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第4章 オーレンセ
30. 母娘
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===== Hitoe =====
目を覚ましたユイカに状況を説明した。斬られたカズトをリリィが家まで連れて行った事。私達が、脅されて馬車で王都まで連れて行かれる事を。
そこまで静かに聞いていたユイカが静かに、
「火がついちゃった人は……」
と、聞いてきた。
震えているのが見ていても解る。
「はは、うち、魔法少女だったのかな……」
その乾いた笑いを聞いて、ユイカの心を壊さないように、抱きしめた。
「ママ、熱い?」
背中の痛みは多分、骨折から来るものだろう。熱も出ている、だけど、今はそれよりも……
「ユイカ、よく聞きなさい」
それから、少し体を離し、ユイカから目を逸らさず慎重に言葉を選んだ。
「日本にいたら、考える事なんてほとんどないんだけど……もし、武器を持って他人《ひと》を攻撃しようとするような人は、その相手が武器を持っている事も覚悟しなければならないの。勿論、攻撃をされる人は武器を持たないっていう選択肢もあるわ。でもそれを決めるのは相手であって、最初に武器を持つ方じゃない」
ユイカがじっと私を見つめている。
「そして、もしその武器を使ったのだったら、それは相手からも武器を使われる事も受け入れるって事なの」
まだ、大丈夫。聞いてくれている。
「世界中の人が武器を持たない世界。それが理想なんだろうけど、すぐ隣の人が武器を持っているのに、自分だけ持たないと言うのは、私は勇気とは言わないと思っている。相手がもし勘違いをして、こっちを攻撃したいと思っている時、こちらが、攻撃を返せないとなったら……」
言葉を少し切る。
「私たちは、一方的に攻撃を受けるだけになってしまう」
だから、私は学校を卒業して、護るための仕事を選んだんだ。
「もし、この世界で、武器を持った人がパパやユイカ、浩太を傷つけようとした時、私がそれを防ぐための武器を持っていなかったとしたら、私は後悔すると思う」
護るためには護るための力がどうしても必要になる。
それを使わないという選択肢はあっても、力を持たないという選択肢は、私には無い。
「だから、さっきお母さんは銃を持つ事を選んだの」
それでも、銃を手に取った時の恐れを思い出す。
「そして、実際にリリィが襲われていた時、お母さんは迷わずに撃ったわ。その事がどういう結果になるのかも解っていて」
引き金を引いた感触は今も手にこびりついている。
これは一生忘れないのだろう。
「私はお父さんやリリィを助けるためには仕方なかったんだ……そんな風には考えない。だって、どんな事があっても人を撃つ、この手で人の命を失わせるような事が、仕方なかった、良い事だったで済ませて良いわけは無い……そんな風には思えないから」
だから、私は私が背負わなければならない業を、受け入れる。
「それでも、私はこの先も同じような事があれば、同じようにすると思う」
ユイカの両肩を掴んで、はっきりと言う。
「だから、ママはあなたに、仕方なかったとは言わない。でも、浩太を守ってくれてありがとう」
ユイカは私とは違って、意識した行為ではなかったはずだ。
それでも……
「う、う、うちは……う、わ、わたしは……」
ユイカの目から涙が溢れてくる。
「浩太が……浩太を……お姉ちゃんだから、私がお姉ちゃんだから……」
「うん、ありがとう。ユイカは、ちゃんとお姉ちゃん出来てるよ」
もう一度、ユイカを強く抱きしめる。
ユイカはこの先、自分の手で行った事を業として背負って生きていかなければならない。正しくもなく、間違ってもいなかった事、何度通っても、そのルートを通ってしまうのであれば、まさに、業としか表現出来ない。私達が、突然こんな世界に巻き込まれてしまった私達が、この先、背負い続けなければならない業なんだと思う。
それでも、私の娘なら……私の娘なら、乗り越えてくれる。
===== Yuika =====
ママの話が始まった時から、うちは、うちが火を付けてしまった人が死んだんだって気が付いていた。
ショックだった。
なんで自分の体が赤く光って、その後、相手が燃えてしまったのか……こんな変な世界に来たから、きっと魔法だとは思うんだけど……どうやったかも解らないし……でも、うちがした事で人が死んじゃったんだって事を、どう受け止めればいいのか……よく分からない。
ママの言葉は、わたしに考えろって事なんだろうと思う。だから、ちゃんと考えよう。わたしの力の意味を……
「お姉ちゃん……ねぇ、お姉ちゃん!」
ママの胸で泣き疲れて、うとうとしそうになっていた私に、浩太が声をかけた。
「ん、どうしたの?」
「お母さんの様子がおかしい!」
そういえば、さっき、ママは熱があった。
体を離すと、ママの顔は真っ青になっていて、額に汗を沢山浮かべている。
「浩太、静かに……」
ママが掠れた声で浩太を静かにさせる。
「いい、外の人に気がつかれないようにして」
浩太が、こくりと頷く。
「ユイカ、ちょっと背中を見てくれる?」
痛くて脱げなさそうだったので、わたしも手伝って、ベストを脱がせる。
うわ……
「ママ、背中が……ものすごい紫色になって……」
ママの背中が赤紫色に腫れている!
