空に想いを乗せて

美和優希

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第1章

胸のドキドキと現実 (2)

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「うぉーっ!! すげー!! これ、委員長の手作り?」

「え? うん。って言っても、ほとんど朝ごはんの取り置きを詰めただけだよ。私の家、お父さんもお母さんも仕事でバタバタしてて、私が朝ごはん作ってるんだよね。妹もいるから、自分だけ適当に済ませるわけにもいかなくて」

「え、マジで? 無茶苦茶大変じゃん」 

「もう慣れたよ。まだ妹、五歳なんだけど、赤ちゃんの頃から比べたらずっと面倒見るの楽になったし」


 奈穂が生まれて、育休が終わるまではお母さんは奈穂に付きっきりで世話できたけど、育休が終わったらそうはいかないらしい。

 まだ奈穂が赤ちゃんの頃は保育園に預けていたものの、その保育園は家からもお母さんの職場からも離れていた。

 そのため奈穂が幼稚園に通う年になってからは、家の近所の幼稚園が延長保育を受けていることもあってそちらに移ったのだけど、それからは奈穂を幼稚園へ送り迎えするのは私の役割になってしまったのだ。

 せめてもの救いは、奈穂の幼稚園では給食が出るため、奈穂のお弁当は作らなくて良いことくらい……。



「でもさ、委員長、それで勉強もちゃんとして、委員長の仕事もちゃんとやってヤバくね?」

「そんなこと言ってくれるの、柳澤くんが初めてだよ」


 私は、やらなきゃいけないことをただやってるだけだもん。

 そんな褒められるようなところなんて……。



「そうか? まぁ、役に立つかわかんねーけど、俺でも手伝えることあったら、何でもやるから言ってな」


 それでも、そんな頼もしい言葉をもらえると、心に温かい光がほんのり灯ったように感じた。

 ドキドキと加速する心音。

 ドキドキしちゃ、いけないのに……。


「ところでさ、それ何?」

 柳澤くんがひょいと私のお弁当を覗き込む。


「あ、これ? タコさんウインナーだよ? 妹の奈穂がこれを作ると喜ぶんだ!」

「へぇ。すげぇな、何気に初めて見た」

「そうなの?」


 タコの足をイメージして切り込みを入れて茹でたウインナー。

 私の中ではわりと定番のおかずだったから、柳澤くんの反応には驚いた。



「あはは、そんなに驚かれるくらいメジャーなものなの?」

「いや、そういうわけでは……」

「まぁ、いいや。よかったらそれ、ひとつちょうだい?」


 柳澤くんは、私がお箸でつかんでいたタコさんウインナーを指さした。



「え?」

「委員長の手作りのタコさんウインナー、食べてみたい! もちろん、タダでとは言わないから。俺のこのウサギパンと交換しよ?」


 そう言って、柳澤くんが傍に置いてあったコンビニの袋から取り出したのは、可愛いウサギの形をしたパンだった。



「え、そんな。悪いよ! タコさんウインナーくらい、普通にあげるし」


 だってタコさんウインナーとは言っても、タコの形に切った、ただのウインナーなんだし……。



「やったっ! じゃあ、もーらいっ」


 嬉しげにそう言って、ぱくりと私のお箸につかまれたタコさんウインナーを食べた柳澤くん。

 ほんの一瞬の出来事だったけど、体が触れ合った部分が熱い。



「すっげぇ、美味い! さっすが、委員長のタコさんウインナー!!」


 ただのタコの形に切っただけのウインナーに大げさに喜ぶ柳澤くん。

 嬉しいような、恥ずかしいような……。


 だけど、お弁当の続きを食べようとして、ハッと気づく。

 このお箸で食べると、必然的に間接キスだよね……?


 だけど、そんな心配をしてたのは、私だけだったみたいで……。



「あ、もしかして、本当はタコさんウインナー俺が食べたの嫌だった? これ、委員長用に買ったやつだから、遠慮なく食べて」


 私が間接キスになると思って、いつまでもお箸をジッと見つめていたからだろう。

 そう言って、ウサギパンを押し付けるように私に差し出してくる柳澤くんに、思わず笑ってしまった。


 すると、柳澤くんも恥ずかしそうに大きな声で笑った。


 柳澤くんとこうやって一緒に過ごすのはまだ二日目だというのに、不思議と私の中で、彼の存在が大きくなっていくのを感じていた。
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