55 / 78
第5章 王都アルテア
49.落下
しおりを挟む
朝食も上げ膳据え膳の至れり尽くせりだった。「わ・た・し」を付けておいて本当によかったよ。
イネスは、宿屋を出る際、また駅員のような格好に戻って見送ってくれた。状況に合わせて、いろいろと服装を変えているのかな。他の従業員の人は、ラフな格好の人も多いので、イネスの拘りなんだろうか。
「今度はゆっくり来ようね」
「そうだな」
ひとえと2人で顔を見合わせ、「この次」の約束をする。王都へ行き、聖地を確保していき、俺たちはこの世界での生活基盤を確立していけば、そういう機会もあるだろう。そのための、「この次」の約束だ。
サラマンカを出た俺たちは、次の目的地、タランコンへ向かう。
----------
「パパさん! 何か音がする!」
後部座席で浩太とチコに挟まれてノンビリしていたミントが警告を発する。俺は車の速度を緩めて、窓を開け、後ろを走るひとえに呼びかける。
「ひとえ、何かくるかもしれない。警戒してくれ!」
「わかった!」
攻撃を受ければ、確実に撃退可能なのだが、車やバギーが傷つくのは防ぎたい。そう打ち合わせをしていたので、ひとえが、走りながらユイカと運転を代わり、小銃を構える。先制攻撃で退却してもらえれば、それに越した事は無い。神達の言う通りなら、いくら魔物を倒しても経験値と言ったものは入らないので、時間の無駄だ。
「リリィ、浩太、チコ、何か見えたら言ってくれ」
「「「はい!」」」
ミントは聴力での早期警戒網、リリィ達が有視界の範囲で左右後方の警戒に当たってもらう。運転手の俺は、脇見運転を注意しながら、前方警戒。
「ミント、まだ音はするか?」
「車の走る音がうるさいから、はっきりとは解らないけど……」
「お父さん、右側には何もいない」
「タナカ様、左側は何もいません」
「救世主様、後方も同じです」
それぞれが報告してくれるが、何も引っかからない。
「ミント、音は?」
「消えた……かな……あれ……あっ! 来た! 真上!」
ミントの声に全員が上を見上げる。俺からは見えない。リリィが窓から身を乗り出し……
「奥様! 上です!」
後ろを走るひとえに教えるが……
「わー、奥様!!」
え、何が起こった??
バックミラーに映っていたバギーが突如消えた!。
「タナカ様、止まって!」
キキー!
慌てて、フルブレーキをかけてしまったので、少し後輪が滑ったが、何とか止まる。リリィは完全に止まる前に、窓枠に手をかけ外に飛び出し、上空を見上げた。俺も窓から上空を見上げると……
「そんな……」
浩太、リコ、ミントがドアを開けて車の外にでる。
「お母さん……お姉ちゃん……」
俺たちの目には、遥か上空で羽根を広げ飛ぶ、翼竜の姿と、その嘴らしき位置に加えられているバギーらしき影だった。まさにプテラノドンのようなシルエットだ。
「空飛ぶ魔物って、滅多に人里付近には出ないって……」
フェロル村からオーレンセに向かう途中でリリィに聞いていた話を思い出す。
「お母さーん、お姉ちゃーん!」
「追うぞ! みんな車に乗れ!」
翼竜は上昇しながらも、車の進行方向に向かって飛んでいく。すでに、声も届かない程の高さまで上昇していた。皆が車に乗ったのを確認して、俺はアクセルを踏み込む。
「リリィ、まだバギーを咥えているか?」
上空を見るために、リリィは車から身を乗り出していた。浩太も同じような姿勢を取っているが、こっちは、落ちないようにその腰をリコが捕まえている。
「だいじょ……あーー!」
「どうした!」
「バギーが落ちてきます!」
「お父さん、こっちに当たる!」
その声に、またもやフルブレーキ。
「わぁー」
リリィは、残念ながら吹っ飛んだが、浩太の体を必死にチコが抑える。
くそ、あの高さから落ちても無事なのか? こういう場合、守りの設定ってどうなるんだ?
