兎と猛獣 ~ 月の綺麗な夜でした ~

真朱マロ

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おまけのおまけ

おまけ 第二王子殿下との別れ(AIイラスト付き

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 ツイッタさんでちょこっと話したエピソードを少し荒書き。

 毒を盛られた第二王子が、王子宮に放置され、火を放たれた際。
 炎に飛び込んで助けて神の手のところに運んだのはローさん。


*****

 赤い炎が空まで舐める大きな魔物のようにうごめいていた。
 それほど大きくない王子宮は炎に包まれ、ゆっくりと崩れていく。
 止める声を聞いた気もしたが、礫のように降り注ぐ瓦礫と炎の中に走り込んだ。

 居場所はわかる。
 どうせ燃え落ちるだけの瓦礫の城だ。
 右手の槍で壁も突き穿ち、落ちてくる梁や天井も跳ね飛ばしながら、真直ぐに突き進む。

 おかしいと思ったのだ。
 簡単な討伐依頼を王から受けたからと、片道半日はかかる場所に追いやられるなど。
 王宮に入れない護衛の俺だけでなく、背後霊のようにピッタリ張り付いている側仕えまでお使いと称した用事を頼み、巻き込まれないように遠ざけるのはバカのすることだ。
 兄である王太子にずっと命を狙われているのに、身一つで王宮にノコノコと出向くなど正気の沙汰ではない。

 イヤな予感がして首の後ろがチリチリするから、依頼を完遂させてすぐに飛んで帰ってきたら、第二王子が毒を盛られて燃え落ちる離宮に放置されたと聞いた。

 長く住んでいた王子宮は燃え落ちる寸前だった。
 だが、生きている。まだ生きている。
 命の光が見えるから、死なせはしない。

 宮の奥深く。
 自室の寝具の上で青白くなっている王子を見つけて、すぐさま背中に担ぐ。
 踊るような激しい炎はすぐそこまで迫っている。
 どちらにせよ、王子宮の周りは王太子直属の近衛騎士団に囲まれているだろう。 

 立ちふさがる者すべてをぶち殺してやる。
 膨れ上がる殺意に、槍をつかむ手にも力がこもる。
 荒れ狂う感情そのままに膨れ上がる魔力を、そっと抑える声がした。冷たく細い指が魔法陣を描き出す。

「バカな子だね。私の死は予定調和だったのに、台無しにするんだから。君を従属させた私への最高の意趣返しだ。君の魔力を借りて、転移するよ」

 力のない身体を背負いなおし、描き出される魔法陣に魔力を同調させる。
 かすれた声が、淡く笑って告げる。

「行き先は君が決めていい」

 それならば、行き先はひとつ。
 神の手のいる場所だ。
 居場所は知らないけれど、この愚かな王子を救える唯一の人物を強く思う。
 彼に無理ならば、世界中の他の誰にも救えない。

 願う。魔法が理屈を超えた神秘を成し遂げるのは、想いの強さだと誰かが言っていた。
 神の手の元に、こいつを運ぶ。

 そして、その願いは正しく叶えられた。
 炎に王子宮が崩れ落ちるよりも早く、二人の身体を神の手の元に運んだ。

 魔法陣が突然目の前に現れた青年二人に、驚きに目を見開いた老人はそれでも悲鳴を上げなかった。
 唐突に現れた二人を観察する老人に、ただ深く頭を下げる。

「神の手の力を貸してくれ。コイツが死ぬのは今じゃねぇ。少しでも長く生かしてくれ。必要な時がきたら、アンタの一番大事な者を護ってやる」
「ほぅ? 王侯貴族は金で横っ面を殴って我儘言い出すもんだと思っていたが、面白い事を言うなぁ」
「あんたはそんなもんじゃ動かねぇ事ぐらい、俺でもわかる。言っとくが、護衛は得意だ。俺は強ぇぞ」
「そんなに大事かね?」
「おうよ。こいつを殺すのは俺だからな。早々にくたばっちまわれると困るんだよ」

 その言い草に目を見開き、老人は声を上げて笑い出した。
 そして、うなずく。

「寿命ばかりはどうしようもないが、もうちょっとばかり生きてもらおうかね」

******

 たぶん、こんな感じ。
 神の手によって、第二王子は一か月ほど命を長らえます。
 そして、この療養の最中に、ロー・ウェンの名前や身分証明書や出征証明を第二王子から渡されます。
 従属から解放した時のために、ローさんのための名前や諸々は、ずっと用意してありました。用意周到な王子様でした。
 そしてこの時の取引が、数年後のミントの護衛に繋がるのです。

 私の中ではこんな感じです。
 そして、第二王子の名前はまだない。






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