どうしよう、絶対これ、大怪我だよ! 救急車……は、来ないか。どうしよう、パパを呼ばないと……
「あれ?」
「あら?」
目の前で奇跡? ……が起こった。
突然、ママの背中から、赤紫色の腫れがスーッと消えて、いつもの綺麗な背中に戻ってしまった。
「ママ、治ったよ?」
「治った……わね?」
服を戻し、手をグルグル回してみる。
「ちょっと違和感があるくらいかしら。でも、ほとんど気にならないわね」
えー、どういう事??
===== Hitoe =====
背中の痛みは突然消えた。
「ふふ、なるほどね」
そう、こんな事が出来るのは一人しか心当たりが無い。
リリィが、やってくれたんだ。
「ユイカ、浩太、きっとお父さんは無事よ!」
間違いない。明確な根拠がある訳では無いけど、私は確信していた。
安心した事で緊張の糸が緩んだのか、涙が止まらなくなった。
目を覚ましたユイカに状況を説明した。斬られたカズトをリリィが家まで連れて行った事。私達が、脅されて馬車で王都まで連れて行かれる事を。
そこまで静かに聞いていたユイカが静かに、
「火がついちゃった人は……」
と、聞いてきた。
震えているのが見ていても解る。
「はは、うち、魔法少女だったのかな……」
その乾いた笑いを聞いて、ユイカの心を壊さないように、抱きしめた。
「ママ、熱い?」
背中の痛みは多分、骨折から来るものだろう。熱も出ている、だけど、今はそれよりも……
「ユイカ、よく聞きなさい」
それから、少し体を離し、ユイカから目を逸らさず慎重に言葉を選んだ。
「日本にいたら、考える事なんてほとんどないんだけど……もし、武器を持って他人《ひと》を攻撃しようとするような人は、その相手が武器を持っている事も覚悟しなければならないの。勿論、攻撃をされる人は武器を持たないっていう選択肢もあるわ。でもそれを決めるのは相手であって、最初に武器を持つ方じゃない」
ユイカがじっと私を見つめている。
「そして、もしその武器を使ったのだったら、それは相手からも武器を使われる事も受け入れるって事なの」
まだ、大丈夫。聞いてくれている。
「世界中の人が武器を持たない世界。それが理想なんだろうけど、すぐ隣の人が武器を持っているのに、自分だけ持たないと言うのは、私は勇気とは言わないと思っている。相手がもし勘違いをして、こっちを攻撃したいと思っている時、こちらが、攻撃を返せないとなったら……」
言葉を少し切る。
「私たちは、一方的に攻撃を受けるだけになってしまう」
だから、私は学校を卒業して、護るための仕事を選んだんだ。
「もし、この世界で、武器を持った人がパパやユイカ、浩太を傷つけようとした時、私がそれを防ぐための武器を持っていなかったとしたら、私は後悔すると思う」
護るためには護るための力がどうしても必要になる。
それを使わないという選択肢はあっても、力を持たないという選択肢は、私には無い。
「だから、さっきお母さんは銃を持つ事を選んだの」
それでも、銃を手に取った時の恐れを思い出す。
「そして、実際にリリィが襲われていた時、お母さんは迷わずに撃ったわ。その事がどういう結果になるのかも解っていて」
引き金を引いた感触は今も手にこびりついている。
これは一生忘れないのだろう。
「私はお父さんやリリィを助けるためには仕方なかったんだ……そんな風には考えない。だって、どんな事があっても人を撃つ、この手で人の命を失わせるような事が、仕方なかった、良い事だったで済ませて良いわけは無い……そんな風には思えないから」
