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7.繋がる想い
(6)
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何だか今更ながらに申し訳なくなって、ちょうど四人分の紅茶を持ってきてくれた亮也に視線を向けてしまう。
「何? まさか俺の話をしてたのか?」
私の視線に気づいた亮也が、少し怪訝そうな表情を浮かべながら私のベッド脇にあるローテーブルに紅茶の乗ったお盆を置いて、お兄ちゃんの隣に腰を下ろす。
「ああ。快く“副社長”がここに住まわせてくれるって最初紗和には伝えてたけど、実はその“副社長”は紗和に下心がありました~ってな」
「なっ。別に俺はただ、困ってる紗和の力になりたかっただけで……」
ケラケラと悪戯っ子のように笑うお兄ちゃんと、少しムキになって言い返す亮也はまるで子どものようで、つい最近まで思い出すこともなかった昔の二人の姿に重なって何だかおかしかった。
特に亮也なんて、副社長として私に接していたときから、かなり砕けた表情を見せてくれるようになったし。
「まぁ、いいじゃない。結果、紗和ちゃんは亮也のことを思い出して、ハッピーエンドなんだから」
にらみ合う男二人を横目で見て、クールに言い放つのは課長……園美さんだ。
私の思い出した記憶によると、私は園美さんとは亮也と付き合い始めてから二、三回面識があったし、園美さんもそうだと言っていた。
今更“園美さん”って呼ぶのも気が引けたけれど、プライベートでは“課長”は嫌だと言われたので、昔呼んでいた記憶のある“園美さん”という呼び方で呼ばせてもらうことになった。
「そういえば園美、紗和に余計なこと吹き込んだだろ」
「何の話?」
「これだよ、これ。まだ何も思い出してなかった紗和に、誤解を与えるような言い方するなよな」
亮也が服の下に隠れているネックレスを取り出して、園美さんに見せる。
亮也の声も表情も、さっきお兄ちゃんとにらみ合っていたときとは比べ物にならないくらいに剣幕なものになっている。
「何よ。ちょっとからかっただけじゃない。だって紗和ちゃんったら、亮也のことを思い出しもしないくせに亮也に惹かれてるみたいだったから、ちょっと腹が立って……」
いつも秘書課の課長として自信に満ちた表情で仕事をしている園美さんの姿からは想像がつかないくらいに、弱々しい声だった。
でもそれも無理はないと思った。
園美さんは亮也のことが好きだって少し前に一緒にカレーを食べに行ったときに言っていたのだから。
創立記念パーティーのときに亮也と抱き合っていたのは、亮也をあきらめるためにお願いしたことなんだって……。
園美さんは、亮也やお兄ちゃんと同じように私の過去を知っていて、さらには亮也が私のことをずっと想っていてくれたことも知っていたんだ。
それをそばでずっと見てきた園美さんは、どれだけ辛かったのだろう。
そう思うと、私には園美さんを責められない。
「……気にしないでください! 園美さん、ずっと私が記憶を取り戻せなかったばかりに、たくさん傷つけてしまってすみません……」
私がそこで少し大きな声でそう告げると、園美さんは少し面食らったような表情をした。
「それも、私が記憶を取り戻すきっかけになったと思うので」
事故に遭いそうになったことは決していいことではないけれど、あのとき亮也の“大切な人”の存在に悩んで、ああいう展開を辿った結果、私は失っていた記憶を取り戻せたんだ。
もし園美さんからそのことを教えられていなかったら、私は今もまだ記憶を取り戻せていなかったかもしれない。
「そうなの? でも、私も大人げなかったわ。ごめんなさい」
園美さんが深々と私に頭を下げるのを見て、亮也も渋々納得したようだった。
「まぁ、そう落ち込むなよ。亮也の隣は埋まってるけど、俺の隣は空いてるだろ?」
少し落ち込んでいる風な園美さんを慰めるように彼女の頭に手を添えたのは、お兄ちゃんだった。
「何で私が渉と!?」
「どういう意味だよ。俺と亮也と高校生の頃から同じように三人で一緒に居たわりには、俺と亮也の扱い違うことないか?」
ぎゃいぎゃいと言い合う園美さんとお兄ちゃん。
あれ? もしかしてお兄ちゃんって、園美さんのこと好きなのかな?