ドッシャーン!
止まった車の20メートル先にバギーが落ちてきて、そのまま、小さな爆炎が上がる。タンクに引火したか……それを見て、俺は車から飛び出す。
「ユイカ! ひとえ!」
バギーの残骸はまだ燻っているものの、ガソリンが一気に爆発したようで、これ以上燃えるような気配は無い。見る限り、人らしき影は無い……
タタンー、タターン!
上空から銃声が聞こえる。まだ、上にいる! 上空を見上げると、翼竜がすぐ上を狂ったように旋回している。
タターン! タターン!
三連斉射の音が何度も響いた後、黒い小さな影が2つ、翼竜から離れた。
「お母さんとお姉ちゃんだ!」
その2つの影は空中で1つに重なり、そのまま落ちてくる。そこへ翼竜が猛追してくる。
「こっちに来た! 車の陰に隠れろ!」
子供達に声をかけ、俺はそのまま空を凝視する。落ちてくる小さな影はユイカを抱きしめているひとえだ。その後ろから、翼竜が……でかい……追いついてきて、その嘴で、二人を噛み……
バシュ!
その瞬間、翼竜の顔が爆散した。その血煙に紛れて状況がわからないまま、二人と1頭は地面に激突し、大爆発を起こした。とっさに俺も車の陰に飛び込み、飛んでくる小石や土ボコリを避ける。
----------
もうもうとした土煙は、数分ほど続き、ようやく視界が回復する。
「ひとえ! ユイカ!」
爆心地に向けて声をかけると、
「はーい!」
「大丈夫!」
声が聞こえて来る。
街道のすぐそばまで大きなクレーターが出来ていた。深さも10mくらいはある。その中心でひとえとユイカが手を振っている。特に怪我をしている様子もなく、服に綻びなども無いようだ。
「大丈夫かー」
それでも俺は声をかける。
「小銃がどっかに行ったー!」
「死ぬかと思ったー! ちょっと震えている、パパ、こっちまで来てー!」
「ああ、わかったー」
そのまま、クレーターの中に入るが、
「熱い! お前たち、大丈夫か? お父さんには無理だ、かなり熱い!」
「えー、平気だよー」
よく見てみると、二人の周りの地面がガラスのようになっている。
隕石が落ちた後のクレーターは、その中心部がガラス状になると聞いた事がある。ひとえとユイカが落ちる事で地面に与えた防御力のお釣りは隕石クラスという事か……
「奥様! ご無事で何よりです!」
クレーターに入っていけない俺の代わりにリリィがユイカを助けに行く。ひとえとリリィでユイカを抱え、なんとか登ってくる。クレーターの地面は熱を持って煙が上がっているが、3人とも何も感じないらしい。防御力には、熱耐性も含まれているって事なんだろうな。
しかし、洋服にも綻び一つ無いというのは便利だな……
「パパー」
道にまで戻り、ユイカが抱きついてくる。
「落とされた時、死ぬかと思ったー!」
俺の顔を見て、安心したのか、しがみつき、大泣きしている。
「さすがに、私も駄目かと思ったわ」
ひとえも、青ざめた顔をしている。そりゃそうだ、命綱なしでのバンジーだったし、高さも100m以上、あったんじゃないだろうか。
「バギーが噛み砕かれそうだったから、ユイカと二人で、なんとかあの怪獣の頭にしがみついたの。そのうちバギーを放り出してしまったから、どうしようもなくなって……小銃で傷つければ、少しでも低く飛ぶかなと思ったんだけど、振り落とされちゃった……」
上空でも、大変だったんだね、
「あの高さから落ちて助かる自信はさすがになかったから……さすがに、気分が落ち着くまで、休ませてもらってもいいかな……」
フラフラしているので、車の助手席に座らせ、椅子を倒す。
「私も休む」
しがみついていたユイカを、後部座席に寝かせる。
「少しだけ、ここで休憩しよう。チコは運転席に座ってなさい。リリィと浩太、ミントは俺と一緒に周囲を警戒しよう」
