風と狼

真朱マロ

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そのなな  衝突

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 森を抜け、山を越え、野を走る。
 ルヴァの姿は宿場では目立つので、街道ではなく野山を選ぶ。
 補給の回数を減らすため、人と馬だけでなく、ルヴァも小さな背鞄を背負っている。

 ソルの隊が育てた馬は、幸いなことに悪路にも強かった。
 領地を出ても馬の乗り継ぎが上手くいき、予定より二日ほど早く王都にたどり着きそうだ。
 ただ、好天の日も多かったので移動にはちょうど良くても、鳩を飛ばすには最適なので気も急いた。
 
 最後の乗り換え予定になる宿が近づいた。
 ソルと騎士は森に身を潜め、シャナとルヴァは風上から馬小屋に忍び寄る。
 身を隠し様子を伺えば、馬が落ち着きなくいななき始めた。
 ルヴァの匂いで怯えるのは、ソルの隊が用意した馬ではない。

 中の人に気付かれる前に、一行はその場を離れた。
 疲れの見える馬を気遣いながらも、刺客の手が迫るのを感じて、先を急いだ。
 
 王都が近づけば、それだけ身を隠せる場所も減った。
 軽く睡眠はとったが、ひたすら移動に専念する。
 最後の森を抜けて進めば、遠くに王都を囲む塀が見える位置までたどり着いた。

 通行門まで、あと少しの距離だ。
 最後の正念場である。

 この先は見晴らしの良い平原だけで、人は街道を通るしかない。
 早朝なので人影はなく、通りすがりの商隊にまぎれることもできない。

 旅人に擬態するには、いささか厳しい四人だった。
 絹の服より目立たないが、森の装備は辺境の村のもので、旅人と呼ぶには違和感がありすぎる。
 おまけにマントで顔を隠し、フードを深くかぶっていた。

 一目で訳ありとわかるが、いたしかたない。
 気は焦るが、疲れの見える馬を気遣って、並足で進ませた。
 ルヴァは犬の顔で横にいたが、しばらくして低くうなる。
 一瞬で変わる気配に、襲撃を知った。
 
「シャナ! ルヴァと行け!」

 ソルの叫びと同時に、シャナは短刀を抜き放ち、馬に括り付けていた荷の紐を切り落とす。
 次いで、ルヴァが警戒の唸りを向ける先。敵がいると思われる場所に向けて、短弓で矢を連続で放ちながら、刺客を牽制しながら離脱し、先行する。
 身軽になった単騎と一頭は、全速で街道を駆け、見る間に遠ざかっていく。
 
 現れた無頼漢は五騎で、冒険を生業にする者のいでたちをしていた。
 疲れ切った馬を全速で駆けさせても、すぐに追いつかれてしまうだろう。
 敵に囲まれる前に剣を抜き、ソルたちから襲うように切りかかった。

 覆面で顔を隠しても、修練を重ねた綺麗な剣筋は騎士のものだ。
 襲撃者に選ばれただけあって強かったが、ソルが連れている二人も精鋭である。

 数でこそ不利だが、やすやすと討ち取られはしない。
 なにより、救援が来るまで持ちこたえれば、ソルたちの勝ちだ。

 ただ、疲れた体に、襲撃者たちの剣は重い。
 切り結び、はじき返し、隙を突く事を繰り返せば、見えない疲労が蓄積していく。
 ソルを守護する二人の騎士も、逃避行の疲れが見え長期戦は難しいだろう。
 先行したシャナを信じて、三人は剣を振るっていた。

「愚か者どもめ! 私が死ねば、印璽の在処は永遠にわからぬと知れ」

 その言葉に、襲撃者たちはたじろいだ。
 領主着任には必須の品なので、印璽はソルの手にあるはずだった。
 継承される印璽がなければ、領土は国に返還されるだけとなる。

 動揺を誘っているのか、真実なのか、言葉だけでは判断できない。

「どこにやった!?」
「知るのは私のみ。簒奪が叶うと思うな!」

 鈍った剣筋に、殺意の濁りを感じた。
 圧倒的な不利の中でも付け入る隙が生まれ、ソルは不敵に笑うのだった。
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