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第2章 フェロル村
12. 傷心
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「わかりました。村へ行きましょう」
村長はホッとした顔をした。
「ただ、昨日のような事で子供達を危険に晒すわけにはいかないので、少しだけ準備をさせてください」
「わかりました。ここでお待ちしております」
皆を促して部屋に戻る。
その後に続いてリリィが入ってくるかと思ったが、ついて来なかったみたいだ。
リビングへ行き、早速家族会議。
「お母さんには昨夜説明したんだけど、村までの道のりでお父さんは2回、魔物に襲われた」
「パパ、大丈夫だったの?」
「ま、魔物って…何?」
ユイカが心配してくれた。
康介はかなり引き気味だな。
「スライムって言って解るかな?」
「ゲームで出てくるザコキャラでしょ?」
「そう、あれ」
この世界の魔物の中でも最低ランクの存在らしいが、人間がそれよりザコな存在なんだよな。
「残念だけど、スライムは強かった。人間では勝てそうも無い。お父さんは昨日、腕が取れかけました」
「スライムにやられて、腕が取れそうって、キモ! でも、今くっついているじゃん?」
スライムにやられたという事で、父親の修羅場に対する評価はダダ下がり……
「大怪我して帰ってきたら、治ってました。理由はわからないけど、この家に戻ると怪我が治るのかも」
「ふーん、ラッキーだね」
「本当にゲームみたい」
実際に怪我の状態を見ていないので、今ひとつ反応が薄いが、本当にスライムは危険なんだって。
「ともかく、この世界の魔物はゲームの世界みたいに簡単に倒せる相手では無いらしい。スライムも大人が40人くらいで怪我をしながら、やっと倒せるって、リリィさんが言っていた」
「うわー、それってやばいね。うち、すぐ死んじゃいそうだよ」
「僕たち、家で待ってちゃいけないの?」
「お父さんも心配だけど、ずっとこの家にいるっていう訳にもいかないしね。思い切って出かけてみようよ」
子供達の心配は、もっともだ。だが、いつかは外に出る事になるし、それなら、家族以外が一緒に行動してリスクを分散できる、このタイミングはいいんじゃ無いかとは思う。
「スライムは外の階段を下りきった後の林の中で出てきたので、林の中を安全に歩けるように準備します。お母さん、子供たち用の自転車と、大人用をもう1台、出せるかな?」
「自転車?わかったわ」
1台ずつ食卓の上に出てくるので、玄関へ運ぶ。
これでさっき出した分も合わせ、4台になった。
「次に、傘。風に強い丈夫な傘を人数分用意しよう。前、テレビで紹介されていた絶対折れない傘がいいな」
妻が黒い傘を4本出す。
これは丈夫そうだ。スライムが当たってきた際の頭や胸などの急所への一撃を凌げるには十分な気がする。
「ダメね……5本目以降は出ないわ」
リリィや村長達の分も用意したかったんだけど、仕方無いか。家族を優先で行こう。
「最後に耐酸性のゴム手袋、それも出来るだけ袖口が長い奴を全員分」
露出してる手の部分をこれで保護したい。
これも気休め程度になるかもしれないが、スライムの消化能力が酸性の消化液だったとすれば無いよりはマシだろう。
「あ、これはうまくいった」
これは3人分が入って1セットというものが4セット出てきた。
基準が解らない。
最後にミント用のレインコートを準備。
「よしこれでいってみよう。完璧じゃないと思うけど、傘をさしながら歩けば、頭の受けから突然襲われるのを1回くらい防げると思う」
不安は拭えないが、村長たちとリリィがいるタイミングで村まで行っておいた方がいいだろう。
