミレーヌの足だとしばらく帰ってこないだろう。
有意義なショッピングタイムを過ごし、一秒でも長く買い物を楽しんでほしいところだ。
数時間は猶予ができたと思わず顔を見合わせ、ハァ~とため息をもらすことしかできない。
度胸がすわっているのか、鈍いだけなのか。
睨んでも怖い顔で脅してもひるむどころか、のんきな笑顔のままで意味がないとは。
降ってわいた大掃除だけで想定外の強烈な体験だ。
掃除が終わっても次が待っている。
集団生活に必要なルールなど、考えただけで不自由そうだった。
これではメイドや家政婦ではなく、カカア天下の女主人である。
「誰だ? あのお嬢さんをうちにと言いだした奴は? 我々を飼いならす気だぞ。なぜか逆らえん」
ム~ッと青い顔でラクシがうなった。
「キサルだろ? 怖がらないと言ったのは?」
「ラルゴだよな? 面白い女だと言ったぞ?」
それぞれが相手の責任を口にする。
全員が「ちょうどいいんじゃね?」と乗り気で、やめとけとダメだしした者が誰ひとりとしていないのだから、実に不毛な争いである。
「若い娘さんと生活するんだ、東の国なら仕方ないさ」
ただ一人、この国の出身者であるデュランがそう言った。
「下町のお嬢さんに馴染みがあるのは騎士団だけだから、似たようなものだと勘違いしてるんだろうなぁ~王都の騎士は実に品行方正だ」
困ったことは騎士様へ。
それがカナルディア国の常識だった。
騎士団の大半が貴族の子弟か中流以上の商家の子息ばかりで、普段着で歩いていても品があってそれとわかる。
そのうえ下町生まれであっても能力さえあれば準騎士として剣を授かることもあり、実力さえあれば騎士爵も手に入れることもでき、王都カナルは世界的にも珍しい独自の騎士文化を持っていた。
他の市民の感覚もあんなものだよと、もっともらしい事を口にしながらも、ディランも他と変わらず渋い顔だ。
愛と自由の国だからこそ、品行方正を求める。
騎士精神が尊ばれ、他の三国に比べて騎士団の勢力が強い。
地方の街道警備まで騎士を派遣し、国王に次ぐ影響力を騎士団は持っていた。
その精神は、日常生活にそのまま浸透しているのだ。
王都は貿易も盛んで人の出入りも多いため、警邏の騎士が定期に都市内を巡回しているし、主要エリアの街角には槍人形と揶揄される常駐騎士もいる。
落し物・迷子・喧嘩の仲裁……それだけ騎士が身近で市民の安全も保たれているから、流れの傭兵や剣士に向ける市民の目も親密なのだ。
「騎士様か……」
「ああ、王族の近衛隊も王都内の見周りに参加するぐらいだしな」
「まぁ、市井好きの国王陛下も気軽にその辺を内緒で歩いてるからな」
思わず遠い目になる。
あんなものを見本にされてはたまらない。
人間だけを相手にする騎士団と、魔物が中心の流派は本質が違いすぎる。
それに流派の持つ技は威力が大きすぎて、普通の人間相手には使えないのだ。
ミレーヌのお望み通りに動けば騎士団よりも身綺麗になると理解はできた。
近衛騎士や聖戦士も見本にするほどの、清潔な部隊が出来上がることだろう。
ただ、汚い裏仕事も平気な特殊隊を作ろうとしている意向と、かなり違う方向に進んでしまいそうだ。
おそらく国民に未来永劫尊敬してもらえる存在になれるだろうが、行動の幅が狭まるのはいただけない。
そもそも目的が違う。
かといってこれが流派のやり方だとどんどん進めれば、一般市民に受け入れられずえらいことになると実感した。
暮らしを支える人々とつかず離れずでいたからこそ、保たれていた流派の威信がガラガラと崩れ落ち、白い目に囲まれるだけの汚物扱いになるのは避けたい。
自分たちだけではなく、将来にも禍根を残すだろう。
定住の選択は、想像していたよりも大変なことなのだ。
何事もさじ加減が大事。
受け入れられる程度の常識と行動を覚えるしかない。
それが全員の出した答えだった。
まずは掃除だ。
やるべきことは決まっていた。
フンフン♪ と鼻歌がついついこぼれている。
ものすごくご機嫌なのがそれだけでわかった。
残された武人たちは遠ざかる背中を、恐ろしげに見送ることしかできない。
