異世界にお引越し! - 訳あり物件でした -

でもん

文字の大きさ
76 / 78
第6章 Call your name

68.リリアナ・ヒメノ

しおりを挟む
「ママ、行くよ!」
「オーケー!」

 ひとえのトランシーバーからユイカの声が響く。
 ひとえが腕を上げると、外壁から王宮屋上へライトが当たる。

 その光で、リリィに気がついていなかった人々も、光の先で踊るリリィの姿に気がつく。やがて騎士が、兵士が、市民が、リリィだけを見つめ流ようになっていった。

「な、何だ、何をする気だ……おい! 止めろ! 止めろ!」

 マシアスが必死に叫んでいるが、音楽に打ち消され、誰も動かない。座り込んでいるファビオも顔だけを後ろに向け、歪んだ顔でリリィを凝視している。

「オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ!」
「これは……ユイカの声か?」

 今度は、曲のリズムに合わせ、ユイカの声が広場中、響き渡る。すると……

「「「「オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ!」」」」

 広場の中からも、複数の声がこれに応えるように広場中で響き始めた。

「こ、これは……」
「ロラさんのお父さんが抱える騎士団に協力してもらったの」

 そして……

♪ 
 さあ、立ち上がれ、今!


 広場中にリリィの声が響いた。この曲は確か……動画サイトの歌い手さんのアルバム曲? 娘が滅茶苦茶良い曲だからと無理矢理聞かされていた……確か……「Call your name」!



 遠く響く   鐘の音を背に
 君は歩く   いつも一人で

 流れる涙を  力に変えて
 さあここで  問いかけるんだ 

 一人じゃないさ、ほら

 Call your name, call your name to stand here.
 Because I believe that you still fight.

 Call your name, call your name to stand here.
 You, because I’m sure there is surely the force. I believe.


 アップテンポのリズムに乗って、リリィが歌い切る。間奏が続き…… 

「「「「オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ!」」」」

「お義父さん、私もやっていいですか?」
「いいよ」

 チコだけでなく、広場に集まっていた兵士や騎士、市民も声を出し始めた。

「これは……」
「ふふ、ユイカの作戦、成功!」

 ユイカのアイドル好き……役に立つじゃん!
 そして、間奏が終わり……


 出会い、別れ 繰り返す日々
 君は歌う  愛の歌を

 流れる涙よ   笑顔に代われ
 さあここで   届かせるんだ

 まだ、終わりはしない

 Call your name, call your name to stand here.
 Because I believe that you still fight.

 Call your name, call your name to stand here.
 You, because I’m sure there is surely the force. I believe.


 2番をリリィが歌った。するとリリィの両サイドに……

「あれは……ロラさんか! あと、フェロル村の子供達? え? エレナ? イネスさん?」
「そう、ユイカが集めちゃったの、多分、ギリギリまで特訓していたはず」

 バラバラと屋上の上に人が出てきて……リリィと一緒に、踊ってるねぇ……

「お義父さん、私も行きたい」
「いいわ、チコ。待ってなさい」

 ひとえが誰かに合図を送ると……巨漢の甲冑を着込んだ男が走ってやってきた。

「すみません、この子もお願いします」
「わかりました!」
「ユイカ、チコもそっちに行くわ! オーバー」
「オーケイ、間奏をつなぐね!」

巨漢の男はチコを抱き上げ、広場を迂回するように走って行った。

「今のは?」
「ロラのお兄さん」

 どうりで大きい。

 ダン!

 突然、音楽が鳴り止む。だが、すぐにユイカの声が広場に響きわたる。

「オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ!」

 その声に合わせて屋上にいた全員が頭上に手を挙げ、リズムをとって拍手をする……それはやがて広場中に拡がり、

「「「「オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ! オイ!」」」」

 熱狂的な叫びと拍手は、やがて群衆が一つの生き物にもなったような一体感を生み出した。

「チコ、到着! 最後、いくわよ!」

 ユイカの声がトランシーバーから聞こえ、音楽が再び始まった。屋上にチコが並び、リリィの横に立つ。

 それは、少しスローなテンポ。静かな音楽、そこに乗るリリィの囁くような歌声、両サイドに立つチコやロラ達は、拳を天に掲げ、リズムを取る。


 If not forget your dreams , 
 your voice will surely receive . 
 I also stand here , 
 I will continue to cry and believe in you


 そして、音楽は盛り上がり、リリィは叫び、拳を天に突き出す。


 さあ、立ち上がれ、今!

 Call your name, call your name to stand here.
 Because I believe that you still fight.

 Call your name, call your name to stand here.
 You, because I’m sure there is surely the force. I believe.


 激しく、そしてどこか切ないリリィの歌が終わり、音楽は後奏に入る。

「あなた、走るわよ」
「え?」

 俺は突然、ひとえに腕を掴まれ走らされた。俺を取り囲んでいた騎士は、腑抜けのように、全く動かない。走りながら、屋上を見上げるとリリィとユイカがこちらを見ている。

「ママ、降りるわ!」

 そう言って、リリィとユイカが飛び降りた。
 王宮の両サイドから、浩太のミントが寄ってくる。

 音楽が鳴り止み、静寂が戻る。

 飛び降りたリリィはすぐさま、玄関の正面に立ち、その後ろに俺たち家族が並んだ。目の前には女王陛下が立っている。リリィは一度振り返り、俺の姿を確認すると、静かに跪く。リリィの目は今までと違い、力強さが感じられる。

 そして、リリィは前を向き、静まり返った広場の隅々まで通るような大きな声で、高らかに宣言する。

「陛下、お待たせいたしました。リリアナ・ヒメノ、たった今聖地より救世主様を連れ戻りました!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ
ファンタジー
過労で倒れた社畜女子シオンの転生先は、まさかの魔王城。 無邪気に暴虐無人な上司(魔王)のもとで便利屋事務員としてドタバタな日々を過ごすうちに、寡黙な悪魔レヴィアスの思わぬ優しさに惹かれはじめていた。 ある日、突然変異したモンスターの暴走によって魔王城での生活は一変。 ーーそれは変異か、陰謀か。 事態を解明するために、シオンたちは世界各地で奔走する。 直面したことのない危険や恐怖に立ち向かうシオンは、それを支えるレヴィアスの無自覚で一途な愛情に翻弄されて……? 働くことでしか自分を認められないシオンが、魔王城で働く魔物たちの心をほぐしながら自分の価値を見つけていくファンタジーお仕事じれ恋ストーリー。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

処理中です...