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12 私もいつか、ショパンとか?
しおりを挟むお兄ちゃんのお友達のシンイチ先生に、二回もピアノを教えてもらっちゃった!
「すごい!」って、たくさんほめてくれた。
お母さんは間違えた時だけ注意するから煩い。でも、すごく応援してくれているのもわかる。お兄ちゃんも。
お兄ちゃんは、もともとシンイチ先生のことを友達として気に入っていたし、家が学校よりずっと向こうだから、学校以外で仲良くなる機会がなかったって言ってた。
四年生でクラブが始まって、二人で読書クラブに入ったのが、仲良くなったきっかけみたいだった。
ピアノのコンサートでも会った。コンサートなんて初めてだった。暗いところで長いこと静かにしていなければならないのは面白くないし退屈だったけど、高田先生の次に弾いた、先生の先生のドレスはすごくキレイだった!あんなに、いろんな音がたくさん!ピアニストって素敵かも!私はもっとピアノを弾いてみたくなった。ピアノのレッスンに行くのが、前よりも楽しみになったし、お母さんも練習につきあってくれた。
夏休みになる前の日に、お兄ちゃんがお友達を連れて来た日の、あの時の気持ちが忘れられない。高田先生の先生のピアノを聴いた時と同じ、それよりもっとかも。
ピアノが上手くて、格好よかった。お兄ちゃんと同じ小学校の制服姿なのに、年上に感じた。
「私にピアノを教えて」
勇気を出してそう言ってみたら、教えてくれた。
バイエルの楽譜の読み方からはじまり、シンイチ先生が歌って弾いて、優しく教えてくれた。シンイチ先生が弾くとすごく簡単そうなのに、自分では出来ていないことがいやだった。なのに、シンイチ先生が言ったとおりにやってみたら、あれだけできなかったことが、一回で完璧にできた。
夏休みで、ピアノを弾く時間がたくさん増えた。また教えてもらいたい。
あれから数日後、皆で楽器店に行くことになった。
お兄ちゃんが、お母さんにモーツァルトのCDが欲しいと言ったからだ。ピーマンに聴かせるとか何とか、意味不明。
でも、お兄ちゃんがお母さんに何か買ってほしいなんて珍しい。お母さんは、お兄ちゃんがほしいものがあると、すぐに買いに行くんだから。ずるい!ついて行って、私も何か買ってもらおうっと。
楽器店には、夏休みだからか、思ったよりたくさんの人がいた。
何がどこにあるのかもわからない。
お母さんは店員さんに聞いて、モーツァルトのCDが売っているところに案内してもらった。モーツァルトはたくさんあった。お兄ちゃんは迷いもせずに『ピアノソナタ11番』が入っているものを選んだ。
「他にはいいの?」
お母さんはお兄ちゃんに聞いた。
「うん。あんまり知らないし、これ聴いてから、今度シンイチにおすすめを聞いてみる」
お店の中をうろうろしていた私は、横の棚にあった『バイエル』のCDを見つけた。
「お母さんお母さん!私もこれ買って!」
お母さんは、お兄ちゃんが選んだCDと私の『バイエル』を買ってくれることになった。
楽譜のコーナーには、夏休みの子供向けコーナーがあった。『バイエルでも弾ける!』と書かれた楽譜が何冊もある。
「美桜も、こういうの弾けるのかしら」
お母さんが手に取って、パラパラと楽譜をめくった。童謡、アニメの曲、クラシック、いろいろあった。題名を見ても、よくわからない。
「美桜、やってみる?欲しかったら買ってあげるわよ」
「やってみる!」
私は表紙の絵が子供っぽくない楽譜を選んだ。『バイエルでも弾ける!やさしいクラシック』と書いてある。動物の絵とかじゃない、パステルカラーの綺麗な表紙。持っているだけでもいい気分になりそう。
さらにうろうろしていたら、ドリルや問題集もあった。ピアノにもドリルがあるんだ。線をなぞったりつないだりする、子供っぽいものもあったけど、私が今やっていることにぴったりなのがいくつもあった。
「ねえお母さん、こういうのもやりたい!」
「あら、そういうのもあるのね。いいわよ」
お母さんは、それを何冊も買ってくれた。レジの前にあった、ト音記号の絵が書かれた鉛筆や消しゴム、メモ帳もたくさん買ってくれた。勉強するのが楽しみになった。
楽器店で買い物をした後、気がついたら周りにはドレスを着た小さな子供達がたくさんいた。
「発表会にご参加の生徒さんは、こちらにお集まりください」
店員さんがそう言うと、ドレスを着た子供と、そのお母さん達が皆そちらに行った。
お母さんが、
「何かあるんですか?」
と他の店員さんに聞いた。
「はい。これからこの地下のホールで教室の発表会があります。午前中から開催されておりまして、今集合したのは第三部の生徒さんです。お嬢様くらいの学年の生徒さんは……第四部で、14時からになります。ぜひお聴きください」
こんな小さい子達がピアノを弾くんだ!
「お母さん、聞いてみたい!小さい子のも聴く!」
「そう?行ってみましょうか?タケルも行く?」
「僕はいいよ。帰ってCD聴くから」
「わかったわ。お土産買って帰るわね」
お兄ちゃんは自分のCDだけじゃなくて、お母さんが持っていたものを全部持って帰ってくれた。
「お兄ちゃん、やっさしい!」
「ほとんど美桜のじゃないか。ちゃんとやれよ?」
「帰ったらやるもーん!」
私はお母さんと地下のホールに行ってみた。後ろの方の座席に並んで座れた。涼しくて気持ちいい。小さな子供達がかわいいドレスを着てピアノを弾いていた。かわいらしい曲ばかりだ。皆に拍手されて、ピアノを弾いて、お辞儀をして帰っていく。
「美桜もこういうのあったらよかった?高田先生、まだ学生さんだったしね。音楽教室に入ったら発表会に出られたのかしら」
「ううん別に」
私はどっちでもよかった。
第四部が始まった。確かに、この子達は私と同じくらいだった。ドレスの雰囲気も子供っぽくなくて素敵!弾いている曲も素敵だった。この子達は今、バイエルの何番くらいなんだろう。私と同じくらいなのかな、うーん、ちょっと先か、だいぶ先か……。
第四部の最後の数人が上手だった。でも、私より一つ上のシンイチ先生くらい上手な人は全然いなかった。シンイチ先生は全然違った!
第四部の最後に、講師演奏があった。この人は大人で、ピアノの先生か…………。素敵なドレスだった。
プログラムには、ショパン作曲『スケルツォ2番』と書かれていた。
ふうん、ショパンね。ショパンという名前は聞いたことがある。音楽室の壁に絵があったような。写真かな?なんだっけ。
あ、先生だなと思う演奏だった。かっこよくて、流れるような、激しさもある、そんな曲だった。
私もピアノを練習して上手になって、またシンイチ先生にほめてもらいたいなって、そんなことをぼんやりと考えていた。
シンイチ先生に会いたいな…………。
優しくて、私に笑ってくれた…………。
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