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「英雄のしつけかた」 4章 カッシュ要塞
70. これから本番? 2
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「待たせた」
明るいキサルの声に、ガラルドを足止めしていた四人が手を挙げて応える。
ミレーヌの姿を認め、全員の目が期待に輝いた。
「おお、待ってたぞ」
「ミレーヌ様、ご無事ですか?」
「ずいぶん目立ってたが、怪我はないかい?」
「迎えに来るのが遅くなってしまったね」
そのセリフに、ガッツポーズでミレーヌは応える。
「平気ですわ。ケガもありませんの」
その生気のある表情に、全員がはじけるように笑いだした。
元気だろうと予想はしていたものの、ここまでハツラツとしているとはさすがだ。
普通ならば、あんなところに吊るされただけで涙にくれて、失神してもおかしくないのに。
気丈な朗らかさは好ましかった。
「ミレーヌ様は想像以上にいい女だ」
「実に立派で素晴らしい」
そんなふうに笑いながらも、チラ、と流派の要らしい厳しい視線が少年に移る。
オルランドはサッとミレーヌの背中に隠れた。
ミレーヌもいるせいか表情は温和そうに見せかけていても、目がカケラも笑っていなかったので冷や汗が出た。
どんなにうまく取り繕っても、子供のいたずらで収めてくれない気がする。
やばいぞ、あとで相当ボコボコにやられそうだ。
自分の辿る運命を予想して、スーッと血の気が引いていくのがわかった。
「まぁ、なんてかわいい! そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですわ。ガラルド様以外は、いい見本になってくださるはずだもの」
照れていますのねと、何をどう勘違いしたのかコロコロとミレーヌは笑いだす。
その台詞に、一瞬だけ沈黙が落ちた。
しかし、すぐに大爆笑が起こる。
「そうかそうか、恥かしいのか!」
「小僧は照れ屋さんだ」
「まだまだお子様だってことだな」
バカにされているとわかり、オルランドは赤面した。
ただ、お姉さんのバカ野郎! と思いながらも、この先はやばくなったらミレーヌに保護してもらおうと決めた。
なんだかんだ言いつつ、こいつら全員ミレーヌには甘いと確信する。
ウェルカム、大いなる勘違い。
このコロコロした背中に隠れていれば、痛い目にあわされることはない。
オルランドはここではじめて、ミレーヌに懐かれて良かったと思った。
そんな中、奇妙な現実を認識している男が、たった一人いた。
ガラルドである。
「どうでもいいが、なんだ、それは?」
恐ろしげにフライパンを見つめていた。
「これですか? わたくしの精神安定剤ですの」
ホホホとミレーヌは笑顔で応えた。
柄の部分を握りしめ、思わせぶりにかかげる。
「ガラルド様のお仕事は終わりでしょう? わたくしと一緒に王都まで帰りませんこと?」
ムゥとガラルドはうなった。
ミレーヌは笑顔でいるが、何やら妙に落ち着かず、背がゾクゾクする。
なんだこの妙な感じは、と心が落ち着かない。
「ああ、もう一つあるから、ちょっと待ってろ」
当たり前に言って、要塞を見る。
表情だけで、ガラルドが何をするつもりかハッキリした。
やっぱりまだ言うのか、と皆が肩を落とした。
「だから、やめろって」
「お前、耳がないのか?」
「いいか文化財なんだぞ?」
「それだけじゃない。近隣からも盗難届がたくさん出ているから、中を調べて盗品は持ち主に返さないといけないんだ」
「サリ殿にもまともな行動を教えてもらっているのに、どうして曲解するんだ?」
「うるさい奴らだな~見ろ。ここにちゃんと許可証も発行してもらったんだから大丈夫だ。お前らの言う、面倒な手続きも済ませている」
コンコンとそれぞれから説教されても、ガラルドは耳をいじるだけだった。
ピラッと懐から出した紙を広げた。
どんなもんだいとばかりに見せるので、目が悪いのかと全員に突っ込まれた。
「よく読めよ! 非常事態に限ると赤字で付け足してあるだろうが!」
「もう終わったんだぞ!」
当然ながら、できるだけ保護に努めるの一文にも、アンダーラインがひいてあった。
「騎士団に捕えた奴を引き渡せば、この件は問題なく無事に終了なんだぞ」
このままUターンしてくれと全員で言った。
フン、とガラルドは鼻で笑った。
「バカか、これはすでに非常事態だ」
「バカはどっちだ」
頭を抱えそうだった。
討伐そのものよりもガラルドはたちが悪い。
五人の苦悩を思い、これは徹底的にこらしめなくてはと、ミレーヌはふうっと息をついた。
ここにいないが、サリにも後で頼んで徹底的に説教してもらおうと、そう決めた。
そのためにも、ガラルドを砦から追い払わなくてはならない。