少しくらいであれば、次の目的地に到着するのにも影響は無いだろう……
イネスは、宿屋を出る際、また駅員のような格好に戻って見送ってくれた。状況に合わせて、いろいろと服装を変えているのかな。他の従業員の人は、ラフな格好の人も多いので、イネスの拘りなんだろうか。
「今度はゆっくり来ようね」
「そうだな」
ひとえと2人で顔を見合わせ、「この次」の約束をする。王都へ行き、聖地を確保していき、俺たちはこの世界での生活基盤を確立していけば、そういう機会もあるだろう。そのための、「この次」の約束だ。
サラマンカを出た俺たちは、次の目的地、タランコンへ向かう。
----------
「パパさん! 何か音がする!」
後部座席で浩太とチコに挟まれてノンビリしていたミントが警告を発する。俺は車の速度を緩めて、窓を開け、後ろを走るひとえに呼びかける。
「ひとえ、何かくるかもしれない。警戒してくれ!」
「わかった!」
攻撃を受ければ、確実に撃退可能なのだが、車やバギーが傷つくのは防ぎたい。そう打ち合わせをしていたので、ひとえが、走りながらユイカと運転を代わり、小銃を構える。先制攻撃で退却してもらえれば、それに越した事は無い。神達の言う通りなら、いくら魔物を倒しても経験値と言ったものは入らないので、時間の無駄だ。
「リリィ、浩太、チコ、何か見えたら言ってくれ」
「「「はい!」」」
ミントは聴力での早期警戒網、リリィ達が有視界の範囲で左右後方の警戒に当たってもらう。運転手の俺は、脇見運転を注意しながら、前方警戒。
「ミント、まだ音はするか?」
「車の走る音がうるさいから、はっきりとは解らないけど……」
「お父さん、右側には何もいない」
「タナカ様、左側は何もいません」
「救世主様、後方も同じです」
それぞれが報告してくれるが、何も引っかからない。
「ミント、音は?」
「消えた……かな……あれ……あっ! 来た! 真上!」
ミントの声に全員が上を見上げる。俺からは見えない。リリィが窓から身を乗り出し……
「奥様! 上です!」
後ろを走るひとえに教えるが……
「わー、奥様!!」
え、何が起こった??
バックミラーに映っていたバギーが突如消えた!。
「タナカ様、止まって!」
キキー!
慌てて、フルブレーキをかけてしまったので、少し後輪が滑ったが、何とか止まる。リリィは完全に止まる前に、窓枠に手をかけ外に飛び出し、上空を見上げた。俺も窓から上空を見上げると……
「そんな……」
浩太、リコ、ミントがドアを開けて車の外にでる。
「お母さん……お姉ちゃん……」
俺たちの目には、遥か上空で羽根を広げ飛ぶ、翼竜の姿と、その嘴らしき位置に加えられているバギーらしき影だった。まさにプテラノドンのようなシルエットだ。
「空飛ぶ魔物って、滅多に人里付近には出ないって……」
フェロル村からオーレンセに向かう途中でリリィに聞いていた話を思い出す。
「お母さーん、お姉ちゃーん!」
「追うぞ! みんな車に乗れ!」
翼竜は上昇しながらも、車の進行方向に向かって飛んでいく。すでに、声も届かない程の高さまで上昇していた。皆が車に乗ったのを確認して、俺はアクセルを踏み込む。
「リリィ、まだバギーを咥えているか?」
上空を見るために、リリィは車から身を乗り出していた。浩太も同じような姿勢を取っているが、こっちは、落ちないようにその腰をリコが捕まえている。
「だいじょ……あーー!」
「どうした!」
「バギーが落ちてきます!」
「お父さん、こっちに当たる!」
その声に、またもやフルブレーキ。
「わぁー」
リリィは、残念ながら吹っ飛んだが、浩太の体を必死にチコが抑える。
くそ、あの高さから落ちても無事なのか? こういう場合、守りの設定ってどうなるんだ?
ドッシャーン!
