イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希

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8.エピローグ

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 それから一週間後の週末の土曜日の朝。

 ようやく時間が取れたという亮也に連れられて、私は亮也の車に乗っていた。

 今日はうんとおめかししろよと前もって言われていたことから、今日はもしかしなくても亮也との記憶を取り戻してから初めてのデートということなのだろう。


 ここぞとばかりに、以前一緒に住み始めた頃に亮也が買ってくれた私の好みドンピシャのワンピースを着てみた。

 特別なときに着たらいいと亮也がアドバイスをくれた通り、今日は間違いなく特別な日だから。


 上品で可愛らしいワンピースはまさしくデートにぴったりで、私の手に戻ってきた日からずっと首もとについている亮也とペアのネックレスともよく合っていた。

 さすがにそのコーデに長年愛用していたコートはあまりに似合わなくて、本当は貯める予定だった給料の一部でコートを急いで新調したのは亮也には秘密だ。


 亮也の運転する車が高速道路の入り口に入ったあたり、今日は少し遠出をする予定なのだろう。


「どこに向かっているの?」

「それは着いてからのお楽しみ」


 運転する亮也の横顔に聞いてみるものの、どこか楽しそうにそう返される。

 気になるけど、あまりしつこく聞くのもなと思っていたところで、再び亮也が口を開いた。


「まぁヒントを言えば、紗和も知ってるところだよ」

「そうなの?」

「本当は紗和が記憶を取り戻してからすぐにでも行きたかったけど、仕事が立て込んでて行けなかったんだ。せっかくまたこうして恋人同士に戻れたのに、紗和には寂しい思いをさせてしまってすまない」

「いいよ。だって仕事が溜まってしまったのって、ほとんど私のせいだったんだし」


 実際のところ、意識をなかなか取り戻さなかった私につきっきりでいてもらったせいで亮也の仕事が立て込んでしまっていたと言っても過言ではなかった。

 最近は仕事に慣れてきたこともあり、以前よりもずっと亮也の副社長としての仕事を把握できている。

 亮也はそこまでしなくてもいいとは言ってくるけれど、やっぱり秘書としても亮也のことをちゃんと支えていきたい。


 ただでさえいつもよりも忙しかった先週。

 遅れた仕事を取り戻すだけでなく、今日こうして私と出かけられるようにと、亮也は余裕を持って仕事を片付けようと頑張っていたんだ。

 ここのところの亮也はほぼ毎日遅くまで残業して、家でも暇があれば書斎に籠っていた。


「仕事の遅れを取り戻すだけでも大変だったのに、今日、こうして時間を作ってくれてありがとう」


 だから、私はむしろそれだけ頑張って私をデートに連れ出してくれた亮也に感謝しているくらいだ。


「そう言ってもらえると、俺も頑張った甲斐があるよ。今日が紗和にとって特別な日になるといいのだが」


 車の中に流れているのは、私たちが学生時代に付き合っていた頃に流行っていた歌手のCDだ。

 実は同じ歌手が好きだったなんて記憶を取り戻すまでは知らなかったし、亮也も日頃はゆっくり音楽を聴いてるところを見なかったから気づけなかった。

 こうしてまた亮也との共通点を一緒に共有していけること自体、ものすごく幸せだ。


 耳に届く懐かしいメロディーに誘われるようにして、私はカバンの中に入れていた手のひらサイズのポケットアルバムを取り出した。

 そこには十年以上前の、私も亮也も高校生だった頃に撮った写真が収められている。

 私が記憶を取り戻してから亮也からもらったものだ。


 これは私たちの学生時代に撮った写真のほんの一部に過ぎず、大半は亮也の書斎の本棚に立っているアルバムの中に保管されている。


 私が亮也の家の家事を引き受けたとき、亮也の部屋と書斎の掃除を自分ですると言われた一番の理由は、そこに私との思い出を今も大切に保管していてくれたからなんだそうだ。

 私が掃除に入ったとき、万が一私が二人で写る写真を目にしてしまったら混乱させてしまうんじゃないかと亮也は懸念したらしい。

 まさか掃除の担当位置でさえ、そこまで考えて言われていたことだったなんて驚きだ。


 ポケットアルバムに入った写真に写る、まだあどけなさの残る二人の幸せそうな笑顔を一枚一枚見つめる。

 記憶を取り戻したとは言っても、私たちが学生時代に付き合ってたのはもう十年近く昔の記憶。

 大まかなことは思い出せたとはいえ、細かなところではもちろん思い出せてないこともたくさんあった。だから亮也がこんな風に写真をアルバムにして残してくれていたことを、本当に感謝している。


 写真を見てても思う。

 昔も今も、甲乙をつけ難いくらいに私は亮也のことが大好きだったんだなって……。

 そんな風に思いながら彼の方へと視線を移すと、不意に亮也がこちらを向いて目が合った。
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