「あと、水をお父さんが持つので、もしスライムに触られたら、すぐ水で洗い流す事。ゴム手袋は外さない事。逃る時は、自転車を使って出来るだけここに戻るように」
----------
「お待たせしました。準備が出来ました」
小屋へ顔を出す。リリィが、涙目なのは何でだろう。まぁ、いいか。
そのまま、傘とゴム手袋を装備し、各自で自転車を押しながら小屋の中に移動した。
「な、なんですか、それは?」
「スライム対策です。皆さんの分をご用意出来なかったのが非常に申し訳無いのですが」
「い、いえ、それはいいのですが……随分変わった装備ですね」
まぁ、そうだろ。
「そうですね。私たちの世界の技術で作られている素材もありますし、見慣れないかと思いますが、お気になさらずに」
気になるだろうが、説明をしたく無い。
何に使うものなのかは説明できるが、どういう構造で、どうやって作るのかなど聞かれても、知らないし。
「あと、その二輪車は乗り物でしょうか?」
「そうです。自転車という乗り物です。あとで乗る所をお見せします。それと、この自転車ですが、妻と子供達の分を下まで下ろすのを手伝っていただけないでしょうか」
村長とルカスに子供達の自転車は任せ、ひとえの分はリリィが手伝ってくれた。
俺の分を持つと、カサルが申し出てくれたが、さすがにお爺ちゃんなので、遠慮した。
「それでは安全第一でお願いします」
----------
ミントは俺の自転車のカゴに乗せ、慎重に歩き出す。
階段の1/10くらいでユイカが文句を言い出した。
1/5くらいで浩太が泣き言を言い始めた。
もう少し、根性見せようよ。
それにしても、現地の方々は体力あるしね。
「お待たせしてばかりで申し訳ありません」
「いえいえ大丈夫ですよ、それでは少し休憩してから出発しましょう」
階段の下にようやく着いた。何度か休み休みだったので、随分遅れてしまった。
「ここからは、自分の自転車は自分で押すように。あと、傘をさして歩く事」
ついでに村長達に傘を使う意図を説明する。
「僕、ここから自転車に乗っちゃダメ?」
「うちも自転車の方がいいな」
「その方が身体が楽だし……」
楽といえばそうなのだが、安全面を考えると避けたほうがいいか。
「それだと、ちゃんと傘が差せないからね。自転車はいざという時の脱出用だよ」
----------
「それじゃ行くよ」
道幅は自動車が通れるくらいあるので、自転車を押しながらでも二人並んで歩ける。そこで、隊列は2列、村長とカサル、ひとえと浩太、俺とユイカ、リリィとルカスという順になった。ミントは引き続き、俺の自転車のカゴの中。
しかし、本当にこの道を使って村と行き来するようになるんだったら、今以上に安全な移動手段を考える必要があるな。家族だけで移動するような場合や、いつか子供達だけで移動するような事も想定していかなければならない。今のままでは、俺一人だけですら、この道を行き来するのは不安が大きい。
緊張しているタナカ家と比べて、村長達の足取りは気負いもなく軽やかだ。
村長とカサルはにこやかに雑談しながら歩いている。
「ルカス、前にちょっと話した事があった、このまま、ここで暮らしたら……って話だけど」
リリィの声が後ろからする。
「今回、任務がこう言う事になったので、中央に行かなければならないし、中央に戻った後はさすがに男爵領に戻らないとならないの」
「そうか、それだとチコが寂しがるなぁ……」
「あ、あなたがどうしても…というなら……」
なんか、恋バナのようだ。
こっちも警戒心薄いな。
俺が過剰に警戒しすぎなんだろうか。
大人力を発揮し、スルーすべきなんだが、ついつい耳をそばだててしまう。
ミントの耳もピンと張っているので、こいつも興味があるようだ。
「ただ、これで俺は落ち着いて生活できるな」
「えっ?」
なんか雲行きの怪しい発言が……
「爺様やオヤジなんかは、働き手として期待していたみたいだけど……」
ん?