何となく二人の言い合う姿を見て、そう思った。
昔のことを思い出して、以前よりもずっと私の人生に厚みが出たような気がする。
だけど、ひとつだけ疑問があった。
「何? まさか俺の話をしてたのか?」
私の視線に気づいた亮也が、少し怪訝そうな表情を浮かべながら私のベッド脇にあるローテーブルに紅茶の乗ったお盆を置いて、お兄ちゃんの隣に腰を下ろす。
「ああ。快く“副社長”がここに住まわせてくれるって最初紗和には伝えてたけど、実はその“副社長”は紗和に下心がありました~ってな」
「なっ。別に俺はただ、困ってる紗和の力になりたかっただけで……」
ケラケラと悪戯っ子のように笑うお兄ちゃんと、少しムキになって言い返す亮也はまるで子どものようで、つい最近まで思い出すこともなかった昔の二人の姿に重なって何だかおかしかった。
特に亮也なんて、副社長として私に接していたときから、かなり砕けた表情を見せてくれるようになったし。
「まぁ、いいじゃない。結果、紗和ちゃんは亮也のことを思い出して、ハッピーエンドなんだから」
にらみ合う男二人を横目で見て、クールに言い放つのは課長……園美さんだ。
私の思い出した記憶によると、私は園美さんとは亮也と付き合い始めてから二、三回面識があったし、園美さんもそうだと言っていた。
今更“園美さん”って呼ぶのも気が引けたけれど、プライベートでは“課長”は嫌だと言われたので、昔呼んでいた記憶のある“園美さん”という呼び方で呼ばせてもらうことになった。
「そういえば園美、紗和に余計なこと吹き込んだだろ」
「何の話?」
「これだよ、これ。まだ何も思い出してなかった紗和に、誤解を与えるような言い方するなよな」
亮也が服の下に隠れているネックレスを取り出して、園美さんに見せる。
亮也の声も表情も、さっきお兄ちゃんとにらみ合っていたときとは比べ物にならないくらいに剣幕なものになっている。
「何よ。ちょっとからかっただけじゃない。だって紗和ちゃんったら、亮也のことを思い出しもしないくせに亮也に惹かれてるみたいだったから、ちょっと腹が立って……」
いつも秘書課の課長として自信に満ちた表情で仕事をしている園美さんの姿からは想像がつかないくらいに、弱々しい声だった。
でもそれも無理はないと思った。
園美さんは亮也のことが好きだって少し前に一緒にカレーを食べに行ったときに言っていたのだから。
創立記念パーティーのときに亮也と抱き合っていたのは、亮也をあきらめるためにお願いしたことなんだって……。
園美さんは、亮也やお兄ちゃんと同じように私の過去を知っていて、さらには亮也が私のことをずっと想っていてくれたことも知っていたんだ。
それをそばでずっと見てきた園美さんは、どれだけ辛かったのだろう。
そう思うと、私には園美さんを責められない。
「……気にしないでください! 園美さん、ずっと私が記憶を取り戻せなかったばかりに、たくさん傷つけてしまってすみません……」
私がそこで少し大きな声でそう告げると、園美さんは少し面食らったような表情をした。
「それも、私が記憶を取り戻すきっかけになったと思うので」
事故に遭いそうになったことは決していいことではないけれど、あのとき亮也の“大切な人”の存在に悩んで、ああいう展開を辿った結果、私は失っていた記憶を取り戻せたんだ。
もし園美さんからそのことを教えられていなかったら、私は今もまだ記憶を取り戻せていなかったかもしれない。
「そうなの? でも、私も大人げなかったわ。ごめんなさい」
園美さんが深々と私に頭を下げるのを見て、亮也も渋々納得したようだった。
「まぁ、そう落ち込むなよ。亮也の隣は埋まってるけど、俺の隣は空いてるだろ?」
少し落ち込んでいる風な園美さんを慰めるように彼女の頭に手を添えたのは、お兄ちゃんだった。
「何で私が渉と!?」
「どういう意味だよ。俺と亮也と高校生の頃から同じように三人で一緒に居たわりには、俺と亮也の扱い違うことないか?」
ぎゃいぎゃいと言い合う園美さんとお兄ちゃん。
あれ? もしかしてお兄ちゃんって、園美さんのこと好きなのかな?
何となく二人の言い合う姿を見て、そう思った。
昔のことを思い出して、以前よりもずっと私の人生に厚みが出たような気がする。
だけど、ひとつだけ疑問があった。
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