だから、私は私が背負わなければならない業を、受け入れる。
「それでも、私はこの先も同じような事があれば、同じようにすると思う」
ユイカの両肩を掴んで、はっきりと言う。
「だから、ママはあなたに、仕方なかったとは言わない。でも、浩太を守ってくれてありがとう」
ユイカは私とは違って、意識した行為ではなかったはずだ。
それでも……
「う、う、うちは……う、わ、わたしは……」
ユイカの目から涙が溢れてくる。
「浩太が……浩太を……お姉ちゃんだから、私がお姉ちゃんだから……」
「うん、ありがとう。ユイカは、ちゃんとお姉ちゃん出来てるよ」
もう一度、ユイカを強く抱きしめる。
ユイカはこの先、自分の手で行った事を業として背負って生きていかなければならない。正しくもなく、間違ってもいなかった事、何度通っても、そのルートを通ってしまうのであれば、まさに、業としか表現出来ない。私達が、突然こんな世界に巻き込まれてしまった私達が、この先、背負い続けなければならない業なんだと思う。
それでも、私の娘なら……私の娘なら、乗り越えてくれる。
===== Yuika =====
ママの話が始まった時から、うちは、うちが火を付けてしまった人が死んだんだって気が付いていた。
ショックだった。
なんで自分の体が赤く光って、その後、相手が燃えてしまったのか……こんな変な世界に来たから、きっと魔法だとは思うんだけど……どうやったかも解らないし……でも、うちがした事で人が死んじゃったんだって事を、どう受け止めればいいのか……よく分からない。
ママの言葉は、わたしに考えろって事なんだろうと思う。だから、ちゃんと考えよう。わたしの力の意味を……
「お姉ちゃん……ねぇ、お姉ちゃん!」
ママの胸で泣き疲れて、うとうとしそうになっていた私に、浩太が声をかけた。
「ん、どうしたの?」
「お母さんの様子がおかしい!」
そういえば、さっき、ママは熱があった。
体を離すと、ママの顔は真っ青になっていて、額に汗を沢山浮かべている。
「浩太、静かに……」
ママが掠れた声で浩太を静かにさせる。
「いい、外の人に気がつかれないようにして」
浩太が、こくりと頷く。
「ユイカ、ちょっと背中を見てくれる?」
痛くて脱げなさそうだったので、わたしも手伝って、ベストを脱がせる。
うわ……
「ママ、背中が……ものすごい紫色になって……」
ママの背中が赤紫色に腫れている!
どうしよう、絶対これ、大怪我だよ! 救急車……は、来ないか。どうしよう、パパを呼ばないと……
「あれ?」
「あら?」
目の前で奇跡? ……が起こった。
突然、ママの背中から、赤紫色の腫れがスーッと消えて、いつもの綺麗な背中に戻ってしまった。
「ママ、治ったよ?」
「治った……わね?」
服を戻し、手をグルグル回してみる。
「ちょっと違和感があるくらいかしら。でも、ほとんど気にならないわね」
えー、どういう事??
===== Hitoe =====
背中の痛みは突然消えた。
「ふふ、なるほどね」
そう、こんな事が出来るのは一人しか心当たりが無い。
リリィが、やってくれたんだ。
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間違いない。明確な根拠がある訳では無いけど、私は確信していた。
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