「俺はリリィが帰れば、夫婦用に準備していた部屋が空くし、これで延期していた結婚式も出来るし……」
ああ、それ以上、傷を抉らないであげて……
「どっちにしろ、種蒔きが終わったばかりの他人の家の畑を耕しちゃうようなおっちょこちょいじゃ、農業の手伝いは無理じゃねーかって思ってたしな」
「そ、そうね。そうよね。私も任務があるし、農業が正直、向いていないんじゃないかって気はしていたし……うん……その方が……その方が……」
村長はホッとした顔をした。
「ただ、昨日のような事で子供達を危険に晒すわけにはいかないので、少しだけ準備をさせてください」
「わかりました。ここでお待ちしております」
皆を促して部屋に戻る。
その後に続いてリリィが入ってくるかと思ったが、ついて来なかったみたいだ。
リビングへ行き、早速家族会議。
「お母さんには昨夜説明したんだけど、村までの道のりでお父さんは2回、魔物に襲われた」
「パパ、大丈夫だったの?」
「ま、魔物って…何?」
ユイカが心配してくれた。
康介はかなり引き気味だな。
「スライムって言って解るかな?」
「ゲームで出てくるザコキャラでしょ?」
「そう、あれ」
この世界の魔物の中でも最低ランクの存在らしいが、人間がそれよりザコな存在なんだよな。
「残念だけど、スライムは強かった。人間では勝てそうも無い。お父さんは昨日、腕が取れかけました」
「スライムにやられて、腕が取れそうって、キモ! でも、今くっついているじゃん?」
スライムにやられたという事で、父親の修羅場に対する評価はダダ下がり……
「大怪我して帰ってきたら、治ってました。理由はわからないけど、この家に戻ると怪我が治るのかも」
「ふーん、ラッキーだね」
「本当にゲームみたい」
実際に怪我の状態を見ていないので、今ひとつ反応が薄いが、本当にスライムは危険なんだって。
「ともかく、この世界の魔物はゲームの世界みたいに簡単に倒せる相手では無いらしい。スライムも大人が40人くらいで怪我をしながら、やっと倒せるって、リリィさんが言っていた」
「うわー、それってやばいね。うち、すぐ死んじゃいそうだよ」
「僕たち、家で待ってちゃいけないの?」
「お父さんも心配だけど、ずっとこの家にいるっていう訳にもいかないしね。思い切って出かけてみようよ」
子供達の心配は、もっともだ。だが、いつかは外に出る事になるし、それなら、家族以外が一緒に行動してリスクを分散できる、このタイミングはいいんじゃ無いかとは思う。
「スライムは外の階段を下りきった後の林の中で出てきたので、林の中を安全に歩けるように準備します。お母さん、子供たち用の自転車と、大人用をもう1台、出せるかな?」
「自転車?わかったわ」
1台ずつ食卓の上に出てくるので、玄関へ運ぶ。
これでさっき出した分も合わせ、4台になった。
「次に、傘。風に強い丈夫な傘を人数分用意しよう。前、テレビで紹介されていた絶対折れない傘がいいな」
妻が黒い傘を4本出す。
これは丈夫そうだ。スライムが当たってきた際の頭や胸などの急所への一撃を凌げるには十分な気がする。
「ダメね……5本目以降は出ないわ」
リリィや村長達の分も用意したかったんだけど、仕方無いか。家族を優先で行こう。
「最後に耐酸性のゴム手袋、それも出来るだけ袖口が長い奴を全員分」
露出してる手の部分をこれで保護したい。
これも気休め程度になるかもしれないが、スライムの消化能力が酸性の消化液だったとすれば無いよりはマシだろう。
「あ、これはうまくいった」
これは3人分が入って1セットというものが4セット出てきた。
基準が解らない。
最後にミント用のレインコートを準備。
「よしこれでいってみよう。完璧じゃないと思うけど、傘をさしながら歩けば、頭の受けから突然襲われるのを1回くらい防げると思う」
不安は拭えないが、村長たちとリリィがいるタイミングで村まで行っておいた方がいいだろう。
「あと、水をお父さんが持つので、もしスライムに触られたら、すぐ水で洗い流す事。ゴム手袋は外さない事。逃る時は、自転車を使って出来るだけここに戻るように」
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「お待たせしました。準備が出来ました」
