異世界にお引越し! - 訳あり物件でした -

でもん

文字の大きさ
3 / 78
第1章 引越先は訳ありでした

3.扉の向こう

しおりを挟む
気を取り直して……

「ミント、よくやった。これで中の安全性は確認できたと思うが、そもそも光の先はどうなっている?」
「すぐそこに、部屋があるよ?」
「部屋?」
「そう。今までみたいにエレベーターの前じゃなくて部屋になっていたよ」

 1つのエレベータに各フロア2戸という贅沢な作りのため、玄関を出ると、そこはエレベータと、お隣さんの玄関があるはずなのだが、想定通り、それは無いようだ。そのままどこかに転送されるのかとも思っていたが、まだ屋内とは思わなかった。

「ありがとう。グッドジョブだ!」

 次は俺自身で確認する番だ。

「お父さん、行ってくる。とりあえずユイカはここで待っていてくれ。あと、念のため命綱代わりにバスタオルを持って出るので、合図したらお父さんの事、引っ張ってくれ」
「オッケー」

 娘はホッペの所でOKマークを作り、バスタオルの反対側を持ってくれた。

「ひとえ、浩太、ちょっと行ってくる。心配しないで待っていてくれ」
「「はーい、いってらっしゃーい」」

 仕事に行く時と変わらないくらいの普段通りの返事が来る。
 自分の心情としては、最悪、死ぬかもしれないくらいの覚悟を持って挑もうとしているのだが、すでにミントが出入りしているので、家族の反応はイマイチ。妻も息子もリビングから出てこない。俺だけなのかな……真剣に異世界にビビってるの。

「じゃあ、逝ってくる!」

 言葉に別の意味も込めて、光の中にそっと右足を入れる。
 光の先に地面がある事を確認し、そのままゆっくり上半身を差し入れる。顔が通る瞬間、緊張と恐怖を抑え込むために気合を入れる。

「うおりゃー! ……あれ」

 頭を入れた瞬間も、虹色の光は何の抵抗もなく、ミントが言っていた部屋が視界に入る。視界の先には丸太で組まれた長方形の薄暗い部屋。体を出している場所はドアの大きさに、玄関と同じような虹色の光があり、部屋の中では、この明かりが唯一の光源。ちょうど反対側に木の扉があるが、窓は無い。現在、左足だけを玄関に残し、残りは異世界へ。頭を出したり、入れたり……虹色の光には厚みがなく、すぐそこがもう一つの部屋になっていた。

 3LDKの我が家が4LDKに上位互換。わーい。

「とりあえず、この中は大丈夫そう。ミントの言うとおり部屋があったよ。あと、ドアがあったのでもう少し先まで確認してみるので、ちょっと待ってて」

 そう家族に声をかけ、薄暗い部屋へ戻り、反対側のドアに手をかける。扉は外に開くようになっていた。俺は、恐る恐る……まずは数センチ、ドアを開ける。部屋の中に外の光が差し込む。目が慣れるのを待って、隙間から外を覗く。足元は白い石畳、その先に見える景色は背の低い雑草と青い空。見えている範囲では情報が少ない。もう少しだけ隙間を広げ、ゆっくりと頭を出して辺りを見回す。

 どうやら、俺がいるのは、細長い稜線の上のようだ。目の前の石畳は、すぐ先で階段となって下の方へ続いている。その両脇は崖だ。階段の幅は自動車が通れるくらいあるので、ふざけたりしない限り落ちる心配は無いだろう。

 安全そうなので、思い切って外にでる。

 稜線の右側は海。左側は林になっている。稜線に沿って階段が続いており、先の方で左に緩やかに曲がっておりその先は林の中に入っているように見える。林を抜けた先には、かすかに集落らしき家の影や塀が見える。

「人がいるのか……? 誰かは住んでそうだな」

 振り返ると今出てきたログハウス風の小さな小屋が見える。
 小屋の左右は断崖絶壁。稜線の一番高い部分ギリギリに建てられた小屋のようだ。小屋の大きさは、明らかに今出てきたはずの薄暗い部屋の分しか大きさが無い。本来なら小屋の後ろに家の分の建物が無いといけないのだが、あの虹色の光の向こうはどこかに転移してしまっているのか、不可視の状態になっているのかもしれない。

 そこまで確認して家の中へ戻り、状況を説明する。

「大丈夫そうなら、みんなで行きましょう。ちょっと待ってて、外に出てもいいように着替えるから。あなたも、ユイカも、浩太も着替えなさい。はい、準備する!」

 妻の一言で、子供達も動き出す。
 なんだか、散歩に行くノリだな。一人で緊張していた自分が馬鹿みたいだ……

-----------

 妻と娘が出かける準備をしている間、浩太と二人で、薄暗い部屋の中に、キャンプ道具から電池式のLEDランプを中央に設置し、テーブルと椅子も置いてみた。その後、クローゼットからリュックを出し、リュックの中に懐中電灯、ペットボトルの水、アーミーナイフ十得ナイフ、それに学生の頃に剣道の段審査で利用した小太刀木刀を護身用に詰め込む。

 ついでに俺も、ベランダから感じる外の温度に合わせて、春先くらいの格好でまとめる。冷や汗をかいたので、体を軽く拭き、髭を剃り、歯も磨きました。妻はメイクもばっちり。異世界の住人に出会ったとしても恥ずかしくないね。

「よし、行こうか。ミントは会話ができるし、もうリードはいらないよな?」
「ちゃんと言われた通りに出来るから大丈夫だよ」

 さて、行きますか……
 まさに外に出るドアに手をかけようとした時……

 ドンドンドン!

 外から少し強めのノックの音がした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...