クズ石好きのオルタ ~ 魔導技師奇譚 ~

真朱マロ

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クズ石好きのオルタ

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 それは、王都の次に大きな都市の近く。
 人里から少し離れた森の奥に、小さな家が一軒あった。
 道もないその家に、二人の男が訪れたのは夕刻である。
 
「お客様? 工房では販売いたしませんので、明日、都市の中にあるお店に来ていただけますか?」

 工房兼務の自宅では販売しないとそっけない少女の言葉に、男たちは顔を見合せた。
 長い前髪で顔立ちが隠れているが、どう見ても10代後半だから求める者ではない。

「急ぎの用だから、人形師のオルタ殿に会いたいのだが」
「要件は直接話すが、オルタ殿が好む魔石も集めてきたし、金もこれだけある」

 懐から重たげな革袋を二つ取り出して見せながら「取り次いでくれ」と強く訴えた。
 立ち振る舞いが庶民のそれでなく、旅の装備も仕立てが良いもので、断られるとみじんも思っていないその態度に、少女は胡乱な目を向けたが結局のところ大きく扉を開けた。

「おばば様、この二人が欲しいものをくれるって」

 部屋の奥。大きなテーブル越しに、ローブを着た老婆がうっそりと座っていた。
 テーブルの上には作業中の人形が無数にある。

「そりゃぁいい。で、お二人さん。あたしにどんな用だい?」

 少女の後ろをついて歩いていたものの、壁の棚や床や椅子の上にある膨大な人形たちに、ひるんだのか男たちは息を飲む。
 ただ、抱き人形は二つ三つあるだけで、そのほとんどが指人形のような小さなサイズであることに、にぃっと口元を釣り上げた。
 思った通り、オルタの人形は小さなものばかりで、大きな力を感じない。

 ヨボヨボの老人でも魔導人形師なら高値で売れるし、ここにある人形も売れば一財産になる。
 心の中で「バカな、ばぁさんだ」と嘲りながら、懐に手を入れる。
 訳アリの貴族然とした風貌も演技で、常習の手口だった。
 
「実は、我々の主人がご息女のための人形を所望しております。報酬はここに、この通り」

 丁寧な物言いで懐の革袋を出すと見せかけ、刹那。
 素早い動きで腕を振れば、放たれた銀が一筋の光を残し、トスッと老婆の肩に刺さった。
 短刀の先には即効性の高い睡眠薬が塗り込んである。
 次は案内をしていた少女だと眼差しで探しかけ、すぐに驚愕に目を見開いた。
 左肩の短刀を気にかけることもなく、老婆が立ち上がったのである。

 ――― コーディコーディ 宵闇に沈む銀塊 悠久に眠る凍海

 薄い唇から紡がれる呪文に、男たちは腰の剣を抜いた。
 大きな力を使うほど長い呪文が必要である。
 魔導が完成する前に殺れば問題ない。
 そう判断したのは、あながち間違いではない。
 
 剣を振り下ろせば、コロリと老婆の首が床に転がった。
 驚くほど簡単に首は落ちたけれど、その口元から零れ落ちる呪文は途切れない。
 ギョッとして落ちた頭部に剣を突き立てようとするが、ガチリと嫌な音を立てて剣先が欠けた。
 
 思わぬ事態に混乱して逃げようとしたが、そこでようやく気付いた。
 足が床に張り付いて動くことができず、つま先からじわじわと凍っていく。
 小さく悲鳴を上げ、足の動きを封じる氷を剣で叩き壊そうとしたが、刃を取り込みながら氷結は進んでいく。
 
 そして、想定外の声が老婆の声に追随する。
 壁から、椅子から、床から、放たれる声は増えていく。
 ついさっきまでクタリと並んでいた人形たちが立ち上がり、目が怪しい光を放ちながら男たちを見ていることに、ようやく気が付いた。
 カクカクと、パクパクと、小さな口が動くたびに、平坦な呪文が一部の乱れもなくつながっていく。
 ひぃっと引きつる悲鳴を上げて、やみくもに剣で人形を叩き斬っていくが、壊れても欠けても人形の声は止まらない。
 