小屋へ顔を出す。リリィが、涙目なのは何でだろう。まぁ、いいか。
そのまま、傘とゴム手袋を装備し、各自で自転車を押しながら小屋の中に移動した。
「な、なんですか、それは?」
「スライム対策です。皆さんの分をご用意出来なかったのが非常に申し訳無いのですが」
「い、いえ、それはいいのですが……随分変わった装備ですね」
まぁ、そうだろ。
「そうですね。私たちの世界の技術で作られている素材もありますし、見慣れないかと思いますが、お気になさらずに」
気になるだろうが、説明をしたく無い。
何に使うものなのかは説明できるが、どういう構造で、どうやって作るのかなど聞かれても、知らないし。
「あと、その二輪車は乗り物でしょうか?」
「そうです。自転車という乗り物です。あとで乗る所をお見せします。それと、この自転車ですが、妻と子供達の分を下まで下ろすのを手伝っていただけないでしょうか」
村長とルカスに子供達の自転車は任せ、ひとえの分はリリィが手伝ってくれた。
俺の分を持つと、カサルが申し出てくれたが、さすがにお爺ちゃんなので、遠慮した。
「それでは安全第一でお願いします」
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ミントは俺の自転車のカゴに乗せ、慎重に歩き出す。
階段の1/10くらいでユイカが文句を言い出した。
1/5くらいで浩太が泣き言を言い始めた。
もう少し、根性見せようよ。
それにしても、現地の方々は体力あるしね。
「お待たせしてばかりで申し訳ありません」
「いえいえ大丈夫ですよ、それでは少し休憩してから出発しましょう」
階段の下にようやく着いた。何度か休み休みだったので、随分遅れてしまった。
「ここからは、自分の自転車は自分で押すように。あと、傘をさして歩く事」
ついでに村長達に傘を使う意図を説明する。
「僕、ここから自転車に乗っちゃダメ?」
「うちも自転車の方がいいな」
「その方が身体が楽だし……」
楽といえばそうなのだが、安全面を考えると避けたほうがいいか。
「それだと、ちゃんと傘が差せないからね。自転車はいざという時の脱出用だよ」
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「それじゃ行くよ」
道幅は自動車が通れるくらいあるので、自転車を押しながらでも二人並んで歩ける。そこで、隊列は2列、村長とカサル、ひとえと浩太、俺とユイカ、リリィとルカスという順になった。ミントは引き続き、俺の自転車のカゴの中。
しかし、本当にこの道を使って村と行き来するようになるんだったら、今以上に安全な移動手段を考える必要があるな。家族だけで移動するような場合や、いつか子供達だけで移動するような事も想定していかなければならない。今のままでは、俺一人だけですら、この道を行き来するのは不安が大きい。
緊張しているタナカ家と比べて、村長達の足取りは気負いもなく軽やかだ。
村長とカサルはにこやかに雑談しながら歩いている。
「ルカス、前にちょっと話した事があった、このまま、ここで暮らしたら……って話だけど」
リリィの声が後ろからする。
「今回、任務がこう言う事になったので、中央に行かなければならないし、中央に戻った後はさすがに男爵領に戻らないとならないの」
「そうか、それだとチコが寂しがるなぁ……」
「あ、あなたがどうしても…というなら……」
なんか、恋バナのようだ。
こっちも警戒心薄いな。
俺が過剰に警戒しすぎなんだろうか。
大人力を発揮し、スルーすべきなんだが、ついつい耳をそばだててしまう。
ミントの耳もピンと張っているので、こいつも興味があるようだ。
「ただ、これで俺は落ち着いて生活できるな」
「えっ?」
なんか雲行きの怪しい発言が……
「爺様やオヤジなんかは、働き手として期待していたみたいだけど……」
ん?
「俺はリリィが帰れば、夫婦用に準備していた部屋が空くし、これで延期していた結婚式も出来るし……」
ああ、それ以上、傷を抉らないであげて……
「どっちにしろ、種蒔きが終わったばかりの他人の家の畑を耕しちゃうようなおっちょこちょいじゃ、農業の手伝いは無理じゃねーかって思ってたしな」
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