止まった車の20メートル先にバギーが落ちてきて、そのまま、小さな爆炎が上がる。タンクに引火したか……それを見て、俺は車から飛び出す。
「ユイカ! ひとえ!」
バギーの残骸はまだ燻っているものの、ガソリンが一気に爆発したようで、これ以上燃えるような気配は無い。見る限り、人らしき影は無い……
タタンー、タターン!
上空から銃声が聞こえる。まだ、上にいる! 上空を見上げると、翼竜がすぐ上を狂ったように旋回している。
タターン! タターン!
三連斉射の音が何度も響いた後、黒い小さな影が2つ、翼竜から離れた。
「お母さんとお姉ちゃんだ!」
その2つの影は空中で1つに重なり、そのまま落ちてくる。そこへ翼竜が猛追してくる。
「こっちに来た! 車の陰に隠れろ!」
子供達に声をかけ、俺はそのまま空を凝視する。落ちてくる小さな影はユイカを抱きしめているひとえだ。その後ろから、翼竜が……でかい……追いついてきて、その嘴で、二人を噛み……
バシュ!
その瞬間、翼竜の顔が爆散した。その血煙に紛れて状況がわからないまま、二人と1頭は地面に激突し、大爆発を起こした。とっさに俺も車の陰に飛び込み、飛んでくる小石や土ボコリを避ける。
----------
もうもうとした土煙は、数分ほど続き、ようやく視界が回復する。
「ひとえ! ユイカ!」
爆心地に向けて声をかけると、
「はーい!」
「大丈夫!」
声が聞こえて来る。
街道のすぐそばまで大きなクレーターが出来ていた。深さも10mくらいはある。その中心でひとえとユイカが手を振っている。特に怪我をしている様子もなく、服に綻びなども無いようだ。
「大丈夫かー」
それでも俺は声をかける。
「小銃がどっかに行ったー!」
「死ぬかと思ったー! ちょっと震えている、パパ、こっちまで来てー!」
「ああ、わかったー」
そのまま、クレーターの中に入るが、
「熱い! お前たち、大丈夫か? お父さんには無理だ、かなり熱い!」
「えー、平気だよー」
よく見てみると、二人の周りの地面がガラスのようになっている。
隕石が落ちた後のクレーターは、その中心部がガラス状になると聞いた事がある。ひとえとユイカが落ちる事で地面に与えた防御力のお釣りは隕石クラスという事か……
「奥様! ご無事で何よりです!」
クレーターに入っていけない俺の代わりにリリィがユイカを助けに行く。ひとえとリリィでユイカを抱え、なんとか登ってくる。クレーターの地面は熱を持って煙が上がっているが、3人とも何も感じないらしい。防御力には、熱耐性も含まれているって事なんだろうな。
しかし、洋服にも綻び一つ無いというのは便利だな……
「パパー」
道にまで戻り、ユイカが抱きついてくる。
「落とされた時、死ぬかと思ったー!」
俺の顔を見て、安心したのか、しがみつき、大泣きしている。
「さすがに、私も駄目かと思ったわ」
ひとえも、青ざめた顔をしている。そりゃそうだ、命綱なしでのバンジーだったし、高さも100m以上、あったんじゃないだろうか。
「バギーが噛み砕かれそうだったから、ユイカと二人で、なんとかあの怪獣の頭にしがみついたの。そのうちバギーを放り出してしまったから、どうしようもなくなって……小銃で傷つければ、少しでも低く飛ぶかなと思ったんだけど、振り落とされちゃった……」
上空でも、大変だったんだね、
「あの高さから落ちて助かる自信はさすがになかったから……さすがに、気分が落ち着くまで、休ませてもらってもいいかな……」
フラフラしているので、車の助手席に座らせ、椅子を倒す。
「私も休む」
しがみついていたユイカを、後部座席に寝かせる。
「少しだけ、ここで休憩しよう。チコは運転席に座ってなさい。リリィと浩太、ミントは俺と一緒に周囲を警戒しよう」
少しくらいであれば、次の目的地に到着するのにも影響は無いだろう……
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
100
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる