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普通とは違う事情
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「騒々しくて申し訳ないね、茉優さん。仕切り直しといこうか」
人の姿に戻った狸絆さんが、タキさんに用意してもらった緑茶をひとつすすりながら笑む。
私の隣には、同じく人の姿に戻ったマオ。
タキさんはこの家で一番の年長者で、狸絆さんの乳母だったらしい。なので未だに二人揃って、頭が上がらないのだという。
やっとのことで話し合いの場を整えた私達は、マオに任せる形で、これまでの経緯を話した。
私には前世の記憶がないこと、それでも夢で繋がったこと。
仕事で危なかったところを助けられて、そのお礼も兼ねて、事情を説明に来たこと。
「待望の"嫁"だともてなして頂いたにも関わらず、ご期待に添えず、申し訳ありません。私にとっては、なにもかもが急な話でして……。マオさんと、婚姻を結ぶつもりはありません」
「……前世の記憶がないのだから、仕方のないことだろうね。マオは、受け入れたのかい?」
「受け入れるもなにも、事実は変えようがないだろ。それに、会えただけでも御の字だ。これからじっくり俺を知ってもらって、俺は今の茉優を知って。茉優が俺に惚れてくれてから、もう一度求婚すればいい。だったのに……親父のせいで、何段もすっとばしちまった」
「ふむ。けれどやはり、私達の素性については最初にお伝えしておくべきだと思うけれどね。種族が違うというのは、共に生きるにはあまりに重大な懸念事項だろう」
「それは……そう、だな。すまなかった、茉優。騙そうとしたわけではないんだ。ただその……あやかしだなんて言ったら、俺を知ってもらう時間さえもらえずに拒絶されるんじゃないかって……。それ自体が、俺の独りよがりだったな」
それこそ猫耳があったのならしょぼんと垂れているだろう表情に、私は苦笑して首を振る。
マオさんは表情豊かだし、感情に、素直だ。
「騙されたなんて思っていませんから、謝らないでください。"普通"と違うことを伝るのに慎重になる気持ちは、私も、分かるつもりです」
ここまで真摯に扱ってくれるのだから、私も誠意を尽くすべきだろう。
折り畳んだ膝上に乗せた両手に、ぐっと力を込め、
「私は、七歳の時に両親を事故で亡くしました。それからは祖母が育ててくれたのですが、その祖母も、十年前に。祖父は私が生まれる前に亡くなっていましたし、父方の祖父母はいないと言われていたので、今の私には、家族と呼べる人はいません。なので皆さまがあやかしだということは、誰にも話しませんので、ご安心ください」
「……そうだったのか。だから家族は大切にしたほうがいいって、一緒に来てくれたんだな」
そっと、私の掌にマオの手が重なる。
「俺達のことは、誰に話してもいいし、話さなくてもいい。……こうして出会えるまで茉優を支えてくれた人たちに、感謝しないとだな。茉優も、頑張ってくれて、ありがとう」
「っ、いえ」
私に両親が、家族がいないと聞いた人たちは、「可愛そうに」「大変だったでしょう」と憐んだ眼差しを向けてきたものだけれど。
マオは、マオだけが。皆に感謝をしなきゃって。頑張ってくれてありがとう、って。
私の家族を慈しんでくれた。私を、"可哀想な子"にしないでくれた。
「茉優が嫌じゃなければ、墓を参らせてくれないか? すぐにではなくていいから」
「あ……はい、マオさんさえ、よければ」
(……どうしよう)
重ねられた掌が、嬉しくて、心強い。
「話してくれてありがとう、茉優さん。……家族の話ということで、私からもいいかな」
狸絆さんは居住まいを正し、
「さっき『つづみ商店』の店主だって言ったけれど、私たちは現世の品を幽世に、幽世の品を現世の必要としている者に売るという商人でね。マオにも、随分前から携わってもらっている。ゆくゆくは、私の跡を継いでほしいと考えているのだけれど……。茉優さんには、どうかうちに嫁入りをしていただきたくて」
嫁入り。構えていた言葉に、背筋が伸びる。
狸絆さんはそんな私の緊張を悟ったように、目尻を和らげ、
「私の我儘なのは重々承知しているのだけれどね。けれど私はこの家の主だから、他の者たちも気にかけてしまうんだ。茉優さんからしたら、見知らぬあやかしの世界ゆえ苦労をかけるだろう。それでも、どうか二人で。互いに支え合いながら、この家の者たちを守っていってくれたらなら、こんなに嬉しいことはないと願ってしまうんだ」
静かに聞いていたマオが、「だから」と呆れたように口を開く。
「それはあくまで親父の願望だろ。何度も話したが、俺は茉優を、俺達の事情に縛り付けるつもりはない」
マオは私に、安心させるような笑みを向け、
「仕事は俺だけでも充分回せる。親父の立ち位置に俺がつくってだけで、他の仲間もいるワケだしな。だから茉優には無理してこちらの……あやかしの事情に付き合ってもう必要はないんだ。俺は茉優と一緒にいれれば、それでいい。婚姻を結んで夫婦になったとしても、茉優は茉優の選んだ生活をしてほしいと思っている。茉優には、幸せでいてほしい」
「マオさん……」
人の姿に戻った狸絆さんが、タキさんに用意してもらった緑茶をひとつすすりながら笑む。
私の隣には、同じく人の姿に戻ったマオ。
タキさんはこの家で一番の年長者で、狸絆さんの乳母だったらしい。なので未だに二人揃って、頭が上がらないのだという。
やっとのことで話し合いの場を整えた私達は、マオに任せる形で、これまでの経緯を話した。
私には前世の記憶がないこと、それでも夢で繋がったこと。
仕事で危なかったところを助けられて、そのお礼も兼ねて、事情を説明に来たこと。
「待望の"嫁"だともてなして頂いたにも関わらず、ご期待に添えず、申し訳ありません。私にとっては、なにもかもが急な話でして……。マオさんと、婚姻を結ぶつもりはありません」
「……前世の記憶がないのだから、仕方のないことだろうね。マオは、受け入れたのかい?」
「受け入れるもなにも、事実は変えようがないだろ。それに、会えただけでも御の字だ。これからじっくり俺を知ってもらって、俺は今の茉優を知って。茉優が俺に惚れてくれてから、もう一度求婚すればいい。だったのに……親父のせいで、何段もすっとばしちまった」
「ふむ。けれどやはり、私達の素性については最初にお伝えしておくべきだと思うけれどね。種族が違うというのは、共に生きるにはあまりに重大な懸念事項だろう」
「それは……そう、だな。すまなかった、茉優。騙そうとしたわけではないんだ。ただその……あやかしだなんて言ったら、俺を知ってもらう時間さえもらえずに拒絶されるんじゃないかって……。それ自体が、俺の独りよがりだったな」
それこそ猫耳があったのならしょぼんと垂れているだろう表情に、私は苦笑して首を振る。
マオさんは表情豊かだし、感情に、素直だ。
「騙されたなんて思っていませんから、謝らないでください。"普通"と違うことを伝るのに慎重になる気持ちは、私も、分かるつもりです」
ここまで真摯に扱ってくれるのだから、私も誠意を尽くすべきだろう。
折り畳んだ膝上に乗せた両手に、ぐっと力を込め、
「私は、七歳の時に両親を事故で亡くしました。それからは祖母が育ててくれたのですが、その祖母も、十年前に。祖父は私が生まれる前に亡くなっていましたし、父方の祖父母はいないと言われていたので、今の私には、家族と呼べる人はいません。なので皆さまがあやかしだということは、誰にも話しませんので、ご安心ください」
「……そうだったのか。だから家族は大切にしたほうがいいって、一緒に来てくれたんだな」
そっと、私の掌にマオの手が重なる。
「俺達のことは、誰に話してもいいし、話さなくてもいい。……こうして出会えるまで茉優を支えてくれた人たちに、感謝しないとだな。茉優も、頑張ってくれて、ありがとう」
「っ、いえ」
私に両親が、家族がいないと聞いた人たちは、「可愛そうに」「大変だったでしょう」と憐んだ眼差しを向けてきたものだけれど。
マオは、マオだけが。皆に感謝をしなきゃって。頑張ってくれてありがとう、って。
私の家族を慈しんでくれた。私を、"可哀想な子"にしないでくれた。
「茉優が嫌じゃなければ、墓を参らせてくれないか? すぐにではなくていいから」
「あ……はい、マオさんさえ、よければ」
(……どうしよう)
重ねられた掌が、嬉しくて、心強い。
「話してくれてありがとう、茉優さん。……家族の話ということで、私からもいいかな」
狸絆さんは居住まいを正し、
「さっき『つづみ商店』の店主だって言ったけれど、私たちは現世の品を幽世に、幽世の品を現世の必要としている者に売るという商人でね。マオにも、随分前から携わってもらっている。ゆくゆくは、私の跡を継いでほしいと考えているのだけれど……。茉優さんには、どうかうちに嫁入りをしていただきたくて」
嫁入り。構えていた言葉に、背筋が伸びる。
狸絆さんはそんな私の緊張を悟ったように、目尻を和らげ、
「私の我儘なのは重々承知しているのだけれどね。けれど私はこの家の主だから、他の者たちも気にかけてしまうんだ。茉優さんからしたら、見知らぬあやかしの世界ゆえ苦労をかけるだろう。それでも、どうか二人で。互いに支え合いながら、この家の者たちを守っていってくれたらなら、こんなに嬉しいことはないと願ってしまうんだ」
静かに聞いていたマオが、「だから」と呆れたように口を開く。
「それはあくまで親父の願望だろ。何度も話したが、俺は茉優を、俺達の事情に縛り付けるつもりはない」
マオは私に、安心させるような笑みを向け、
「仕事は俺だけでも充分回せる。親父の立ち位置に俺がつくってだけで、他の仲間もいるワケだしな。だから茉優には無理してこちらの……あやかしの事情に付き合ってもう必要はないんだ。俺は茉優と一緒にいれれば、それでいい。婚姻を結んで夫婦になったとしても、茉優は茉優の選んだ生活をしてほしいと思っている。茉優には、幸せでいてほしい」
「マオさん……」
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