自宅へ帰れと忠告しても、他人の意見に従うことが少ないから、簡単にうなずくまい。
ミレーヌはできるだけ穏やかな笑顔を作った。
明るいキサルの声に、ガラルドを足止めしていた四人が手を挙げて応える。
ミレーヌの姿を認め、全員の目が期待に輝いた。
「おお、待ってたぞ」
「ミレーヌ様、ご無事ですか?」
「ずいぶん目立ってたが、怪我はないかい?」
「迎えに来るのが遅くなってしまったね」
そのセリフに、ガッツポーズでミレーヌは応える。
「平気ですわ。ケガもありませんの」
その生気のある表情に、全員がはじけるように笑いだした。
元気だろうと予想はしていたものの、ここまでハツラツとしているとはさすがだ。
普通ならば、あんなところに吊るされただけで涙にくれて、失神してもおかしくないのに。
気丈な朗らかさは好ましかった。
「ミレーヌ様は想像以上にいい女だ」
「実に立派で素晴らしい」
そんなふうに笑いながらも、チラ、と流派の要らしい厳しい視線が少年に移る。
オルランドはサッとミレーヌの背中に隠れた。
ミレーヌもいるせいか表情は温和そうに見せかけていても、目がカケラも笑っていなかったので冷や汗が出た。
どんなにうまく取り繕っても、子供のいたずらで収めてくれない気がする。
やばいぞ、あとで相当ボコボコにやられそうだ。
自分の辿る運命を予想して、スーッと血の気が引いていくのがわかった。
「まぁ、なんてかわいい! そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですわ。ガラルド様以外は、いい見本になってくださるはずだもの」
照れていますのねと、何をどう勘違いしたのかコロコロとミレーヌは笑いだす。
その台詞に、一瞬だけ沈黙が落ちた。
しかし、すぐに大爆笑が起こる。
「そうかそうか、恥かしいのか!」
「小僧は照れ屋さんだ」
「まだまだお子様だってことだな」
バカにされているとわかり、オルランドは赤面した。
ただ、お姉さんのバカ野郎! と思いながらも、この先はやばくなったらミレーヌに保護してもらおうと決めた。
なんだかんだ言いつつ、こいつら全員ミレーヌには甘いと確信する。
ウェルカム、大いなる勘違い。
このコロコロした背中に隠れていれば、痛い目にあわされることはない。
オルランドはここではじめて、ミレーヌに懐かれて良かったと思った。
そんな中、奇妙な現実を認識している男が、たった一人いた。
ガラルドである。
「どうでもいいが、なんだ、それは?」
恐ろしげにフライパンを見つめていた。
「これですか? わたくしの精神安定剤ですの」
ホホホとミレーヌは笑顔で応えた。
柄の部分を握りしめ、思わせぶりにかかげる。
「ガラルド様のお仕事は終わりでしょう? わたくしと一緒に王都まで帰りませんこと?」
ムゥとガラルドはうなった。
ミレーヌは笑顔でいるが、何やら妙に落ち着かず、背がゾクゾクする。
なんだこの妙な感じは、と心が落ち着かない。
「ああ、もう一つあるから、ちょっと待ってろ」
当たり前に言って、要塞を見る。
表情だけで、ガラルドが何をするつもりかハッキリした。
やっぱりまだ言うのか、と皆が肩を落とした。
「だから、やめろって」
「お前、耳がないのか?」
「いいか文化財なんだぞ?」
「それだけじゃない。近隣からも盗難届がたくさん出ているから、中を調べて盗品は持ち主に返さないといけないんだ」
「サリ殿にもまともな行動を教えてもらっているのに、どうして曲解するんだ?」
「うるさい奴らだな~見ろ。ここにちゃんと許可証も発行してもらったんだから大丈夫だ。お前らの言う、面倒な手続きも済ませている」
コンコンとそれぞれから説教されても、ガラルドは耳をいじるだけだった。
ピラッと懐から出した紙を広げた。
どんなもんだいとばかりに見せるので、目が悪いのかと全員に突っ込まれた。
「よく読めよ! 非常事態に限ると赤字で付け足してあるだろうが!」
「もう終わったんだぞ!」
当然ながら、できるだけ保護に努めるの一文にも、アンダーラインがひいてあった。
「騎士団に捕えた奴を引き渡せば、この件は問題なく無事に終了なんだぞ」
このままUターンしてくれと全員で言った。
フン、とガラルドは鼻で笑った。
「バカか、これはすでに非常事態だ」
「バカはどっちだ」
頭を抱えそうだった。
討伐そのものよりもガラルドはたちが悪い。
五人の苦悩を思い、これは徹底的にこらしめなくてはと、ミレーヌはふうっと息をついた。
ここにいないが、サリにも後で頼んで徹底的に説教してもらおうと、そう決めた。
そのためにも、ガラルドを砦から追い払わなくてはならない。
自宅へ帰れと忠告しても、他人の意見に従うことが少ないから、簡単にうなずくまい。
ミレーヌはできるだけ穏やかな笑顔を作った。
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