遠くに去ったのを見て、ようやく息をついた。
商店街までは距離があるので、ミレーヌの足だとしばらく帰ってこないだろう。
有意義なショッピングタイムを過ごし、一秒でも長く買い物を楽しんでほしいところだ。
数時間は猶予ができたと思わず顔を見合わせ、ハァ~とため息をもらすことしかできない。
度胸がすわっているのか、鈍いだけなのか。
睨んでも怖い顔で脅してもひるむどころか、のんきな笑顔のままで意味がないとは。
降ってわいた大掃除だけで想定外の強烈な体験だ。
掃除が終わっても次が待っている。
集団生活に必要なルールなど、考えただけで不自由そうだった。
これではメイドや家政婦ではなく、カカア天下の女主人である。
「誰だ? あのお嬢さんをうちにと言いだした奴は? 我々を飼いならす気だぞ。なぜか逆らえん」
ム~ッと青い顔でラクシがうなった。
「キサルだろ? 怖がらないと言ったのは?」
「ラルゴだよな? 面白い女だと言ったぞ?」
それぞれが相手の責任を口にする。
全員が「ちょうどいいんじゃね?」と乗り気で、やめとけとダメだしした者が誰ひとりとしていないのだから、実に不毛な争いである。
「若い娘さんと生活するんだ、東の国なら仕方ないさ」
ただ一人、この国の出身者であるデュランがそう言った。
「下町のお嬢さんに馴染みがあるのは騎士団だけだから、似たようなものだと勘違いしてるんだろうなぁ~王都の騎士は実に品行方正だ」
困ったことは騎士様へ。
それがカナルディア国の常識だった。
騎士団の大半が貴族の子弟か中流以上の商家の子息ばかりで、普段着で歩いていても品があってそれとわかる。
そのうえ下町生まれであっても能力さえあれば準騎士として剣を授かることもあり、実力さえあれば騎士爵も手に入れることもでき、王都カナルは世界的にも珍しい独自の騎士文化を持っていた。
他の市民の感覚もあんなものだよと、もっともらしい事を口にしながらも、ディランも他と変わらず渋い顔だ。
愛と自由の国だからこそ、品行方正を求める。
騎士精神が尊ばれ、他の三国に比べて騎士団の勢力が強い。
地方の街道警備まで騎士を派遣し、国王に次ぐ影響力を騎士団は持っていた。
その精神は、日常生活にそのまま浸透しているのだ。
王都は貿易も盛んで人の出入りも多いため、警邏の騎士が定期に都市内を巡回しているし、主要エリアの街角には槍人形と揶揄される常駐騎士もいる。
落し物・迷子・喧嘩の仲裁……それだけ騎士が身近で市民の安全も保たれているから、流れの傭兵や剣士に向ける市民の目も親密なのだ。
「騎士様か……」
「ああ、王族の近衛隊も王都内の見周りに参加するぐらいだしな」
「まぁ、市井好きの国王陛下も気軽にその辺を内緒で歩いてるからな」
思わず遠い目になる。
あんなものを見本にされてはたまらない。
人間だけを相手にする騎士団と、魔物が中心の流派は本質が違いすぎる。
それに流派の持つ技は威力が大きすぎて、普通の人間相手には使えないのだ。
ミレーヌのお望み通りに動けば騎士団よりも身綺麗になると理解はできた。
近衛騎士や聖戦士も見本にするほどの、清潔な部隊が出来上がることだろう。
ただ、汚い裏仕事も平気な特殊隊を作ろうとしている意向と、かなり違う方向に進んでしまいそうだ。
おそらく国民に未来永劫尊敬してもらえる存在になれるだろうが、行動の幅が狭まるのはいただけない。
そもそも目的が違う。
かといってこれが流派のやり方だとどんどん進めれば、一般市民に受け入れられずえらいことになると実感した。
暮らしを支える人々とつかず離れずでいたからこそ、保たれていた流派の威信がガラガラと崩れ落ち、白い目に囲まれるだけの汚物扱いになるのは避けたい。
自分たちだけではなく、将来にも禍根を残すだろう。
定住の選択は、想像していたよりも大変なことなのだ。
何事もさじ加減が大事。
受け入れられる程度の常識と行動を覚えるしかない。
それが全員の出した答えだった。
まずは掃除だ。
やるべきことは決まっていた。
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