53 / 59
8.エピローグ
(1)
しおりを挟む
それから一週間後の週末の土曜日の朝。
ようやく時間が取れたという亮也に連れられて、私は亮也の車に乗っていた。
今日はうんとおめかししろよと前もって言われていたことから、今日はもしかしなくても亮也との記憶を取り戻してから初めてのデートということなのだろう。
ここぞとばかりに、以前一緒に住み始めた頃に亮也が買ってくれた私の好みドンピシャのワンピースを着てみた。
特別なときに着たらいいと亮也がアドバイスをくれた通り、今日は間違いなく特別な日だから。
上品で可愛らしいワンピースはまさしくデートにぴったりで、私の手に戻ってきた日からずっと首もとについている亮也とペアのネックレスともよく合っていた。
さすがにそのコーデに長年愛用していたコートはあまりに似合わなくて、本当は貯める予定だった給料の一部でコートを急いで新調したのは亮也には秘密だ。
亮也の運転する車が高速道路の入り口に入ったあたり、今日は少し遠出をする予定なのだろう。
「どこに向かっているの?」
「それは着いてからのお楽しみ」
運転する亮也の横顔に聞いてみるものの、どこか楽しそうにそう返される。
気になるけど、あまりしつこく聞くのもなと思っていたところで、再び亮也が口を開いた。
「まぁヒントを言えば、紗和も知ってるところだよ」
「そうなの?」
「本当は紗和が記憶を取り戻してからすぐにでも行きたかったけど、仕事が立て込んでて行けなかったんだ。せっかくまたこうして恋人同士に戻れたのに、紗和には寂しい思いをさせてしまってすまない」
「いいよ。だって仕事が溜まってしまったのって、ほとんど私のせいだったんだし」
実際のところ、意識をなかなか取り戻さなかった私につきっきりでいてもらったせいで亮也の仕事が立て込んでしまっていたと言っても過言ではなかった。
最近は仕事に慣れてきたこともあり、以前よりもずっと亮也の副社長としての仕事を把握できている。
亮也はそこまでしなくてもいいとは言ってくるけれど、やっぱり秘書としても亮也のことをちゃんと支えていきたい。
ただでさえいつもよりも忙しかった先週。
遅れた仕事を取り戻すだけでなく、今日こうして私と出かけられるようにと、亮也は余裕を持って仕事を片付けようと頑張っていたんだ。
ここのところの亮也はほぼ毎日遅くまで残業して、家でも暇があれば書斎に籠っていた。
「仕事の遅れを取り戻すだけでも大変だったのに、今日、こうして時間を作ってくれてありがとう」
だから、私はむしろそれだけ頑張って私をデートに連れ出してくれた亮也に感謝しているくらいだ。
「そう言ってもらえると、俺も頑張った甲斐があるよ。今日が紗和にとって特別な日になるといいのだが」
車の中に流れているのは、私たちが学生時代に付き合っていた頃に流行っていた歌手のCDだ。
実は同じ歌手が好きだったなんて記憶を取り戻すまでは知らなかったし、亮也も日頃はゆっくり音楽を聴いてるところを見なかったから気づけなかった。
こうしてまた亮也との共通点を一緒に共有していけること自体、ものすごく幸せだ。
耳に届く懐かしいメロディーに誘われるようにして、私はカバンの中に入れていた手のひらサイズのポケットアルバムを取り出した。
そこには十年以上前の、私も亮也も高校生だった頃に撮った写真が収められている。
私が記憶を取り戻してから亮也からもらったものだ。
これは私たちの学生時代に撮った写真のほんの一部に過ぎず、大半は亮也の書斎の本棚に立っているアルバムの中に保管されている。
私が亮也の家の家事を引き受けたとき、亮也の部屋と書斎の掃除を自分ですると言われた一番の理由は、そこに私との思い出を今も大切に保管していてくれたからなんだそうだ。
私が掃除に入ったとき、万が一私が二人で写る写真を目にしてしまったら混乱させてしまうんじゃないかと亮也は懸念したらしい。
まさか掃除の担当位置でさえ、そこまで考えて言われていたことだったなんて驚きだ。
ポケットアルバムに入った写真に写る、まだあどけなさの残る二人の幸せそうな笑顔を一枚一枚見つめる。
記憶を取り戻したとは言っても、私たちが学生時代に付き合ってたのはもう十年近く昔の記憶。
大まかなことは思い出せたとはいえ、細かなところではもちろん思い出せてないこともたくさんあった。だから亮也がこんな風に写真をアルバムにして残してくれていたことを、本当に感謝している。
写真を見てても思う。
昔も今も、甲乙をつけ難いくらいに私は亮也のことが大好きだったんだなって……。
そんな風に思いながら彼の方へと視線を移すと、不意に亮也がこちらを向いて目が合った。