 いつしか別の呪文も入り交り、複数の魔導が発動し始めていることに、ようやく気付く。
 凍結・時間停止・状態保存……小さな人形の口からあふれ出る呪文は、グワングワンと空気が揺れるほどに、無限の広がりを見せながら男たちの体へと収束していった。

「大きいものほど威力も多くなるのは確かだけど。小さければ小さいほど、異種連結がたやすいのよ。愚かねぇ」

 凍り付く身体をうごめかせながら必死に助けを叫ぶ男二人を、さげすむように見るのは、最初に案内をした少女である。
 前髪をかき上げ、あらわになった相貌には、年齢不詳の美しさがあった。
 顔を隠している時は、おどおどした態度と肌の美しさから十代と予想されたが、こうして顔を見ると二十代後半にしか見えない。

 もともと「魔導人形師のオルタ」は、個人の名前ではない。
 異種魔法の連結に美しさを見出し、異種魔導の融合技術を磨き継承した者が引き継ぐ名前だ。

 オルタの作る人形は、どれも小さい。
 ひとつずつの力は小さくとも、数十、数百も集まればどうなるか。
 そして小さな魔導も、複数組み合わせたらどうなるか。
 それを知らないものは「クズ石好き」とさげすむが、その真理に触れた者は「クズ石好きのオルタ」と恐れと尊敬を込めて呼ぶ。
 大きな力同士がぶつかれば反発も大きくなるけれど、小さい力同士は抵抗なく融合する不思議の技を、誇りを持ってオルタは継承している。

 そのため技術を狙う者も多く「人形師のオルタ」は代々「おばば様」のようなダミー人形を表に出し、オルタ自身は不出来な弟子の顔をして裏方に徹していた。
 今世のオルタも少女にしか見えない外見だが、年齢不詳を専売特許とする魔術師の一員なので、とっくに成人を越えていている。
 そして、オルタの名前を引き継いでからも、それなりに年数を経ていた。
  
「因業の深い新鮮な材料が欲しかったから、ちょうど良かったわ」

 氷柱と化した不埒な男たちの絶望に満ちた顔に、オルガはうっそりと笑った。
 鮮度の良い材料が手に入ったので、人形以外の物も作れそうだ。

 本来、魔法使いは国にも組織にも続さないが、人間社会に属す人形師なら勝手は出来ない。
 都市の中なら法律にのっとって犯罪者は警邏隊に突き出す義務があるが、魔法使いのテリトリーである森の中には森独自のルールがある。
 なにより魔法使いの自宅は魔法使いの領分なので、不埒者は例え大国の王であろう自由に扱う権利があるのだ。

 呪文や刻印を利用する魔導と違い、感覚がモノを言う魔法は触媒の性質で結果も大きく変わるので、こうしてこの世から消えても誰も悲しまない血の匂いがプンプンする材料が手に入るなど、今日のオルタは本当に運が良かった。

「ふふふ、人形だけに使うのはもったいないわね。今度は何をつくろうかしら」

 工房の奥にある倉庫へと氷柱を運ぶ人形たちの後ろを、弾むような足取りでついていきながら、少女は微笑みながら構想を重ねていく。
 薬にしても良いし、道具にしても良いし、一番好きなのは人形だからおばば様の対にロマンスグレーを並べるのも良い。
 あれこれと考えるだけで当分楽しめそうだと、オルタは幸せな気持ちになる。
 こうして凍り付いて絶命した男たちは、自らの運命を知ることもなく、この世界から消えていった。

 魔法使いであり、魔導師でもあり、人形師でもあるオルタ。
 次代を担うの弟子を、ただいま募集中である。
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