ようやく時間が取れたという亮也に連れられて、私は亮也の車に乗っていた。
今日はうんとおめかししろよと前もって言われていたことから、今日はもしかしなくても亮也との記憶を取り戻してから初めてのデートということなのだろう。
ここぞとばかりに、以前一緒に住み始めた頃に亮也が買ってくれた私の好みドンピシャのワンピースを着てみた。
特別なときに着たらいいと亮也がアドバイスをくれた通り、今日は間違いなく特別な日だから。
上品で可愛らしいワンピースはまさしくデートにぴったりで、私の手に戻ってきた日からずっと首もとについている亮也とペアのネックレスともよく合っていた。
さすがにそのコーデに長年愛用していたコートはあまりに似合わなくて、本当は貯める予定だった給料の一部でコートを急いで新調したのは亮也には秘密だ。
亮也の運転する車が高速道路の入り口に入ったあたり、今日は少し遠出をする予定なのだろう。
「どこに向かっているの?」
「それは着いてからのお楽しみ」
運転する亮也の横顔に聞いてみるものの、どこか楽しそうにそう返される。
気になるけど、あまりしつこく聞くのもなと思っていたところで、再び亮也が口を開いた。
「まぁヒントを言えば、紗和も知ってるところだよ」
「そうなの?」
「本当は紗和が記憶を取り戻してからすぐにでも行きたかったけど、仕事が立て込んでて行けなかったんだ。せっかくまたこうして恋人同士に戻れたのに、紗和には寂しい思いをさせてしまってすまない」
「いいよ。だって仕事が溜まってしまったのって、ほとんど私のせいだったんだし」
実際のところ、意識をなかなか取り戻さなかった私につきっきりでいてもらったせいで亮也の仕事が立て込んでしまっていたと言っても過言ではなかった。
最近は仕事に慣れてきたこともあり、以前よりもずっと亮也の副社長としての仕事を把握できている。
亮也はそこまでしなくてもいいとは言ってくるけれど、やっぱり秘書としても亮也のことをちゃんと支えていきたい。
ただでさえいつもよりも忙しかった先週。
遅れた仕事を取り戻すだけでなく、今日こうして私と出かけられるようにと、亮也は余裕を持って仕事を片付けようと頑張っていたんだ。
ここのところの亮也はほぼ毎日遅くまで残業して、家でも暇があれば書斎に籠っていた。
「仕事の遅れを取り戻すだけでも大変だったのに、今日、こうして時間を作ってくれてありがとう」
だから、私はむしろそれだけ頑張って私をデートに連れ出してくれた亮也に感謝しているくらいだ。
「そう言ってもらえると、俺も頑張った甲斐があるよ。今日が紗和にとって特別な日になるといいのだが」
車の中に流れているのは、私たちが学生時代に付き合っていた頃に流行っていた歌手のCDだ。
実は同じ歌手が好きだったなんて記憶を取り戻すまでは知らなかったし、亮也も日頃はゆっくり音楽を聴いてるところを見なかったから気づけなかった。
こうしてまた亮也との共通点を一緒に共有していけること自体、ものすごく幸せだ。
耳に届く懐かしいメロディーに誘われるようにして、私はカバンの中に入れていた手のひらサイズのポケットアルバムを取り出した。
そこには十年以上前の、私も亮也も高校生だった頃に撮った写真が収められている。
私が記憶を取り戻してから亮也からもらったものだ。
これは私たちの学生時代に撮った写真のほんの一部に過ぎず、大半は亮也の書斎の本棚に立っているアルバムの中に保管されている。
私が亮也の家の家事を引き受けたとき、亮也の部屋と書斎の掃除を自分ですると言われた一番の理由は、そこに私との思い出を今も大切に保管していてくれたからなんだそうだ。
私が掃除に入ったとき、万が一私が二人で写る写真を目にしてしまったら混乱させてしまうんじゃないかと亮也は懸念したらしい。
まさか掃除の担当位置でさえ、そこまで考えて言われていたことだったなんて驚きだ。
ポケットアルバムに入った写真に写る、まだあどけなさの残る二人の幸せそうな笑顔を一枚一枚見つめる。
記憶を取り戻したとは言っても、私たちが学生時代に付き合ってたのはもう十年近く昔の記憶。
大まかなことは思い出せたとはいえ、細かなところではもちろん思い出せてないこともたくさんあった。だから亮也がこんな風に写真をアルバムにして残してくれていたことを、本当に感謝している。
写真を見てても思う。
昔も今も、甲乙をつけ難いくらいに私は亮也のことが大好きだったんだなって……。
そんな風に思いながら彼の方へと視線を移すと、不意に亮也がこちらを向いて目が合った。
15
あなたにおすすめの小説
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる